第30話


「なあ、ギルド出たあたりから俺たちのことつけていたよな?」

 最初のうちは気のせいかと思って、いつもどおりに行動をしていたユウマとリリアーナだった。

 しかし、いつまでたってもついてくるので隙をついて逃げられないような状況で声をかけた。


「い、いえ! その、違います! 気のせいです! 同じ方向なだけなんです! 僕はあっちに行きたいのです!」

 まくしたてるように今までやってきた方向を指さして、そんなことをのたまうハゲ男。


「じゃあ、俺たちはあっちに行くけど……ついてくるなよ?」

 ユウマは言い切るようにきっぱりとそう言うと全く別の方向に向かおうとする。


「あ……ちょ、ちょっと! ちょっと待って下さい」

 先ほどまでは関わろうとしなかったのに、ハゲ男はいきなり慌てて二人を止めた。


「なんだ?」

「いえ、その……ええい!」

 煮え切らない返事をしようとしたハゲ男だったが、このままでは話が進まないと思い覚悟を決める。


「あ、あの! あなたたち、ギルドの二階から来ましたよね?」

 彼はユウマたちがギルドマスターと共に二階に行ったところから見ていたようだ。


「まあ、そうだけど」

「ですよね! ということはギルドマスターに力を認められた凄腕の冒険者ですよね!」

 決めつけた言い方のハゲ男にユウマは首を傾げる。


「確かに俺たちは上の部屋に行ってたけど、それが力のある冒険者って結論にはならないんじゃないか?」

 問題があって呼びだされた可能性もあるため、ユウマはそんなことを口にする。


「いや、僕の目に間違いはありません!」

 ユウマの疑問に対して、ハゲ男は自信満々に断言した。


「どういうことだ?」

「ぼ、僕は臆病なんです!」

 これまたハゲ男は唐突に謎な宣言をし、ユウマとリリアーナは首を傾げている。


「臆病だから、色々な人を観察してるんです! 誰が強いのか誰が弱いのか、誰が怖いのか優しいのか、それを続けていたら、それを感じ取れるようになったんです!」

「つまり?」

「つまり……お二人はかなり強くて、そして優しい!」

 近くでは人が行きかっている。そんな場所で、巨漢のハゲ男がそんなことを大きな声で宣言する。


「ぷっ……ははははっ!」

「ちょ、ちょっとそんなことを大きな声で! は、恥ずかしいじゃないですか!」

 ユウマは思わず笑いだし、リリアーナは赤くなる顔を押さえながら満足そうな顔をしているハゲ男を注意する。


「えっ? だ、ダメでしたか?」

「いや、ははははっ! いいと思うぞ、あんなおどおどしていたやつが、あんなに自信満々に言い切ったのを見るとむしろ清々しいくらいだよ」

 ユウマはきょとんと立ち尽くす男のことを気に入ったらしく、笑いながら彼の背中をバシバシと叩いていた。


「あー、面白いな。だが、まあリリアーナの言うとおり、往来で話すようなことでもないか。どっかの店に入って何か食べながら話をしようか――おごってくれるんだろ?」

 ユウマが軽い調子で話す。面白いものを見つけたといった表情をしていた。


「も、もちろんです! いい店を知っているので行きましょう! どうぞ、こちらへ!」

 話を聞いてもらえるとなったハゲ男は喜び勇んで、先に歩きだして店へと案内する。


「……いいんですか?」

 心配そうな表情でリリアーナが質問する。

 後をつけて来た、謎の大男。その彼の話を聞くことに彼女は慎重になっている。


「まあ、いいんじゃないか? 俺たちなら多少の問題があっても乗り越えられるし、いざとなったらギルドマスターを頼ればいいさ」

 ユウマはこれから何かが起こるかもしれないという期待感を込めて笑顔で彼のあとをついていく。

 いまだリリアーナは慎重な構えではあるが、ひとまずはユウマのあとを追う。


 そして、大男が足を止めたのは一軒のカフェだった。


「ここです、中に入りましょう! こんにちは!」

 ここは彼にとってなじみの店であるため、おどおどした様子はなく元気に挨拶をしている。


「あらボブス君、いらっしゃい。あらあら今日はお友達と一緒なの?」

 ウエイトレスの女性がハゲ男のことをボブスと呼び歓迎する。


「あ、あはは、友達っていうのとはちょっと違うんだけど、ちょっと頼みごとがあって……」

 そう言うとボブスはチラッとユウマたちに視線を送る。


「なるほど……わかったわ。それなら、奥の個室を使いなさい。あんまり人に聞かれたくないことなんでしょ?」

「ありがとう! さ、さあお二人ともこっちにお願いします!」

 ウエイトレスはユウマたちに軽く会釈するとメニューを取りに行き、ボブスは二人を個室へと案内する。


 個室には、大きめのテーブルが一つと椅子が六脚用意されている。

 普段は予約専用の部屋だったが、珍しい状況であることからウエイトレスかつ店長である彼女の判断で使用を許可してくれた。


「ど、どうぞお座り下さい。……はっ! そういえば名乗ってませんでしたね。僕の名前はボブスといいます。こう見えて、ただのパン職人です……」

 こう見えて、の使い方が想定のものと違うため、ユウマは思わず笑いそうになる。


「こう見えて実はすごいってのならよく聞くけど、くっく、まさかただのパン職人ですなんて使い方をするなんてな――ボブス、あんたやっぱ面白いな!」

「……え? ははっ、よ、喜んでもらえたなら幸いです」

「ふふっ、面白い方ですね」

 リリアーナもここまでくるとボブスに裏がないことを感じ、悪いものではないと思いつつあった。


「俺の名前はユウマ、彼女の名前はリリアーナ」

 ユウマの紹介にリリアーナも軽く頭を下げる。


「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうか」

 ここから話は本題に入ることとなる。



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