第16話 回復

 リタ・テート一等軍曹の中に巣食うなにか。

 私達がプロダクツへ教育するときに使う手法で侵入しているのだろうと思う。

 人生経験の少ないプロダクツ。だからこそ付け入る事ができる。

 おそらくデザインドには侵入してこないようにプログラムされている。

「少尉殿、黙りこくってないでさっさとかかってこいよ。早くしないとこの子は私に食われるぞ」

「たすけて! たすけて!」

 微妙な緊張と恐怖の感情。じっと解析する。

「ややこしいからお前に名前をつけてやろう。登美毘古とみびこ、でいいかな?」

「……ロニー・バレット、お前、どこまで知っている」

「さて、どこまでだろうね」

 怯えの感情が見える。フィルタリングでこちらの感情は見えない。相手の感情が見えない交渉は極度のプレッシャーを生む。それもまた計算のうちに入っている。

「一つの体に複数の人格というのはあまり良い状態じゃない。登美毘古にはできれば静かに退場願いたいのだが、まあ無理なのだろうな」

「当たり前だ。私はここにいる。これは私の体だ」

「それはリタさんの体だ。お前のものではない」

 プロダクツの中には戦闘の極度のストレスから複数の人格を生み出すケースはままある。軽度の場合はファクトリーで再調整を行い、前線に戻す場合もある。

 リタさんの場合は存在する人格は二つ。うち一つ、おそらく主人格は幼児退行している。急ぐ必要があるがそれを悟られたら時間稼ぎをされる。

「そもそも登美毘古はAMPsによって造られた人格だろう。人工Artificial人類Mankind保護Protection機構Systemなんて言っているが、実際は人工Artificial人類Mankind侵入Penetration機構Systemってところだな」

「違う! 違う! 違う!」

「登美毘古はAMPsによって造られた偽物。リタ・テートはそんな偽物に負ける弱い女性じゃない」

「違う!」

「違わない。私はリタを知っている。そして信じている。彼女は、私の勝利の女神なのだよ。AMPsなどに負けるわけがない。ここにAMPsに勝っている私という存在が居るのだからな」

 登美毘古の刺々しい存在がゆらぎだす。リタのか細い声が大きくなる。

「ロニーさん! 私はここにいます!」

「ああ、わかっている。リタ。大丈夫だ。登美毘古など倒してしまえ」


 精神テストシステムから抜け出す。フランク・ランサム伍長が休めの姿勢のままで立っていた。

「ああ、すまなかったね。だいぶ時間がかかってしまった」

「はい、いいえ、問題ありません」

 時計を見ると2330時を示している。1時間以上たゆたっていたことになる。

 ぐったりとしていたリタ・テート軍曹が目を覚ます。微笑まれる。

「ロニーさん、ありがとうございます」

「ああ、よかった……フランク伍長、これからリック・マクマスター少佐へ報告を上げるのだが、君にも同席してもらう」

 AMPsとイシカホノリ……JAMSADへの追求を上申しなければならない。

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