第10話 初陣

 2100年1月24日。

 アラハバキ小隊初陣。XM7イシカホノリは青と白を基調としたシャープなデザインで、旧来スーツが利き腕と逆の手首のポートのみ使用するのに対し、両手首、両足首、背中、頸部のポートをすべて使う。おそらくAMPsのためだろう。

 APCに乗り込み、ディズベリーへ移動する。

 メッシュネットワークの接続は良好。

 小隊長になると各隊員のユニットの状況が送られてくるようになる。位置、ヴァイタルサイン、武器弾薬状況。

 それらを勘案し、小隊を率いる。私の背中には30人の命が載っている。

 各隊員の装備品はM134-UI、M2HB-QCB-UIなどの重装系、バレットM115やアーカムNX20などの狙撃系、PDWとその弾薬を持てるだけ持つ強襲系など。各員ヒゲキリも装備していて、プロペラントタンクも持たせている。

 AMPs発動中の燃費はかなり悪い。それでもプロペラントタンク一つあれば12時間は持つ。保険だ。

 移動中に全員に訓示をメッシュネットワークを通じて行う。


 今回のディズベリーは初の戦場であり、大量のミシックがいることが想定される。

 我々はそのミシックをできる限り削り、後続の安全を確保する。

 アラハバキ小隊に与えられたイシカホノリにはそれをなし得るだけの力がある。

 実績は私がすでに残している。君たちはそのイシカホノリのスペックを存分に活かし、敵を殲滅せよ。

 案ずるな。我々は強い。

 狙撃兵の中にはM1ダガーを愛用していた者もいるかと思う。だがイシカホノリに搭載されているAMPsが発動すれば、軽装のM1より遥かに機敏かつ正確な動作をXM7は提供する。

 強襲兵の中にはM3ヘヴィーバレルを愛用していたものもいるかと思う。だがイシカホノリの人工筋肉はM3より高性能だ。ペイロードがそれを証明する。

 繰り返す。我々は強い。

 さあ、行くぞ。勝利を我々に。


 同じAPCに乗っていたリタ軍曹が私のイシカホノリの肩のポートに接触接続し、通信回路を開く。

「いい演説でした。小隊には九人の新人が配属されています。それぞれの分隊で三人ずつ預かっていますが、今回の戦闘でどうにか一皮剥ければいいのですが」

 暗い感情ニュアンスが流れ込んでくる。

「新人配属の数だが、多いのか?」

「はい、初戦の戦場に当てられる小隊には普通初陣の兵卒は含まれません」

「なるほど……だが大丈夫だろう。私が初陣であれだけやれたのだ」

「はい、いいえ、それは少尉がバレット姓を持つデザインドだったからではないかと思われます。我々プロダクツは自由遺伝子あるいは人生経験の問題があり、そこまで強くはないかと考えております」

「……同じ人類Mankindだよ、軍曹。ヒトHumanではないかもしれないが、それでも、ね」

 苦笑のような、微笑のような、微妙な感情の流れが統合インターフェイスを通じて入ってくる。

 メッシュネットワークに接続。

「今日の戦闘が終わったら全員に一杯奢るとしよう。各員の奮戦を期待する」

 各隊員から歓喜の感情が流れ込んでくる。この戦い、勝つ。


 ディズベリーのミシックたちはその数を増やし、隣のオールズとほぼつながる巨大コロニーに育っていた。

 カーステアーズから少し進んだところでAPCは停車。全員が降車し、ディズベリーへ徒歩移動を開始する。

 メッシュネットワークが疎になっていく。徐々に遅延する情報。新人たちの心拍が150を越えようとしているのを見て、それぞれの新人へ通信を投げ込んでいく。

「安心しろ。我々は強い。君たちは死なない。大丈夫だ。私を信じろ。ラインからテクノに移ってすぐでも戦えた。XM7を信じるんだ」

 ヴァイタルが落ち着く。90前後、ちょうどよい緊張感だ。

 戦果報告が上がってくる。M134-UIを楽に振り回している戦闘ログ。

 ゴブリン、グレムリン、バグベアのスコアが上がり続ける。弾薬消費が減少、代わりにタンパク燃料消費が上昇。AMPsの発動の証拠だろう。ヒゲキリで切り倒している隊員たちが増え始めた。

 戦闘開始から150分経過。そろそろ交代時間が見えてくる。

「突出しすぎだ。連携を考慮しろ」

 各分隊長に指令を通知。了解返答を受け取り、戦場俯瞰及び報告のあったミシックをマークし小隊戦闘の検討を行う。

 とはいえわずか二十日間の促成栽培少尉だからちゃんとできるわけではない。隣の小隊と連携して削るくらいのことだ。

「こちらアラハバキ小隊、ジャッカル小隊、支援必要か?」

「ジャッカルだ。こっちは状態良好。おたくらが綺麗に刈り取ってくれてるから流れ込むミシックが少ない。楽なもんだ」

「了解。アラハバキ小隊は進行速度を若干緩める予定だ」

「こっちは構わないが、反対側のお隣さんにも伺っておいてくれ」

「了解。アウト」

 メッシュ切断。反対側、ヴァニシング小隊につなぐ。

「こちらアラハバキ小隊、ヴァニシング小隊、支援必要か?」

「こちらヴァニシング小隊。支援要求。現在中型ミシックのガルム二十体と交戦中。大型が一体混じって苦戦中。バロールと推測」

「了解、こちらから分隊を一つ回す」

「感謝する」

 回線切断。分隊の状況を見てロジャー軍曹へ接続。

「隣のヴァニシング小隊が苦戦中だ。ガルム二十体と正体不明の大型一体、バロールらしいがそれとやりあっている。支援に向かってくれ」

「はい、ひよっこが一人戦闘で負傷しておりますので後送お願いします」

「わかった。GPSポイント情報確認。回収に向かう」

「はい、お願いいたします。ではアラハバキチャーリー分隊、ヴァニシング小隊の支援に向かいます」

 ヒゲキリを引っさげてポイントへ向かう。ポイントには倒れている新兵と、それに付き従う衛生兵がいた。

「アラハバキ小隊長ロニー・バレットだ。部下を拾いに来た」

「現在、スーツの人工筋肉による圧迫止血で状態は安定していますが、左腕を肘から失っています」

 鋭利な刃物で切り落とされている。落ちた左腕も回収され、冷蔵されている。

「交代まであと僅かだから私がAPCターミナルまで連れて行こう」

 左腕をハードポイントに引っ掛け、気絶しているひよっこを背負って移動する。

 戦況を見ている。チャーリ分隊は奮戦しているが若干押されているようだ。

「ベータ分隊、チャーリー分隊の支援に回ります」

「アルファ分隊、拠点確保を主目的とし戦闘を継続します」

 軍曹たちは戦況を見て自分の仕事をきっちりこなしている。私がやることはあまりない。よいことだ。


 ひよっこは後送され、切断された左腕は無事くっついたそうだが、PTSD発症、そのまま軍籍を失った。

 我々人工人類における軍籍の喪失は……やめよう。考えても仕方のないことだ。

 小隊の次の任務は七十五時間後。それまでは束の間の休息をとることになる。作戦終了のサインをしていると、新しい兵卒が配属になるという辞令を受け取った。

 アーサー・レイクス二等兵。強襲をメインとする。チャーリー分隊に配属となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る