開発部の憂鬱
欧州軍事同盟
第23話 ため息
ジュネーブにあるこのビルは、厳重な警備及び軍備があり、おそらくヨーロッパで一番安全な場所だ。私の勤務先でもある。
IDをかざすと虹彩認証と静脈認証が行われ、ゲートが開く。小部屋に入るとゲートが閉じられ、密閉される。
「ボディスキャンを行います。完了しました。再度認証を行ってください」
入ってきた扉の反対側にも認証用のパネルとカメラがあるので、そこへIDをかざして認証を行う。
ドアが開いた。EMAのビルに入る。
毎朝のこととはいえ、面倒な話だ。ため息をつく。
自分のブースに座る。認証が走り、ビルトインエージェントが合成音声で話しかけてくる。
「おはようございます、タナカ博士。JAMSADの高木理事長から物理通達が届いています」
「物理通達?」
このご時世に珍しい。机の上にはAIR MAILの印が押された角封筒がおいてある。
ペーパーナイフなんていうものはないので、手で適当にちぎって開ける。
そちらの状況が芳しくないのは把握している。
救援物資としてJAMSADにてテスト中のスーツの設計書を同封する。
展開はいつものツールで、感情色として.284-.779-.050を指定してデコードしたあと、デノイズを-.6で行って補正をしてくれ。
現状、一つ大きな問題点がある。プロセッサの速度が足りない。
そちらでこのスーツについて利用してもよいが、プロセッサのチューニング結果をフィードバックしてほしい。
EMAのエリザ監理官には話は通してある。念の為確認してから作業を開始してくれ。
癖のある手書き文字。今どき珍しいシリコンチップが同封されていた。ビルトインエージェントにエリザ監理官からのメールを検索させる。
「該当1件、表示します」
JAMSADの件は承認した
期限は特に設定しないが、可及的速やかに対応せよ。
ため息。実にエリザ監理官らしい。
とりあえず統合インターフェースにチップリーダーを接続し、データを取り込む。
データはユニットプロセッサへ放り込まれ、デコーダーを通じて展開、予測による欠落と過剰についてはデノイズで除去。
「はあ、こりゃまた」
イシカホノリと名付けられたプロトタイプスーツのための人工筋肉ブロックのDNAが出てきた。従来の人工筋肉ブロックからタンパク変換効率上昇ならびに筋肉出力向上のためのDNA改変箇所が示されている。
それだけではない。自己修復を行うための内分泌システムとタンパク燃料変性システムも組み込まれている。
すでに人間のものがベースとは言えないレベルで改変されている。
そしてこの人工筋肉ブロックを制御するためのプロセッサの設計書。これは従来のユニットのものをアレンジし、更に積層化したもののようだ。
「そりゃ速度的には足りんだろうなあ」
やれることが増えているのに、足された層が薄すぎる。汎用ブロックで処理をカバーしているようだが、ここは専用を書き起こす必要があるだろう。
だから、私、なのだろうな。
要求仕様を眺めながら考える。
ざっと3ヶ月というところか。
エリザ監理官へのメール文面を考えつつ左手首のポートを統合インターフェイスに接続した。
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