第11話 貪り食うもの

 2100年1月27日。

 二回目の出動。ディズベリーはまだ陥落していない。

 上から示された作戦指示書には遊撃任務が指定されている。要は好きに暴れろ、と。イシカホノリとヒゲキリの突破力に期待している、ということだろう。

 移動中のAPC内で全員の装備を確認する。重装兵がなくなり、狙撃兵と強襲兵のみとなった。ヒゲキリの感覚は快感だからそうなるだろう。

 メッシュネットワークを通じ、隊員へ指示。

「アラハバキ小隊には遊撃任務が指示されている。各員、に当たれ。今回の作戦では私も前線に出る」

 敵はミシック。すべてを撃滅する。


 前回よりも300mほど北上し停車。コロニーが巨大で更に隣のオールズと共有しているためなかなか削りきれていないが、それでも少しずつ縮小している。

 戦況マップ表示。それぞれ交代の隊員を見つけ、ログの受け取りと後送を行っている。メッシュネットワークの遅延が大きくなる。予想遅延が5秒?

 おかしい。遅延が大きすぎる。

「メッシュネットワークの通信状況より推測。大規模なミシックの集団が予想されます」

 ユニットから冷静な声が意識下に流れ込む。

「AMPs発動。メッシュネットワークへ警告をブロードキャスト」

「AMPs発動します。警告はすでに送信済み」

 隊員たちのヴァイタルが転送されてくる。一時的に上がったものの、すぐに落ち着いた。イシカホノリへの全幅の信頼。たった一日しか使っていないのだが、だがこの最新鋭スーツは強い。

 戦況マップに周辺の兵士たちが見た結果がフィードバックされ、赤い三角が大量に表示される。コード不明。新種か。

 メッシュネットワークに強制転送のフラグメントが流され始める。何人かが食われている。

「小隊長! スカイバケット小隊が食われている! 救援に回る」

 ルーク軍曹からの通信。

「了解。私も向かう。必要ならアルファ分隊を回す。戦線の維持はどうか?」

「はい、いいえ、アルファよりチャーリーをください。強襲兵が必要です」

「わかった。チャーリー分隊、ベータ分隊と共にスカイバケットを救出せよ。私も向かう」


 スカイバケットは隊員の半分を文字通り食われていた。

 大型の頭が三つある犬。それぞれが貪り、人工筋肉を吐き捨てて中の人間の肉を喰らっている。

 ベータとチャーリーの分隊はすでに十体ほど犬を屠っていたが、それ以上の群れに押し切られている。

 ヒゲキリを活性化。貪っている犬を叩き切る。

「腕が、足が、くそっ」

「大丈夫だ。また生える」

 まだ意識が残っていたスカイバケット小隊の隊員のスーツの人工筋肉収縮が行われ圧迫止血が始まっているのを確認。メッシュネットワークの状況から野戦病院扱いになっている廃ビルを確認。左手一本で抱えて廃ビルへ連れて行く。

「メディック! 腕と足を食われた兵士がいる。あとを頼む」

「はい!」

 返事だけ聞いて踵を返して戦場へ。私の可愛い隊員たちは犬に食われていないようだった。

「アラハバキ小隊長ロニー・バレット、スカイバケット小隊の救出任務を遂行する」

 ヒゲキリを叩きつけ、犬を真っ二つに切り裂く。犬が押さえ込んでいた兵士はすでに下半身がない状態だったが、それでも微弱な反応があった。

「助けるからな!」

 血と白濁したタンパク燃料、人工筋肉体液に塗れた兵士を抱えてビルへ戻る。

「次だ! 重傷。急げ!」

 メディックが私を見て一瞬ひるんだが、半分になってしまった兵士を受け取る。

 ベータ・チャーリー分隊は救出より排除を優先している。

 その判断は正しい。我々は消耗品だ。

 だが、私にとってプロダクツは子なのだ。

 子を見捨てる親などいるものか!


 スカイバケット小隊は結局十人を失った。その上重体が二人、重傷八人。隊の2/3を失い、再編されることになる。

 彼らを貪っていたミシックはケルベロスと名付けられた。

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