グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
ベルファスト・チルドレン
第18話 エミー・ベル、教師並びに医師
レスターのゲートからのミシックによりイングランドは陥落した。ウェールズは組織だった抵抗を諦めている。
ベルファストの子どもたちが今の英国を支えている。皮肉なものだ。
今の子どもたちの主な出荷先はグラスゴー。ここから南下し、ロンドンを目指している。
「先生! デザインドのロールアウトがあと30分で始まります」
「ああ、今行きます」
培養タンクを軽く撫でて、私は呼び出しに応じた。
「今回のロールアウトは?」
私の問いにタンク管理のプロダクツ、エレン・ベルが答える。彼女は私をベースに作られた第四世代プロダクツ。
「30人です、エミー先生」
「あら、じゃあ受け手をもう少し呼ばないとね」
受け手は培養タンクから取り出されたデザインドの赤子を洗い、呼吸を確保する。次々とロールアウトするデザインドの赤子の処理はまさしく戦場だ。
彼ら、彼女らはお世話をしなければ死んでしまう。
「はい、招集してあります」
ドアが開き、白衣姿の一団がやってきた。タンクからのロールアウトが始まる。
出し手がタンクのロックを解除し、ざっと体を確認したあと受け手に回す。受け手は鼻に残っている培養液を吸い出し、洗い、タオルにくるんでベッドへ移す。
ロールアウト直後から元気に泣き、暴れる。世界に生み出されたことを宣言し、喜び、そして恨む赤子たち。
30人のロールアウトが完了。赤子たちはそれぞれのベッドに並べられ、次はショーケースへ移動する。養親はそこで赤子たちを見て、どの子を引き取るかを決めるのだ。
もっとも祝福されるべき存在であるはずの赤子は、ここでは商品であり、消耗品。
私は偶然ここの責任者になったけれども、消耗品になる人生もあったかもしれない。
私がファクトリー勤務になったのは適正があったかららしい。性格的に赤子を愛するものの、その愛情はあくまで生存に関することに向けられている、と判断された。
実際はどうなのだろう。自分のことは自分ではわからない。
だからこそ人類は未だにダニング・クルーガー効果を乗り越えることができない。
ベルファストのファクトリー勤務のプロダクツの殆どは私がベースになっていて、ベル姓を持つ、私の子たちがたくさんいる。厳密には子ではなくコピーだけれども。
でも、エレンと私は違う。だからコピーではなく、子か、あるいは姉妹か。
そんな思考を中断させる、力いっぱいの慟哭。
赤子は、世界に不満を述べる。
温かい世界から、寒い世界に押し出された不条理。
息をしなければならない世界。
食べなければならない世界。
そして、殺さなければ殺される世界。
私達は造られたものだけれども、じゃあ彼らを造ることを許されているのか。
では私達は死ぬべきなのか。
この子達はどうなるのか。
答えのない苦悩は常に付いて回る。
そもそも
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