第10話 戦闘時に言いたい台詞


 明日から使える異世界で役立つ英会話




 戦闘。見せ場ですね。ガチでいっちゃいましょう。いかに戦うか、ではなく、いかに勝つか。それによって異世界転生者の価値が変わってきます。

 とりあえず日銭を稼ぐため、異世界での生活の足場作りに、冒険者としてギルドに登録して依頼を受けます。あるいは「新たなワールドオーダーを」をモットーに世界の支配を夢見る新魔王として勇者狩りに勤しむのもいいでしょう。目的達成のためにも、ド派手な戦闘シーンは欠かせませんね。


 実際のところ、リアルな戦闘ってどんなんでしょうか。ファンタジーRPGの世界観と言えども、リアルはやっぱりリアルです。たとえ最弱の雑魚モンスターでもガチで攻撃されたらたぶんとても痛いです。転生前の職業がニートであったり社畜であったり、どちらにしろ一瞬で心をへし折られることでしょう。でも、どうかご安心を。あなたは最強異世界転生者なんです。無敵転生無双です。俺最TUEEEです。あなたという存在そのものがファンタジーなんです。ファンタジーは何でもありなんて風潮があります。物理法則なんて無視しちゃって戦闘を存分に楽しんでやりましょう。戦闘中、もしくは戦闘前後にカッコつけてみたくはありませんか?




・戦闘時に言いたい台詞




 Lesson 1




 Did I make a mistake again?


「また俺何かやっちゃいましたか?」




 小さな村の近くにある洞窟にゴブリンどもが巣食った、との情報がありました。その実態調査と駆除の依頼です。あなたが参加したまだ若く少々自信過剰気味なパーティは意気揚々と洞窟へ向かいました。そして到着するや否やあなたの無慈悲な魔法攻撃です。一撃で洞窟崩壊、周囲の生態系絶滅、10年先まで草も生えない土地になりました。さあ、言ってやりましょう。俺、やっちゃいました?


 これはシンプルにして実に高度な煽り文句です。make a mistake で間違いを犯すという意味に取れますが「やっちゃいました?」という軽い表現の裏に「次はおまえがこうなる番だ」という無言のプレッシャーが隠されています。しかも again が初犯ではないことをほのめかしています。同じ過ちをナチュラルに二度三度とやっちゃうよ、と凄まれれば、もうあなたに逆らう者は誰一人いないでしょう。




 Lesson 2




 If I had a nickel for every time some pos pointed a gun at my head , I would be a rich man.


「銃を向けられる度に5セントもらっていたら今頃大金持ちだぜ」




 あなたはチート利権を発動させるため、まずは塩の買い占めから始めました。お料理に塩を使う概念がなかった世界ですので、買い占めはあっさり完了します。元々この世界ではスライム退治にしか塩の使用方法を知らず、それが買い占められたためにスライムが大繁殖してしまいます。それにブチギレたのが勇者様ご一行です。経験値稼ぎにもならないスライム退治しか仕事がなくなってしまいます。場末のアイテムショップにて、まさに塩を買い占めていたあなたと遭遇してしまいます。勇者様はあなたに剣を向けます。さあ、まるで自分語りでもするかのように、クールに決めてやりましょう。


 この台詞の nickel とは素材ではなく5セント硬貨の愛称です。いかにもアメリカンなセンスですね。はて、ここは異世界、ファンタジーRPGの世界観なはず。5セント硬貨やら銃やら。いいんです。英会話って奴は勢いと雰囲気と度胸の賜物です。経験上、文法がめちゃくちゃでも勢いでだいたい通じます。意外となんとかなっちゃうもんです。このミッキーでロークな台詞は異世界で最重要なセンテンスです。一日20回は口ずさみ、完璧に暗記しましょう。いつかきっと役に立ちます。




 Lesson 3




「There is good news and bad news. Which one do you want to hear first?」

「Don’t talk any more , You irritate me.」


「いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

「もう喋るな。イラッとくる」




 戦闘中、物陰に隠れてこう呟くとけっこう余裕ありそうに思えたりします。でもこんな時って、大抵どちらもバッドニュースですよね。バッドニュースか、もっとバッドニュースか。あなたはトイレを我慢すればするほど魔力が上がる能力者です。グッドニュースは「魔力が高まってきた」で、バッドニュースは「トイレ行きたい」ってとこでしょうね。実際、真剣に話を聞いている時にこういう言い回しをされると本気でイラつくものです。積極的に日常会話の中に取り込んでやりましょう。


 There is は自然発生的な表現です。ニュースがそこで発生したというニュアンスがあります。I have good news と表現するとニュースを持ってきたぞ、と自分がニュースの発生源であり、同時に責任も発生しがちです。相手をよりムカつかせたい場合は I have と表現しましょう。異世界で出会ったあなたのたった一人の理解者である森の美少女も、あなたの取り扱いに慣れてきたようですし。

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