第15話 面接

 2100年1月28日2200時。

 遅い時間ではあるが、リタ・テート軍曹の面接を行うことにする。基地に戻り次第対面面会個室の予約を取った。装備室でイシカホノリや各種装備の返却を行い、面会個室に向かう。

 偶然だが今日使った部屋がまた割り当てられた。

 彼女の柔らかく艷やかな唇を思い出して少し鼓動が上がる。

 先に入室し、着席して待つ。


 ドアがノックされる。

「はい」

「リタ・テート一等軍曹です」

「どうぞ」

 入室を促すと硬い表情のリタさんが部屋に入ってきた。椅子に座るよう促す。

「なにか、問題でもありましたでしょうか?」

 まっすぐ私を見るリタさん。朝の面接時のときとは全く違う表情。嫌な予感がする。

 ポートを接続し、精神テストキットを持ってくるように要求を出す。

「リタ軍曹、先程はお疲れさまでした。迅速な対応でグロッグ小隊の被害を最小限に抑えることができました」

「はい、軍人として当然のことを行っただけであります」

 固い。教科書のような小隊付軍曹。朝の面談のときはここまで固くはなかった。少し、揺さぶってみるか。

「ところで、朝のあれ、大丈夫だったかい?」

「はい、朝、でありますか……? 少尉との肉体的接触の件でありますか」

 これは明らかにおかしい。

「そう、それでいい」

「取り乱しました。恥ずかしい限りであります」

 ここでドアがノックされる。

「はい」

「フランク・ランサム伍長です」

「どうぞ」

 精神テストキットはユニットの一種だ。ポートに接続するためのプローブが二つ出ている。

「リタ・テート一等軍曹、ロニー・バレット少尉の権限で君の精神テストを実行します。立会人はフランク・ランサム伍長。リタ軍曹、あなたはこのテストを拒否する権利があります。このテストはあなたの精神状態をかなり正確に読み取ります。あなたの秘密はテスト実施者にすべて見られるものと考えてください。テスト実施者ロニー・バレットはその結果について守秘義務が課せられています。その義務に疑義がある場合は告発する権利がリタ・テート一等軍曹並びにフランク・ランサム伍長に与えられます」

 ここまで一気に言った。ファクトリー勤務のときに何度もやったテスト。ここでハネられたプロダクツの行方も知っている。それでもやらなければならない。そう。私はプロダクツの親、なのだ。

「はい、精神テスト、ですか。どうぞ」

「テスト許諾を確認しました。フランク・ランサム伍長も確認をお願いします」

「はい、確認しました」

 プローブをまずリタ軍曹に接続。ユニット中央のボタンを押下。椅子にぐったりともたれかかるリタ軍曹。こちらもプローブ接続。

 意識下にユニットからの情報が流れ込む。

「同調作業を開始します。3・2・1・同調。テスト開始」


 同調が完了した時点でリタ軍曹の思考が流れ込んでくるはず、だった。ユニットはその神経への接続で相手の思考を読み取り、フィルタリングした後こちらに流し込む。

「たすけて」

「もちろん助ける。大丈夫。ああ、今見ているね、小隊長」

「たすけて、ろにー」

「大丈夫。小隊長殿、私は、私だ」

「たすけて、ろにー。わたしが、わたしが」

「戦闘のストレスによる一時的な人格の分離だ」

「たすけて、ろにー」

「ショックから幼児退行した心の一部があるのは認める。そのために精神活動が偏っている」

「ろにー! ろにー! ろにー!」

「父親を求める幼子のようなものだ。いずれ落ち着く」

「いやいやいやいや!」

「小隊長殿、ユニットによる接触が、私のもう一つの人格を揺らがせている。申し訳ないのだがテストを終了してくれないか」

「たすけて! あいしているってこころが、しんじゃう!」

 淀んだ思考の塊が広がる。これは何かがおかしい。プレッシャーを与える。

「わかった。リタ・テートの愛しているというこころを守ることを約束する」

「は? お前、ナニサマだ?」

 リタ・テートのこころに巣食う何かが、牙をむく。

「さて、ナニサマだろうな? ただ、私の可愛い子を喰らおうとする化け物はすべて倒す。ここに配属されたのはそのためだろう」

「お前だって一部食われているくせに」

「……ふむ。なるほど。それは、AMPsというもの、かね?」

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