第19話 プロダクツ
「エミー先生、30分後にプロダクツのイジェクションが始まります」
私の秘書をしているイライザ・ベルが私にスケジュールを告げる。それはすごく憂鬱な仕事の一つ。
「わかったわ。今回は何人?」
「500人を予定しています」
私はうんざりした表情をしていたようだ。イライザがそっと私をハグする。
「辛いのはわかります。でも、誰かがやらなければならないんです」
今私達はユニットを背負い、イジェクションの作業に取り掛かっている。
「プロポフォール並びにレミフェンタニルによる処置完了。ヴァイタル安定。
統合インターフェイスを通じ、システムの冷たい人工音声が流れてくる。
培養タンクのロックが解除される。中には意識を失ってぐったりとした裸の少女が横たわっていた。
デザインドの赤子と同じように鼻に残る培養液を吸い出すが、清拭はしない。
イライザと二人でタンク脇のストレッチャーにプロダクツをうつ伏せに乗せる。
イライザが手、足、首を固定する。顔はストレッチャーにあるくぼみにあわせる。
その間に私はセンサーをプロダクツに接続し静脈ラインを確保。全身管理システムにラインとセンサーを接続。モニタリング正常、プロポフォールとレミフェンタニルの注入を確認。
ストレッチャーのボタンを押すと、自動で走り去っていく。行き先は、手術ライン。ポート手術が行われる。
彼、彼女たちは乱数で名前を当てられる。元となったデザインドの姓を持つ、多数の兄弟姉妹。
ポート手術が終わると、まどろみの中の初期学習が行われる。
初期学習が終わると覚醒シーケンスに入る。
完全に覚醒すると、自我の目覚めが発生する。ここで20%くらいのプロダクツが
壊れたプロダクツは、リサイクルシステムに回される。できれば皆大人になってほしいと願うが、この自我の目覚めの問題は未だに解決できていない。
それなのにプロダクツに頼るのはすでに人類が劣勢に立たされているから、なのだろう。
「プロポフォール並びにレミフェンタニルによる処置完了。ヴァイタル安定。
沈み込んでいた思考に、統合インターフェイスからの人工音声が流れ込んできた。
同じように培養液を吸い出し、固定し、ラインを確保し、システムにつなぐ。モニタリング状態を確認し、送り出す。
私も自然の摂理に逆らった生物。彼らとの違いは、赤子からか、成体なのか。
デザインドはプロトタイプであり、プロダクツはその名の通り製品、なのだろう。
「先生? 顔色悪いですよ?」
イライザが私を心配して話しかけてくる。
「ああ、そうね。ちょっと考え込んでいて……大丈夫よ」
次の子のイジェクションを待つ。
私は子どもたちの保護者であり、生産者であり、責任者。悩んでいる場合ではない、のだ。
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