第21話 シッピング
「先生、大丈夫ですか?」
朝からボーッとしていたらイライザに心配されてしまった。
「ええ、ちょっと考え事があったから」
心の澱の発生源の一つ、今日はプロダクツの卒業。軍の書類上は出荷となっているけれども、卒業と呼んでいるのは私のささやかな抵抗。一度少佐に聞かれて、大笑いされた後、そのまま黙認されたので今でもそう呼んでいる。
ただ、実際の作業は各部隊の状況を見ながら、三年間の育成の終わったプロダクツを振り分ける作業で出荷そのものでしかないのだけれど、私の心が壊れないようにするための自衛策。
損耗の激しい部隊に送るのは心が痛む。とはいえ、誰かが行かなければその部隊はすり減り、消滅してしまう。そうなればグラスゴーを失うことになるかもしれない。
神ならぬ我が身がその罪をまた一身に受ける業務。そもそも
成績、特性を見て振り分ける。支援AIがある程度振り分けを終わらせていて、微妙な子たちの最後の割り振りを行うだけなのだけれども、でも全員の配属先を確認し、確定していく。
この仕事について4年目、それまでは幼年学校の教師をしていた。あの頃に戻りたいと思うことが年々増えてきている。
「本日卒業予定の全員に通達。ユニットに接続し、辞令を受けてください」
全員の振り分けを確定したあと、出荷予定の生徒たちに放送を流す。
「卒業生はこの後バスで港へ移動します。フェリーで移動後、それぞれの部隊のAPCが待っていますからそれに搭乗して赴任してください。あなた達の前途に勝利と祝福があらんことを」
放送を終え、急いでバスのところへ向かう。駐車場にはバスが8台、今日は322人がここを出ていく。
まだ卒業生たちは来ていない。
しばらく待っていると今日、ここを出ていくプロダクツたちがやってくる。
「あれ? エミー先生?」
「あなた達の門出を祝うために、急いできたのよ。なのになぁに? こんなに遅れて」
腰に手をやり、冗談めかして言う。
「だって、今日で最後じゃん、みんなでダベってたんだよ」
「……そうね。明日からはあなた達は軍人。時間通りに、規律に従って、行動するのよ」
後半、声が震えた。こみ上げる思い。
「へへ、大丈夫だって。俺たちが人暴れして、ロンドン取り返してくるよ。そしたら先生、クビだな」
「ええ、そうね。そうなれば私ものんびりできるわ」
子どもたちの希望に満ち溢れた会話。戦況を知り、戦場を知り、どこかで擦り切れてしまうかもしれない。
「大丈夫よ先生。あたしたちは強くなったもの。ちゃんとやれます」
学生代表を務めていたダイアン・コバーンが私の手を取り、握る。
この子は成績優秀だったため、各部隊からの請求がすごかった。最終的にはエース部隊のイージス小隊に配属が決まった。毎回数人を要求する小隊。戦績を勘案して人員を配置しなければならないために顔なじみとして覚えてしまった小隊名。
この子は、生き残れるのだろうか。
違う、全員、生き残って欲しい。
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