第8話 働きましょう!


 明日から使える異世界で役立つ英会話




 仕事したくありませんか! ありません! 奇遇ですね。私もです! ハイ、というわけで、今回のカクヨム講座『異世界英会話』終わり! また来週!




 と、いかないのが社会人のつらいところです。たとえ毎日の会社勤めが辛くて逃げ出したくとも、そんな生ぬるいことは言ってられません。働かざる者食うべからずってワールドオーダーがあなたの手枷足枷となっているのです。そしてそれは異世界でも同じこと。せっかく一山当てようとトラックガチャを回して掴んだ異世界転生ですが、現実って奴はそう優しくはないのです。


 でも、ご安心を。異世界でも救いの手は差し伸べられます。異世界のハローワーク、いわゆる「ギルド」があるじゃありませんか。冒険者組合だの協会だの中世なくせにやけにソーシャルでシステマティックな組織ですが、利用しない手はありません。冒険者が組合に参加するだなんて本末転倒も甚だしいですが、ギルドに関する英会話はまた後日レッスンしましょう。いつ働くか? 今でしょ! Now , Do it! Do or die! 意味は「ヤるか殺られるか」ってとこですよ。




・異世界で働きましょう




 Lesson 1




「I want to join your guild , What should I do?」

「If so , An enrollment test is required. Please kill three Pink-Grizzly-Bears.」

「If that target , I just hunted everything. Sorry.」

「Wh , What did you say!?」

 

「こちらのギルドに入りたいんですけど、どうすればいいですか?」

「でしたら、入会テストが必要です。桃灰色熊を三頭倒してきてください」

「そいつなら、さっき狩り尽くしちゃったみたいです。ごめんなさい」

「な、なんだって!」




 ハイ、異世界あるあるですね。もはや様式美ですらあります。本来ギルドとは封建的階層原理に基づく同業他社との共存共栄を目的とした組織であり、閉鎖性の強い非常に保守的な利権団体です。どこの馬の骨とも知れぬ異世界転生者をほいほいと仲間にしたりはしませんって。入会テストと称し、クリア不可能な無理難題を提示していじめてきます。


 ところが、こちらはLv.Max最強異世界転生者です。原住民どもにとっては即死級のモンスターであろうとも経験値稼ぎの雑魚扱いするほどの見習い冒険者です。I just hunted と軽い表現であっさりとミッションクリアしてみせましょう。最上級の謝罪の意を表す sorry を語尾にそっと付け加えて、謙虚さをエレガントに叩きつけてやることも忘れずに。きっといい仕事にありつけるはずです。




 Lesson 2




「It is not Mela-zoma. Mela.」

「Good grief. I teach you the word “ efficiency “ .」

「……what?」

「Mela reduce 2pts MP and increase 10pts Damage , Fire 10 turns. Mela-zoma reduce 30pts MP and increase 150pts Damage in 1 turn. which do you choose?」


「今のはメラゾーマではない。メラだ」

「やれやれだ。効率って奴を教えてやるよ」

「……なん、だと?」

「MP2消費して12ダメージ与えるのを10ターン撃たなければならないメラ。MP30消費するが150ダメージを1ターンで発生させるメラゾーマ。おまえはどっちを選ぶ?」




 ハイ、大魔王あるあるですね。極大魔法、と見せかけて初期魔法を放つ。しかもそれを自分で説明しちゃう。物凄い魔力を内包していると誇示するためとは言え、イキってますね。きっと澄ましたドヤ顔で言い放ったことでしょう。ドヤ顔でイキって舐めプする。ハイ、負けフラグ立ちまくりですね。めんどくさいマンチキンっぷりを示しつつ、どちらが上か、この際ハッキリさせましょうか。


 Good grief の代わりに I was amazed. (ああ、驚いた)と素直に表現してもいいでしょう。相手を賞賛する含みがある言い回しです。決して小馬鹿にはしてませんよ? 最上の能力を小出しにしていてはまったく意味がありません。常に全力でドヤ顔して、全力でイキリ倒して、全力で舐めプしてやりなさい。それが最強の名を冠する者のサダメです。ハイ、これで魔王軍を支配下に置きましたね。いい仕事をしてくれるでしょう。




 Lesson 3




「There is a very beautiful goddess in the toilet. I am excited very much.」

「I don’t know what you are saying.」

「The toilet is calling me.」

「Never come back.」


 in the toilet


「I never want to work……!!」


「トイレには女神様がおるんやで。興奮してきたな」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「トイレが俺を呼んでいる」

「二度と戻ってこないでちょうだい」


 トイレにて


「働きたくないよう……!!」




 ほんと、なんでトイレに女神様がいるんでしょうね。おちおちトイレにも行けません。せっかく荒んだ精神と肉体のブラックボックスを解放しているのに。黙って見ているんですか、あなたは。場合によってはお金取りますよ。人によってはお金を支払ってでも見ていてほしいんでしょうが、もう、ちょっと何を言ってるのかわからない。


 never は強い否定を表現します。I want to go toilet. という原始の欲望でさえ、never の前では never want to という感じに「したくないッ」と自然欲求すら全否定してしまいます。でも働きたくないとトイレで泣いたところで、働かなければごはんは食べられないんです。はて? あなたはトイレを我慢すればするほど強力な魔力を得られるスキルホルダーでしたね。チート利権の匂いがしてきましたよ。

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