第31話


「――実は、僕の妹が病気なんです……」

 暗い表情でうつむくボブスがいきなり重い話から入ったため、部屋の空気も同時に重くなる。

 だがそれだけでは終わらないだろうとユウマとリリアーナは頷くだけで黙って続きを促す。


「その病気は街の医者でも治療師でも治せないというのです。そして、半年と持たないとどちらにも言われました……」


 この世界の医者は病気に対する知識を持って、その病気に薬を使って対処する。

 治療師は病気に対する知識は少ないが、魔力によってその原因にアタックし、治癒させていく。


 二つの職種による治療でも効果がなかった。

 しかも、この街の医者と治療師はそれなりに大きい街だけあってどちらも優秀である。

 双方が匙を投げたということはつまり打つ手がないということに等しかった。


「なるほど、それは気の毒だ。だけど、悪いが俺たちには治療の能力はないぞ?」

 収納士であるユウマ、殴り特化型のエルフであるリリアーナ。

 二人は医療知識があるわけでもなく、治療魔法が使えるわけでもない。


 そのため、二人にこのことを話すのは見当違いと言わざるを得なかった。


「わ、わかっています! でも、西にある洞窟になんでも治す水があるって聞いたんです! でも、あの洞窟には強力な魔物がいて僕には到底取りにいくことができないんです! 誰かに頼むにも、他の冒険者の方々にはみんな断られてしまいました……」

 ボブスはギリッと歯を噛みしめて、悔しさを見せる。


「でも! お二人は他にいた冒険者の誰よりも強力な力を持っています!」

 自信たっぷりのボブスのその宣言にユウマとリリアーナは首を傾げる。


 パン職人だというボブス。

 ガタイの良い彼が戦士だというのであれば、力をある程度見抜くなどの技術を持っていても少なくない。


「なんで? と思っていますよね。言ったでしょう? 実はこれが僕の力なんです。なんとなくなんですが、ぼんやりとオーラが見えるんです。戦いには使えないし、パン屋には使えない力なんですけどね」

 困ったように笑うボブスが目に魔力を込めると、ぼんやりと青く輝いた。


「ほう、それで俺たちのオーラはどんな感じなんだ?」

 その能力にユウマは興味を持ったようで、身を乗り出して質問する。

 リリアーナも同様でワクワクしながらボブスの言葉を待っている。


「え、えっと、リリアーナさんは身体を緑のオーラが覆っていて大きさは僕の身長の倍くらいです。で、身体の芯には強く赤いオーラが漲っているように見えました。二つの色が見えるのは珍しいですよ」

 これまでこの能力についてこれほどまでに興味を持ってもらったことのないボブスは、照れたような表情で先にリリアーナのオーラについて説明をする。

 通常、オーラは一色だけのことがほとんどだったが、彼女は内と外に二つのオーラを持っていた。


「俺は俺は? 俺は三色とか? 四色とか?」

 早く自分の分も聞かせてくれと、ユウマがせっつく。

 わざわざ選んで声をかけてきたからには、自分からも特別な何かを感じたんだろうとユウマはワクワクしていた。


「ユ、ユウマさんは……その一色です」

 色の数を期待しているユウマに対して、ボブスは申し訳なさそうに口にする。


「そっかあ、じゃあリリアーナのほうがすごいな。なんせレアな二色だもんなあ」

 ユウマは少し残念そうに、しかしリリアーナがすごいということを嬉しくも思っていた。


「ち、違います!」

 そんなユウマの反応を見たボブスは勢いよく首を横に振る。


「ユ、ユウマさんの色は白です。これまでいろんな人のオーラを見てきましたけど、白い魔力の人は初めて見ました」

「お、そうなんだ。じゃあ、レアカラーってことでリリアーナと同格かな?」

「同じで嬉しいです!」

 自分も特別だということで喜ぶユウマ、同格と聞いて喜ぶリリアーナ。


「ち、違うんです! ユウマさんのオーラは、リリアーナさんの三倍以上あるんです! 三倍っていうのもなんとなくの感覚で、実際にはもっともっと大きいかもしれないです!」

 ボブスはやっと大事な部分を説明できたため、背もたれに身体を預けてホッとした様子である。


「……えっ? それ、俺ってなんかやばくない? ボブス以外にも同じような力を持っているやつっているのか? そいつが悪いやつだったら俺狙われたりしないか?」

 とんでもないオーラを纏っていることに、ユウマは言い知れぬ不安を覚えていた。


「う、ううーん……どうですかね。聞いたことはないですけど、わざわざ人に自慢するような力でもないので聞いたことがないだけかもしれません」

「だ、だったら、オーラを小さく納められないかな? 色は仕方ないにしても、大きさくらいはなんとか……あー、ちょっとやってみるからオーラを見ててくれ!」

 そう言うと、ユウマはうーんと唸りながらオーラが身体に集まっていく様をイメージする。


「どうだ?」

 少ししてからボブスに尋ねるが、彼は首を横に振る。


「ユウマさん、魔法を使ってみるのはどうでしょうか?」

「魔法を? なるほど……じゃあ、やってみるか」

 そう言うとユウマは再度自分の身体をオーラが覆っていることをイメージする。


「”収納、オーラ”」

 そのオーラを魔法で収納してみる。


「あっ! すごいです、魔力が見えなくなりました! 白も見えないです!」

「よし、やった!」

 ボブスのお墨付きをもらったユウマはニヤリと笑い、そして内心では目立つことがないので安心できていた。


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