第26話 XM7 イシカホノリ

 結局の所、M2バックラーのボディをベースに、人工筋肉をJAMSADのイシカホノリに、プロセッサはM3ヘヴィーバレルから移植したキメラスーツを作成した。

 コードはXM7、名称はJAMSADにイシカホノリとしてやった。

 筋肉量が下がり制御が変わるためコードは全部書き直し。チームのPGたちにかなり頑張ってもらった。

 人工筋肉イシカホノリの制御はその出力や回復機能の凄まじさからはとても考えられないほどよく、制御周りのフットプリントがだいぶ小さくなった。

 余った領域にリバースエンジニアリングに対するカウンタートラップとAMPsを仕込む。

 この新しい人工筋肉を使いこなすには最初に組み込まれた教育ではうまくいかない。そのためにもAMPsが必要だと判断して組み込んだ。

 ずっと私の中でくすぶっていた論文。プロダクツに対する教育システムを改良し、再び教育を行うことで脳内の最適化を行うもの。

 成長確定後の最適化処理は、多少の人格障害が起こるかもしれない。だが、戦局は徐々に人類不利に傾いている。

 このままならば、アメリカは地球上から消える。

 高木はイシカホノリの実戦証明Combat Provenを求めて提供したというが、それだけだろうか。

 そもそもJAMSADにはアメリカ・カナダ連合を救う義理はない。日本は周囲を海に囲まれ、ミシックの驚異がほぼない。

 ならばなぜ、イシカホノリを開発したのだろうか。

 書き上げたコードをプッシュしてレビュー待ちにする。

 私がこのXM7の総合責任者ではあるが、だがそれでもコード品質の担保のために必ず複数人の目を通すようにしてある。

 カウンタートラップ周りは静的解析で読み取れないように、また人間の解析でもそう簡単には読み取らせないような複雑怪奇なコードにしてあるが、それも含めて複数人で解析し、検討し、組み込む。

 命に関わるコードだから慎重にする必要がある。

 いや、これは建前だな。

 レビューをすり抜けたバグの責任は誰にあるか。

 レビュアーか、プログラマーか。さて、どちらだ。

 いかんな、疲れているようだ。

 システムを落とし、帰宅準備をする。


 XM7が形になってきたので装備を作る。出力だけならM3を遥かに凌駕するため、VS9クラウ・ソラスをベースに刃渡りを6インチ伸ばし、3フィートへ。更にグリップ内の振動子を増強した。おそらくXM7以外では扱えないじゃじゃ馬。XVS10という型式を与えた。

 名前をどうするかしばらく考える。日本に由来のある名前がいいだろう。

 しばらく考えた後、ヒゲキリの名を与えた。

 とりあえずワンオフ製造の依頼を出すことにする。

 XVS10の依頼はすんなり通ったが、XM7についてはリジェクトされた。

 不審に思いチェックすると、未レビューのコードが22、5人からプッシュされている。私にも3つ割当が来ていた。

「ギリギリまで、マメなものだな」

 私にもそんな頃があったな、と思いながらコードを見る。

 1つ目。

 カウンタートラップの攻性防壁のパラメーターについてマイルドに落とすが持続時間の延長とそのときの微弱攻撃パターンの変更。

 なるほど。最初のパラメーターだと瞬間で手を引くが、不快感はそれほど持続しないのでリトライしようかという気になるかもしれないな。いい視点だ。

 2つ目。

 AMPsの最適化のための解析処理におけるスコアリングの修正。ノイズまみれの入力データに対するデノイズを多層のニューラルネットワークではなく並列させたネットワークで計算することで処理時間短縮を行ったもの。

 よく近似されている。おそらくは問題はないだろう。

 3つ目。

 AMPs処理における最適化パルスの応答時間短縮と信号強度の低減。

 効果は限定的になるだろうが、利用者の負担を引き下げる。

 デザインドやプロダクツはヒトHumanではないが人類Mankindではある。人権に考慮する改変と言えるだろう。

 いずれもコードに不審な点はない。レビュー済みとしてサインする。


 4日後、XM7とXVS10がロールアウトした。前線に送り出す。

 それからしばらくして前線から先行量産の依頼が来た。

 成功したと言えるだろう。ほっと胸をなでおろす。

 いずれXが外れ正式にM7となった場合、どんな名前になるのだろうか。あるいは多腕はM8になるだろうか。

 普段なら合成で済ませていたが、秘書に命じて天然のコーヒーを淹れさせる。

 芳醇な香りが、達成感を後押しする。


 私が担当した3つのコードレビュー。これはそれ単体では「正しく動くように」見えていた。身内だと思って信用していた。やられた。

 3人は生まれ落ちるものスポーンズの工作員だった。ミシックは地球を汚し続けた人類に対する鉄槌だと考える狂信者集団。開発部へ配属させた人事部と、製造したファクトリーにはリサイクル処分が下された。

 私には再調整処分が。再調整の過程で味覚を喪った。

 以降、コーヒーは泥水になった。

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