第4話 森で美少女を助けたとき


 明日から使える異世界で役立つ英会話




 さて、可愛いの基準って何だと思いますか?


 突然放り出された異世界の森の中。東も西もわからない迷子なんてぬるいレベルじゃあありません。生命の危機すら予感させるガチの遭難状態です。


 いったいここはどこなんだ、と周囲の森を見渡せど、何の情報すら得られない過酷な環境。見たこともない奇妙な形をした植物群。いかにも毒々しい濁った色した実がぶら下がった樹木(実はすごく美味しい果物だったりするパターンもありますよね)。肉食か草食かも判別できない奇天烈な姿をした家畜っぽい動物と、眩ゆいばかりの美少女。と、まあ、そんな具合に相場は決まってます。


 何とか情報を得られそうなのはその美少女のみ。当然コンタクトを取りますよね。だって美少女ですもん。しかし、ただの美少女ではありません。彼女は何者かに追われているかもしれません。不可解にも向こうから助けを求めてくる場合もあります。美少女がいきなり襲いかかってくる可能性も捨てきれません。さあ、異世界の物語が動き出します。だって美少女ですもん。


 さて、可愛いの基準って何だと思います? そうです。常軌を逸したシチュエーションならば出会った瞬間に恋に落ちてしまうものなんですよ。たとえ相手が家畜であっても、ね。




・森で美少女を助けたとき




 Lesson 1




 I am not sure, I seem to have helped her apparently. Is this okay?


 何だかよくわかんないけど、助けちゃったみたいだな。これでいいんだよな?




 見知らぬ森に深く迷い込んだとき、不思議な雰囲気をまとった美少女と出会ったら、それはフラグです。速攻で立てましょう。


 その姿がケモノ風であったり、あるいは異形の姿をしていても積極的に首を突っ込むのがいいでしょう。もはやデフォルトです。様式美です。


 注意点はあくまでも独り言であるというスタンスでつぶやくことです。それだけで凶悪なほどの攻撃力を誇示していようとも人畜無害感を演出できます。




 Lesson 2




 Too bad! I might be late for the morning meeting. Oh, It is an another world, So it is not important to be late for work.


 まずいな。朝礼に遅れちまう。あ、ここは異世界なんだからもう会社に遅刻しようが関係ないか。




 社畜。それは誇り高き獣。社畜。それは爪も牙もある下僕。社畜。それは完全なる不完全者。異世界人にとって馴染みのない「サービス残業」や「直筆タイムカード」など社畜ワードを散りばめて、わざとらしく異世界人アピールするのもいいでしょう。


 大丈夫! たとえスーツにネクタイといったビジネスマンな格好でも、異世界転生ならではの桁外れの魔力は貴重な戦力として歓迎されるでしょう。きっと温かい食事と柔らかい寝床をゲットできるはず。


 Lesson 1と違って、いかにも独り言であるというスタンスでありながら相手の目を見ながら叫んでみましょう。美少女が思わず引くくらいのファーストコンタクトが後々効いてきますって。




 Lesson 3




 Anybody here? Is anybody there? What is that, Am I alone in another world?


 誰かいないか? 誰かいませんか? なんてこった、異世界でも俺はぼっちかよ。




 ああ、ええと、人は誰しも独りで死ぬんです。そればっかりは、もう、ねえ。次の転生先でも頑張ってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る