第24話
ユウマとリリアーナはその後も屋台を巡っていき、観光を楽しんでいた。
「あっ、ユウマさんここですよ!」
そんな中、ある建物の前でリリアーナが足を止めて、そこを指さす。
「……えっ?」
ユウマは思わず絶句する。
二人がやってきたのは冒険者ギルド――のはずだったが、ユウマが目にしたのは以前の街の何倍もの大きさの建物だった。
「いやいや、こんなデカいのか? 本当に冒険者ギルドか? いやでもあの看板は冒険者ギルドのものか……」
飾ってある大きな看板、出入りしている人の層からみても、やはりここが冒険者ギルドで間違いなかった。
だがどうみてもギルドというよりはどっかの貴族の屋敷かと思わせるほどの建物だった。
「ほっほっほ、お主この街は完全に初めてのようじゃな。まあ、他の国や街に比べてもここの冒険者ギルドは群を抜いてでかいぞい」
笑いながら声をかけてきたのは、街に入る際に声をかけてきた虎獣人の老人だった。
「あんたはさっきの入り口で声かけて来た……じいさん」
「うむ、わしもここに用事があっての。まさかお前さんたちもここにくるとは思っておらんかったぞ」
ユウマも彼のことを覚えており、彼のことをじいさんと呼んだが、老人はそれを気に留めていない。
「なんでここの街だけこんなにギルドがでかいんだ?」
「ふむ、この都市は他の国と異なるところがある。それは、どこの国にも所属しておらず独立都市として認められておることじゃ。じゃから、色々なものやことに対して国にお伺いをたてんでもいいんじゃよ」
様々なものごとに対する裁量権が、国ではなく都市にあると老人は説明していく。
「なるほど……ということは、この都市ではこのギルドに相当な権力があって、更に言えば都市も冒険者ギルドに力を入れているということか」
「ふむふむ、なかなか理解が早いようじゃな。一つ付け加えるとしたらじゃが、冒険者ギルドに力をいれているというよりも……」
老人がそこまで言ったところで、別の方向から続きが語られる。
「――ここの冒険者ギルドのギルドマスターは、この都市の責任者と同一人物だからよ」
ユウマたちが振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
真っ赤な髪は炎を思わせる。その目は力強い意志を持っており、太陽のように明るい笑顔で白い歯を輝かせていた。
身長はユウマの胸くらいと小柄だったが、仁王立ちするその姿からは強い存在感を感じさせる。
「おおう、迎えにでてきてくれたのか。うむうむ、久しぶりじゃなマリアス。元気そうでなによりじゃ」
その女性のことを老人は知っているらしく、親しそうに話をしている。
「えぇ、タイグルさん。入場手続きの兵士から連絡がきていたんです。それで、あなたの気配が近くなったので降りてきました。上に行きましょう」
マリアスと呼ばれた女性は、気を許したように老人をタイグルと呼び、応えるように親類に向けるような温かい笑顔になっていた。
「ふむ、それでは彼らも一緒に連れて行っていいかね?」
「「えっ?」」
「……わかりました」
老人の提案に一瞬思案した様子のマリアスだが静かに頷いて返した。
戸惑うユウマとリリアーナの意思に関係なく話が進んでいく。
「お二人もこちらへどうぞ……」
少し顔を固くしたマリアスが先に冒険者ギルドへと入っていくが、ユウマたちはどうしたものかとその場から動けずにいる。
「さあさあ、二人も行くぞい。なあに、悪いようにはせんから安心せい」
タイグルに背中を押されたユウマとリリアーナは、それに逆らえずそのままマリアスのあとに続いていく。
マリアスと一緒に進んでいくユウマたちを見て、ギルドにいる冒険者たちはヒソヒソと噂話をしている。
ギルドマスターと一緒にいるのは一体何者なのかと。
しかし、彼らの疑問に答えることなく、一行はギルドマスタールームへと案内されていった。
部屋に入ったところで、マリアスが突然振り返る。
「さて、あなた方が何者なのか、タイグルさんとどういう関係なのかわかりませんが……まずは自己紹介からしましょう。私の名前はマリアス。この街の長であり、冒険者ギルドのギルドマスターをしているものです」
きびきびとした口調で言い切ると、彼女は軽く一礼をする。
「それじゃあ、次はわしの番じゃな。わしの名前はタイグル。彼女、マリアスの母親の武術の師匠をしていたものじゃ。マリアスにも少しは手ほどきをしたがの」
「そんな、タイグルさんは私の師匠ですよ。母様は私の姉弟子です」
(母が姉弟子とは不思議なことを言うな)
そんなユウマの内心を見透かしたようにマリアスはユウマを見てくすっと笑った。
「えっと、お、おれの名前はユウマ。冒険者をやっていて、今日ここに来たばかりだ。ちなみにそっちのじいさん、タイグルだったか。そのタイグルさんとは街に入るところで初めて会った」
恥ずかしさを誤魔化すようにユウマは視線をマリアスから外しながら自己紹介をする。
ユウマの言葉を聞いたマリアスは、疑問で一杯の表情でタイグルを見ている。
だがタイグルは穏やかな表情でほほ笑むだけだ。
「わ、私の名前はリリアーナです……! ユウマさんとパーティを組んで冒険者をやっています。その、タイグルさんとは、同じように街の入り口で会ったのが初めてです」
マリアスの雰囲気が変わったことにリリアーナは緊張交じりであいさつをする。
ここまでくると更にマリアスは厳しい視線をタイグルに送っている。
「……どういうことですか? タイグルさんのお友達だと思ってここまで連れてきたんですよ?」
「いやあ、はっはっは。街の入り口で見た時からただものではないと思っておったんじゃよ。その二人とまたもや偶然にもギルドの入り口であった。偶然も重なれば運命というものじゃ」
「はあ……まあ、わかりました」
タイグルの性格を知っているマリアスはこれ以上責めても仕方ないと考えて、頭を押さえてため息を吐くとソファに腰を下ろした。
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