第29話


 二人は再びギルドマスタールームへと移動して、そこでもろもろの手続きを行った。


 一つは、ダンジョンに入場できるように。

 二つ目は、この街で活動するように特別な冒険者カードを支給する。


 このカードを所有していることで、この迷宮都市グランドバイツの一員として認められることとなる。

それによって仮に他の国の兵士が二人を見つけたとしても、おいそれと手を出すことができなくなる。


「ありがとう、助かるよ」

「ありがとうございます」

 ユウマとリリアーナは対応してくれたマリアスに礼を言うと部屋をあとにして、階下へと移動する。




 二人の足音を遠ざかっていったところで、ふっと息をついたマリアスはソファに腰掛ける。


「――すごいお二人でしたね……」

「うむ。かなりの使い手じゃった。しかし……異世界からの召喚者とはのう。まさかそんなに大勢を呼び出す国があるとは思わんかった。魔王を倒すためだけならまだしも、ユウマの暗殺まで企てるとなると……少し調査が必要じゃな」

 顎に手をやりながら心配そうにつぶやくタイグルに、真剣な表情のマリアスは力強く頷く。


 もし、勇者たちが国に協力して他国に敵対をした場合、世界の情勢が大きく変わるのは容易に想像ができた。

 

 そのあとタイグルとマリアスはしばらく今後の対応について意見を交わした。





「さあって、とりあえずは街の観光といこうか」

「ですね!」

 一方の二人はマリアスたちがそんなことで頭を悩ませているとは露知らず、再び街へと出ていった。


「にしても、広い街だよなあ。今後の為にも色々な店の場所を知っておかないとなのと、ここを拠点にするとしたらゆくゆくは住む場所も用意できないとだ」

 ユウマはキョロキョロと立ち並ぶ建物に視線を送りながら、ここからの行動について話していく。


「あぁ、そうですね。おうちを借りるのが一番ですかね。空いている物件があるといいんですけど……」

「へえ、賃貸の家とかもあるのか。俺が住んでいたところだと割と当たり前にあったけど、こっちにもあるとはなあ……でも、人が生活するとなると当然っちゃ当然なのかもなあ」

 ユウマは地球との共通点を思わぬところで確認できたため、妙な感心をしていた。


「ユウマさんのところでも同じようなものがあるんですね。じゃあ、あれはどうかな? えっと……あった! あそこみたいな集合住宅っていうんですけど、大きな建物にいくつもの部屋があって、そこを別々の人が借りて住んでいるんですよ!」

 どうだ! と言わんばかりに胸を張ったリリアーナが建物を指さしている。


「あぁ、アパートか。へえ、ああいうのもあるんだな。まあ、日本だって昔は長屋なんてのもあったくらいだから、文明が発展していくと土地の有効利用ということでこうなるのかもな」

「えっ? し、知ってるんですか? そ、そんなあ……」

 物知りなユウマに対してイニシアティブがとれる滅多にない機会だと思っていたリリアーナだったが、それ以上の難しい話が返ってきたため、がっくりと肩を落としていた。


「いや、でも面白いよ。向こうにいた時には何も考えてなかったから、改めて気づかされることがあるからさ」

 事実、地球にいた頃のユウマはアパートやマンションを見ても、特に何も思うことはなかった。

 異世界という環境にいるからか、その違いを考えさせられるとユウマは思っていた。


「そんなもんですかねえ。でも、前の移動中に聞いた話だと、こちらの世界とユウマさんの世界ではかなり違うようでしたけど、共通点があるのは確かに面白いかもです」

 地球の話はリリアーナにとってまるで夢物語のようだったが、同じ部分があることを聞いてどこかホッとしているようだった。


「いつか俺があっちに戻れることがあったら、リリアーナを招待するよ。見たことのないものをたくさん見せたいな」

「本当ですか! 楽しみです! 前に話してた、くるまに乗ってみたいですし、でんしゃも興味あります!」

 嬉しそうに手を合わせて笑うリリアーナは静かに移動できる乗り物に興味津々だった。


「そうだな、あと食べ物も豊富だから美味しいものを食べさせてやりたいなあ。空飛ぶ飛行機なんてのもあるから旅行に行くのもいいな!」

「はい! ひこうき楽しみです!」

 地球の話、そしてこの街の話をしながら二人は楽しそうに歩いている。


 そんな二人のことを離れた場所から見ている人物がいた。


 隠れるようにして二人のあとをつけているその人物は、二人が冒険者ギルドを出たところからずっと尾行していた。


「――ちっ、イチャイチャしやがって。生意気なんだよ!」

 思わずそんな悪態をつく彼は三十歳独身、2メートル近い巨漢、恋人いない歴年齢の人族の男性。

 十代の頃から禿げ上がった頭をしており、今も頭頂部が太陽の光を反射している。


「うわ……眩しっ!」

 その光は、近くを通り過ぎようとした住民の目を直撃する。


「す、すまない……」

 その声に敏感に反応した男は謝罪をすると、慌てていそいそと頭に布を巻いて光を反射しないように対応する。


「たくっ、気をつけろよ」

「わ、悪かったよ……」

 見た目に反して弱弱しい態度の彼は、おとなしく謝るとユウマたちに視線を戻す。


「あ、あれ? いない……?」

「――あんた、俺たちのことをつけていたよな。一体何者なんだ?」

「ひっ!」

 追っていたユウマが後ろから声をかけてきたため、男は悲鳴をあげながら飛びのいた。



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