第24話 最適化

 JAMSADに提出するプロセッサの改良は少し悩んだ。

 最終的にはプロセッサダイ1.5倍に広げ、さらに今の10層から12層に増やした。歩留まりは少し悪化するが仕方がない。

 それでも足りないので些末な予測は前世紀の偉大なる発明、カルマンフィルターを使うことにした。

 例えば、活動や修復に必要なタンパク燃料の供給量の予想は多少ブレても問題はないので精密な制御を諦める。燃費の悪化は最悪プロペラントタンクで運用回避できるだろう。

 イシカホノリの人工筋肉はもともと大飯食らいだ。やや多めに燃料を供給しても問題はないだろう。

 カルマンフィルターのパラメーターもそっち方向で大雑把に調整しておく。

 これで自己修復のための最適化が詰め込めた。

 もちろん出力も劇的に上がっているためそのコントロールも。結果、防御力が格段に上がった。これで前線の兵士たちの生存率も上がるだろう。

 シミュレーターに放り込んで確認していく。

 修正差分については物理送達で受け取ったときのパラメーターと同じパラメーターでデコードできるようにまずエンハンサで一次処理したあと感情色彩エンコーダーでエンコードしたものを論理転送した。


 一方、EMAにはプロセッサダイを3倍に広げ、層を24層にしたものを提出した。これは初期最適化で作ったもので、考えうるフルスペック設計。ただしチップの歩留まりと燃費の悪さが桁違いだ。

 巨大なダイと高積層化はプロセッサの熱の問題が深刻化する。結果冷却にタンパク燃料をかなり消費するため、作戦時間は更に短くなる。プロペラントタンク2本込で8時間というところだろうか。

 タンクが空になったらイシカホノリは自己融解して活動を継続するようにハードワイヤードしてある。ただし、それは一方通行の終末モードというやつだ。

 最後はエネルギーが足りなくなり、プロセッサは自己熱で焼け飛ぶ。飛んだ瞬間に人工筋肉は制御を離れ、暴走する。

 どの程度筋肉が残っているかで、着用者の運命が決まる。

 EMAにそのような危険なプロセッサを送ったのは、戦況が精密な制御を求めているから、だ。

 レポートは戦線の後退を日々告げており、このままならばあと数年でヨーロッパがミシックに食われてしまうだろう。

 ここが落ちるということは、人類の生息域が極東アジアとオセアニアのみになることを意味する。

 ヨーロッパをミシックに食わせるわけにはいかない。

 人類はまだ諦めてはいない。そう私は信じている。

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