第28話
「とりあえず俺たちが勝って……力は示せたってことでいいかな?」
「う、うむ。予想の数十倍の力を持っておったわい。これだけの力を持っておるなら、色々な依頼を受けられるじゃろ。――のう、マリアス?」
タイグルはやられたにもかかわらず、満足そうな表情でマリアスに問いかける。
「え、えぇ、まさかタイグルさんが手も足も出ないほどの力を持っているとは思いませんでした。これだけの実力があれば、この街でもやっていけると思います」
あれだけの力を見せられてはマリアスも、二人の実力を認めざるを得なかった。
「ならよかった。それじゃあ、俺たちはこの街で自由に動いていいってことかな?」
「はい、問題ありません。件の王国の者が追っ手を出してきても、私の庇護下にある人物だと保証します。この街で活躍してくれれば、あなた方の味方も増えてくれると思いますよ」
前の街でも同じように協力してくれる人物を増やしていったため、マリアスの言葉にユウマたちも頷いている。
「そういえば、この街は迷宮を中心に作られたとかって聞いたんだけど……その迷宮って俺たちも入ったりできるのかな?」
ユウマは単純に疑問を投げかけるが、タイグルとマリアスは顔を見合わせて驚いていた。
「あ、あの、もしかして……」
「迷宮のこと、詳しく知らないのかのう?」
何か様子がおかしい二人からの質問にユウマは頷き、リリアーナもあまり知らないので視線を泳がせている。
「ふむ、ではそのあたりの説明が必要じゃな。マリアス、頼む」
「ええっ? 今の流れだとタイグルさんが話すのでは? もう……仕方ないですねえ、コホン」
タイグルは話すつもりがなく、完全に聞くモードになっているため、困ったように笑ったマリアスが説明を担当することとなる。
「ユウマさんがおっしゃるとおり、この都市は迷宮を中心に作られた街となっています。迷宮の入り口に関しては当ギルドで管理しています……このギルド、街のどこにあるかご存知ですか?」
「もしかして……」
ユウマの言葉にマリアスが頷く。
「そう、ギルドは街の中心にあります。つまり、迷宮の入り口もこのギルドから繋がっているのです」
説明するマリアスは大きく手を広げる。
ユウマとリリアーナはキョロキョロと周囲を見回すが、その様子を見たタイグルは笑っていた。
「はっはっは、そりゃこのギルドと繋がっていると言われたらどこから行くのか気になるのう!」
二人の反応がおかしかったらしく、タイグルは体を揺らして笑い続ける。
「ギルドから繋がっているとは言いましたが、さすがにここからは行けません。ギルド内に迷宮用の入り口が別にあります。そちらは冒険者ギルドに登録していて、なおかつ迷宮探索者登録をした方のみが入場することができるのです」
それを聞いた二人は自分たちの冒険者ギルドカードを取り出す。
「そのカードに迷宮探索者としての情報を入力する形になります。一定以上の実力を示された方のみが登録することができますが……」
そこまで言って、マリアスはタイグルへと視線を向ける。
「このとおり、タイグルさんを一方的に倒せるほどの実力をお持ちの二人であれば問題ないので、後程登録をしましょう」
マリアスのその言葉に二人はホッとする。
「そうだ! 迷宮都市ってことだけど、迷宮以外にも冒険者の需要はあるのかな?」
迷宮がどんな場所かわからないため、他にも面白い依頼があるのかどうか、ユウマはそれを気にしていた。
「もちろんです! むしろ、その他の需要のほうが大きいといって差し支えありません! ダンジョンに挑戦する方はもちろんいます……失礼、迷宮のことは一般的にダンジョンと呼んでいます。しかし、この街の周囲には森や山や谷や川、少し行けば海もあります。そこでも多くの問題があったり、様々な魔物がいたりと、この街ではダンジョン内外で依頼は多数あるのです!」
嬉しそうに腕を広げたマリアスが大きな声で宣言する。
この言葉は、多くの冒険者に伝えたい、マリアスの本心だった。
「な、なるほど……」
「わ、わかりました……」
気圧されたユウマとリリアーナはなんとかそう返事をする。
「うむうむ、マリアスも色々とたまっておったようじゃな」
「はっ! す、すみません……つい。ま、まあそういうわけで、できればダンジョン以外の依頼も受けてもらえると助かります。中にはダンジョンに籠もりきりの方もいらっしゃるので……」
街の長であるマリアスとしては、街の周囲の問題や、街の中の問題も解決しておきたかった。
ダンジョンを目的とするユウマたちに遠慮がちだがそう願い出た。
「まあ、そのへんはわかるから大丈夫。ダンジョンには行ってみたい気もするけど、まずは街について知らなすぎるから散策したり、困っている人を助けたりかなあ……な、リリアーナ」
「はいっ」
考えつつもそうユウマがリリアーナに声をかけると彼女はにっこりと笑顔でうなづいた。
前の街でも人々の協力があって、街から出ることができた。
その経験と、彼らは複雑な立場にあるため、協力してくれる人は多ければ多いほうがいいと考えていた。
「それは助かります。何か困ったことがあればすぐに言って下さい。私とタイグルさんが助力しますので!」
とんと胸をたたきながらマリアスは笑顔でそう宣言する。
そう言う彼女からは出会ったばかりの頃の壁のようなものは既に消えていた。
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