アメリカ・カナダ連合
第25話 イシカホノリの可能性
秘書がコーヒーとともにそれを持ってきた。
JAMSADから物理通達。今どきそんな手段をとることが珍しい。中身は統合インターフェイスへのポートを持つマイクロデバイス。
そしてJAMSADの高木理事長からメールが一通。base64エンコーディングなど初めて見た。随分とクラシカルなものだ。
戻してみると公開鍵が得られた。随分と古風な。こちらでも鍵ペアを作って公開鍵を高木理事長の公開鍵で暗号化して送りつける。
2秒でレスポンス。ビルトインエージェントがメール内容から自動応答、高セキュリティ通話回線を作り上げる。
接続。Sound Onlyの表示。相手が本当に高木理事長なのかは不明だが、映像があったとしてもそれが信用できるかはまた別問題だ。高度なテクノロジーは様々な欺瞞を行える。このレベルの高セキュリティ通信では盗聴はないものの、相手を信用するというのは難しい。慎重に当たる必要がある。
『おはよう、ジェームズ博士』
きれいな英語で語りかけてくる。
「そちらはそろそろ深夜じゃないですかね? 高木理事長」
『そうだな。地球は丸い、ということだ』
「このデバイス、なんなんですか?」
『JAMSADで開発中の人工筋肉ブロックのDNAリストだ。開発コードはイシカホノリ。アメリカ・カナダ連合のスーツにそのまま載せられるはずだ』
「ほう……? で、我々になにを?」
『
高木理事長それだけ言い、沈黙する。
「我々には利点がありませんな」
『戦況をひっくり返せるポテンシャルがある。M1ダガークラスの筋肉量でM3ヘヴィーバレル相当の出力が得られるはずだ。M1のライトタイプにM3のユニットを載せられるなら
スーツの開発は常にペイロードとの戦いだ。強大な出力を制御するには大きなユニットが必要になる。さらに巨大なユニットは大量の燃料を要求する。結果ペイロードを圧迫し、作戦時間が短くなる。
作戦時間の短いスーツには価値はない。拠点を防衛し、あるいは戦線を押し上げるには長い作戦可能時間とペイロードという相反する条件が必要になる。
開発部は常にそれと戦い続ける。
例えば、巨大なユニットを諦め簡易な制御を行ったとしよう。
人工筋肉の出力はそもそも人体に備わるリミッターが存在しない。過負荷は、強化されているとはいえ所詮カルシウムベースの骨格では限界が出る。
デザインドにしろプロダクツにしろ自らの筋力である程度その破壊を押さえ込んでいる。それができるのも統合インターフェイスによるフィードバックがあるからだ。
フィードバックが間に合わなければ……ということになる。だから強大な出力にあるスーツほど制御のために大きなユニットが必要になる。
「上でイシカホノリについて知っているのはどこまでですかね?」
『ステファニー・シビル・コープランド中将だな』
「開発部門のトップじゃないですか」
ため息込みで返答する。
『君の却下された卒論は実に興味深い』
「……どこにも発表していませんよ」
『さて、そろそろ時間だ。
ここで回線が切られた。
大学時代に若気の至りで書き上げた論文だが、倫理的に問題があるということで却下された。そのまま破棄していたと思っていたのだが、なぜJAMSADの高木の手に入ったのだろう。
もう20年も前だと言うのに。
過去の亡霊が、私を蝕んでいる。
そんな感覚を振り払うつもりでため息とともにコーヒーを飲み込んだ。
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