第22話
ノクスたちを撃破したユウマたちは、更に馬を全力で走らせて街から距離をとる。
徐々に速度は落としていくが、それでも馬が走れる限界まで逃亡を続けていく。
「ここまでくれば大丈夫だろう。少し道を外れても平気かな?」
「はい、遠回りにはなりますが、多少であれば変更は可能です」
「頼む」
ユウマの言葉に頷くとリリアーナは最短の道から外れて、別の道を進んでいく。
ノクスたちは他の仲間と合流してから再度追いかけたが、このことによってユウマたちが迷宮都市に到着するまでに発見することは叶わなかった。
反対にユウマたちは、ユウマが持つ聖域のテントと大量に仕入れておいた食事によって、遠回りの旅を楽しみながら迷宮都市グランドバイツへと向かっていた。
大きな湖では釣りを楽しみ、森では魔物退治や果物採集や行っていき、手持ちの素材や食料を増やすなど、今後の行動にあたって手札を増やしていた。
そして、途中いくつかの小さな村に立ち寄りながら二週間後、ついに迷宮都市グランドバイツに到着する。
「…………すごい」
そう呟いたのはユウマだった。立ち尽くした彼は呆然と目の前に広がる光景に夢中になっていた。
「うふふっ、ユウマさんでもそんな風に驚くんですね! あれがグランドバイツ名物、対竜城塞です!」
楽しそうな笑顔でリリアーナが説明する。
彼らの目の前に広がるグランドバイツは名物といわれるくらいに、高く強固な城塞に囲まれていた。
「にしても、対竜ってことは竜がここを襲ったことがあるのか?」
「えっと、伝承というか言い伝えというかなんですが……その昔、この地には巨大な黒い竜がいたんだそうです。その竜からの攻撃を防ぐにはあれだけの城塞が必要だったという話です」
「なるほど……ちなみに、その黒い竜はどうなったんだ?」
竜との戦いがあって、未だに都市が健在ということはその竜が立ち去ったか、何かの方法で倒したと予想したため、伝承の結末についてユウマが質問する。
「よくぞ聞いてくれました! なんと、その竜は城塞を飛び越えて街の中へと入ってきたのです。街の人々は絶望しました。今まで都市を守り続けてくれた城塞を突破され、竜と対峙することで命を失うことを覚悟しました」
リリアーナは結論から話さずに、伝承のとおりに順序立てて話していく。
そのことがユウマの興味を誘い、早く次を話してくれという気持ちにさせていた。
「人々が膝から崩れ落ちていく中、一人の女性が剣を携えて竜と対峙しました。女性は問いかけます――竜よ、あなたはなぜこの街を襲うのですか? と。すると竜は答えます――我が邪魔だと感じたものを壊して何が悪い? と」
「むむむ、竜のやつはなかなか嫌なやつだな」
すっかりユウマはリリアーナの話す物語に入り込んでおり、竜の態度を気に入らないと思っていた。
「竜の態度は確かに偉そうであり、邪魔だからというのは横暴です。しかし、人よりずっと長い時を生きる竜はこの地に長く住んでいて、離れたあと戻ってきたら人が街を作っていたのです。自分が住んでいた場所から出ていくようにという主張を竜なりにぶつけていたのです」
「な、なるほど……」
一概に竜を非難することができなくなったため、ユウマの意気は静まっていく。
「女性は悲しそうな表情になります。女性は言いました――あなたの気持ちは察して余りある。だけど、私たちも精一杯ここで生きているのです。どちらが正しいのかわかりません、だから私とあなたで一騎打ちをして勝った側がこの地を支配するとしましょう。そして女性の誠実な物言いを聞いた竜は言います――それで構わない。矮小な人ふぜいがどこまでやれるのか見せてもらおう、と」
いよいよ物語は最大の山場に差しかかる。
「戦いは三日三晩続きました。そして、竜は初めて自分と対等に戦える者に出会うことができた。楽しませてもらったから、ここは引くことにしようと申し出る。女性も自分が倒せなかった相手は初めてだと笑う。二人は戦いの中で心が通じ合っていました。そして、その女性がこの街を統治することとなり、今もその子孫が受け継いでいるとのことです」
「……よかった。竜は死ななかったんだな」
今も街が現存していることから、ユウマは竜が死んだと考えていた。
その考えが覆される展開だったため、ホッと胸をなでおろしていた。
「ふふっ、私もこの話を初めて聞いた時には同じようなことを思いました。さて、そう話している間にその迷宮都市グランドバイツについに到着しましたよ!」
「えっ? うおっ! 城塞デカッ!」
ユウマは話に夢中になっていたため、都市の目の前にまでやってきていたことに気づいていなかった。
遠くから見ても立派だと思っていたが城塞が目の前に近づくと更に迫力を感じさせた。
「おそまつさまでした、楽しんで頂けたなら幸いです。それでは街に入る手続きをしましょう」
巨大な都市の入り口では既に数人の入場希望者が並んでおり、ユウマとリリアーナも馬を降りてその列に並んでいく。
「にしても、すごいなあ。確かにこれだけデカくて分厚い城塞だったら、竜の攻撃も防げそうだ」
ユウマは並びながらも城塞に目を向けて、その圧倒的な存在感に感心していた。
「ほっほっほ、坊主。それだけでは竜の攻撃は防げんぞ」
ユウマの前に並んでいた老人が穏やかにほほ笑みながら声をかけてくる。
老人といっても虎の獣人であり、ユウマよりも身長は高く、顔に刻まれた傷とシワが歴戦の勇士であることを物語っている。
「というと?」
ユウマは彼が自然と放っている圧にひるむことなく質問を返す。
「うむ、この城塞は特殊な魔鉱石でできておってな。通常の石造りのものよりも強固なのじゃ。そして、魔力を吸収する性質を持つため強力な竜のブレスを受け止めるのじゃよ。わしも若い頃にこの壁を壊そうとしたが、その時はこちらの拳が壊されてしもうたわ。ほっほっほ」
「なるほど……それは面白い話を聞いた。ありがとう」
説明のあとに老人はとんでもないことを付け加えるが、ユウマはそこには触れず、情報提供に感謝だけ述べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます