第22話 ディスポーザル

 午後から最大の憂鬱がやってくる。

 前線から7年ぶりに帰ってくるプロダクツ。ここでその生を終える。

 プロダクツはその促成製造からか早い個体では生誕から12年を超えると問題が出始める。筋力の低下、疼痛、倦怠感等。最終的には自己免疫疾患のデパート状態になり、精神が崩壊する。

 そうなる前に、する。

 使い捨ての兵士。戦況がそれを強制する。


 今日戻ってくるのは73人。このときの卒業生は342人だと記録に残っている。8割が戦死あるいは途中で再調整できずリタイアしたということだ。

 彼らは初期教育の中でこの運命にあることを刻まれており、地獄からの解放される歓喜と強制的に人生が終了させられる諦観とが入り混じった状況で戻ってくる。

 その日が来るまで少しでも心が平穏であるように、ファクトリースタッフは救国の英雄であった彼女たちに接する。

 駐車場にまもなく到着するとの連絡が届く。

 陰鬱な塊を飲みこんで、駐車場へ移動する。


「あれ? キャロル先生は?」

 赤い髪の小柄な男性がバスから真っ先に降りてきてそう言う。

「キャロル・ハード先生は、4年前に定年退職されました。後任のエミー・ベルです。はじめまして」

 私が手を差し出すと彼は少し赤くなりながら私の手を握る。

「はじめまして、ヴィクター・ホワイトです。こんなきれいな人と出会えたんでもう少し生きていたいんだけど、無理ですよね」

 ヴィクターと名乗った青年は私の目を真っ直ぐ見ながら言う。

「あら、私はこう見えてもそろそろ40歳になるのよ?」

 ヴィクターはびっくりしたのか私の手をちょっと強く握る。

「さ、ヴィクターさん、検査に行ってください」

 私が促すと彼は手を離したあと丁寧なお辞儀をして去っていく。

 73人の名前、顔立ちを心に刻む。彼らは、2週間の経過観察後、リサイクル処理が順次行われる。

 激戦を生き残って、最後は、処分。

 この扱いを受け入れるプロダクツ。

 その精神状態は卒業前とは大きく変わっている。

 いや、変わらなければ、こころが死ぬのだろう。

 常に死と隣り合わせの7年間。

 青春時代を硝煙と血の匂いの中で消費させられるプロダクツ。

 思春期など存在せず。

 恋愛も、結婚も、育児も体験せず。

 その経験のほとんどは人類の敵、ミシックを殺す戦術の習得と行使に埋め尽くされる。

 ただ戦力として生きるだけの人生。

 その戦力を送り出す私。


 まだ私が担当した卒業生は戻って来ることはないが、彼らが戻ってきたときに私は耐えられるのだろうか。

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