第23話
入場手続きは身分証である冒険者ギルドカードを提出することですんなりと行われ、二人は馬を伴っていよいよ迷宮都市グランドバイツの中へと入ることとなる。
「そういえば、さっきの伝承だったかの話だけどさ、その女性はなんでそんなに強かったんだ? みんなが恐れる竜と三日三晩戦い抜くなんて普通じゃないだろ」
ユウマは疑問い思っていたことを口にする。
いくらお話の中のこととはいえ、ふいに現れた女性が竜と対等に戦えるのかと、疑問に思っていた。
「あー、理由は二つあるみたいです。一つ目はその女性が剣聖と呼ばれていて、当時の並み居る剣豪の中でも最強と呼ばれていたらしいです」
「ふーん、そんな人がここにいたのはラッキーだったな。それで、二つ目の理由はなんなんだ?」
たまたまなのか、竜と戦うために来ていたのか、それはわからないが、住民にとっては彼女がいてくれたことは最大の幸運だっただろうとユウマは考える。
「二つ目は、その女性は伝説の武器を所有していたそうです」
「伝説の武器?」
「はい、その名も聖剣ダインカリバー、勇者が持つといわれている伝説の中にのみ存在する剣です」
「ダイン!? ごほっごほっ、げほっ! ぐっ、ダ、ダインカリバーだって?」
思わぬ名前が飛び出してきたため、驚きのあまりユウマは咳き込み、むせてしまう。
「は、はい……大丈夫ですか?」
あまりの様子にリリアーナは心配そうにユウマの背を撫でる。
「いや、そのちょっとな。前に聞いたことがあった名前だったからちょっとビックリしただけだよ。心配かけて悪かった。と、とりあえず宿を探して部屋をとろう」
動揺を無理やり隠すようにしてユウマは歩く速度を速めていく。
「あっ、ちょ、ちょっと待って下さい! 宿屋なら、さっき通り過ぎましたよ!」
「えっ? あ、あぁ、悪い。気づかなかった……」
焦ったように引き留めるリリアーナに謝りながらユウマは自分の記憶をたどる。
城で手に入れた三種の特別な武器。
その一つである魔槍オルタナを使った際にとんでもないものであることはわかっていた。
同ランクと思われる聖剣ダインカリバーの情報が不意に出てきて、しかもそれがこの都市を守った剣聖が使った剣だということにすっかり動揺していた。
(やっば! いや、名前と説明だけでもやばいってわかってたよ? それにしても、そんな大昔の伝説の剣士が使ってたとか、マジだったのか! しっかし、とんでもないものを持ってきたな……)
頭を抱えたくなる気持ちを抑えながら宿屋に向かうユウマだったが、内心で自分がやらかしたとんでもないことに、今更ながらどうしたものかと考えていた。
そして、そのまま宿で手続きをして、部屋に向かう。
「――ま、いっか。気にしても仕方ないな」
「……えっ? どうかしましたか?」
話を聞いてから、部屋にたどり着くまでの間にユウマは気持ちの切り替えを済ませていた。
ずっと黙っていたユウマが突然顔を上げたことにリリアーナはキョトンとしている。
「いやいや、ちょっと気になっていたことがあったんだけど、大丈夫だろうって思ったんだ……ところで、なんでリリアーナが同じ部屋にいるんだ? 金も余裕ができてきたから二部屋とってもいいと思ったんだけど……」
前の街や旅の途中で一緒に野宿をしていた二人だったが、ずっと男女で一つの部屋というのもよくないかもしれないと、今更ながらユウマは考えていた。
「えっ? 受付の時に一緒の部屋でいいですかって聞いたら、ユウマさん頷いていましたよね?」
ユウマが自ら了承したことであるにも関わらず、正反対のことを口にしたため、困ったような表情でリリアーナは首を傾げていた。
「あれ? そうだったか……うん、じゃあいっか。リリアーナは俺と一緒の部屋で大丈夫なのか?」
「もちろんですよ! ユウマさんのことは信頼してますし、ユウマさんと一緒にいるのが一番安心しますから」
何のためらいもなくリリアーナはニコリと笑顔でそう言い切った。
「お、おう。ならよかった」
全面的な信頼を投げかけてくるリリアーナに戸惑いつつも、そのことが嬉しくてユウマの頬は薄っすらと赤くなっていた。
「まあ拠点となる宿はとりあえず確保できたから、次は街の散策といこうか。そもそも、なんでこの街が迷宮都市と呼ばれているかとかも俺は知らないからなあ」
「ふふっ、すぐにわかりますよ。荷物は置いて……っていうほどないですね。じゃあ、早速出発しましょう!」
荷物のほとんどはユウマが収納しており、ユウマは空の小さなバッグを腰に身に着けている。
リリアーナは肩掛けカバンに金をいれて、腰にナックルをぶら下げている。
部屋の鍵をかけると、なくならないようにユウマが収納しておく。
そして、二人は街へと繰り出していった。
以前いた街もかなり大きな街だったが、この迷宮都市グランドバイツはそれを遥かに超えた規模であり街というよりも、国といって差し支えのないサイズだった。
「ユウマさん! ユウマさん! あのお店美味しそうですよ!」
「あぁ、美味そうだな……って引っ張るなって!」
すっかり串焼きに夢中になったリリアーナがユウマの服をぐいぐいと引っ張って、屋台に連れていく。
そこは串にした肉に塩を振りかけて焼いたものを提供しており、あたりに肉の焼けるいいにおいを漂わせていた。
ユウマはこれまでエルフといえば、野菜や果物やエルフ豆を好んで食べるものだと思っていた。
しかし、一緒に行動していてわかったことだが、リリアーナは肉が好きだった。
「ユウマさん! 買ってもいいですか?」
肉を焼いたいい匂いが漂ってきており、リリアーナは我慢の限界だといわんばかりだった。
だが勝手に買わないのは、彼女がお金をパーティ共有のものだと認識しているからだ。
「あぁ、構わない。俺も少し腹が減ったからいくつかもらおうかな」
とユウマが口にした時には、既にリリアーナは串焼きの肉を三本ずつ両の手に持っていた。
「どうぞ!」
そして、片方の三本をユウマに手渡す。
「いただきます!」
「ありがと、いただきます」
二人はそれぞれの肉にかぶりついた。
「「美味い(美味しい)!」」
二人は最初の一口で肉の美味さを噛みしめると、一気に残った肉をほおばっていく。
その後、二人が追加で三本ずつ食べたのは言うまでもなかった。
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