第9話 小隊編成

 2100年1月20日。

 呼び出された執務室には初対面の少佐階級章を付けた男性がいた。

「ロニー・バレット少尉。活躍は聞いているよ」

「はい、ありがとうございます」

 男性はデスクに両手を組んだ状態で置き、私を見つめる。

「ああ、自己紹介がまだだったな。リック・マクマスターだ。前任のジェイニー・ホークヤード中佐はこの休暇中に体調の急激な悪化……第二世代固有の多発性末梢神経障害が発生してね。依願除隊した」

 ここでリック少佐は手を解き、デスクに載っているクリップボードを手に立ち上がり、私に近づく。

「小隊の隊員表だ」

「はい、ありがとうございます」

 クリップボードを受け取る。

 クリップボードには隊員の階級と軍歴が書かれている。

 リストのトップはリタ・テート一等軍曹だった。初陣のお隣さん。他にルーク・エヴァット二等軍曹、ロジャー・ヒギンス三等軍曹の二人の軍曹。リタ軍曹が小隊付軍曹、ルーク軍曹とロジャー軍曹がそれぞれ分隊長。

 小隊名はアラハバキ小隊、だった。他に付帯事項としてJAMSADのXM7並びにXVS10が人数分配布される。

「資料をよく読み、また面接等を行って隊員の把握に努めよ」

「はい、粉骨砕身いたします」

 退出を促されたので執務室を出る。


 自室にてポート接続。

「ミーティングルームの直近の空きを」

 統合インターフェイスから情報が流れ込む。1月21日0900時から1200時まで空きを確認。予約。

「アラハバキ小隊員へ通達。1月21日0900時、ミーティングルームにて面接を行う」

 小隊は24日の0600時、攻撃再開のスケジュールに組み込まれている。実戦経験がほぼないというのにエース扱いされるのはイシカホノリとヒゲキリが全員に配布されるからだろう。

 プロダクツが全員脳内物質のスイッチングができるタイプならいいのだが。AMPsと組み合わさるとミシックハンターとしては最上の部類に到達できる。

 体験してみるとわかるのだが、AMPsが発動すると自分のに体を動かせるようになる。意外と我々は自分の思ったとおりに体を動かせていない。AMPsはおそらく統合インターフェイスを通じて使用者の微妙な思考を読み取り、スーツの人工筋肉をコントロールする技術だろう。

 脳内物質のコントロールと重なるとかなり快適に戦闘を継続できる。

 その上ヒゲキリのあの切れ味は快感だ。更に脳内麻薬のブースターになる。

 隊員表を眺めながらそのDNAの設定を確認していく。小隊30人のうち、スイッチを入れられるのは12人、軍曹たち全員が入れられるのは幸運だ。


 翌日、ミーティングルームで面接を行う。全員時間丁度に入室し、予め分けられた分隊ごとに整列。先頭には軍曹たちがそれぞれ立っていた。

「リタ・テート一等軍曹」

「はい」

 顔を見、声を聞くのも初めてだ。前回はメッシュネット上のテキストデータだった。そばかすの残る赤い髪の白人系。おそらく狙撃兵であろう体型。

「小隊付軍曹としての働きを期待する。私はそもそもテクノ上がりでライン経験はここに来てからの数日間しかない」

 隊員に少し動揺が広がるが、隊列を乱すほどではない。よく訓練されている。

「ルーク・エヴァット二等軍曹」

「はい」

 背も横幅もある黒人系。いかにもな体躯の軍曹。

「分隊運営を任せる。問題解決には適当に当たれ」

 ルーク軍曹はビシッとした敬礼を返す。息をするように軍規を守る軍曹。いずれどこかの小隊付軍曹になるだろう。

「ロジャー・ヒギンス三等軍曹」

「はい」

 やや細い印象のヒスパニック系。眼光は鋭く、よく斬れる刃物の印象。

「同様に分隊運営を任せる」

 その後隊員一人ずつに声をかけ、チェックし、激励し、鼓舞する。

「我々はおそらく実験小隊だ。XM7イシカホノリはJAMSADの開発で、日本の土着神の名前だ。そして我々の小隊名アラハバキの別名でもある」

 イシカホノリは死の神イシカと生命の神ホノリという説。あるいは末代の光という意味。安日彦あびひこ登美能那賀須泥毘古とみのながすねびこの別名だったという説。様々な説がある。

 アラハバキは荒羽吐アラハバキ族という民族名だったとも言う。

 名前には必ずなにかの意味がある。意味もなく名付けることはない。我々デザインドとプロダクツもその名を与えられ、属性が確定する。

 イシカホノリにしろアラハバキにしろ、おそらくなにかの意味を持って命名している。

 しばらく考えていて沈黙が流れてしまった。咳払いをする。

「少し脱線したな。イシカホノリにはAMPsというシステムが載っている。おそらく起動までにある程度学習が必要なのだろうが、ユニットから提案されたら起動してみるといい。世界が変わる。それこそ、テクノ上がりの私が、信じられない戦果を挙げられたように、な」

 微笑む。が、隊員は全員引きつった笑いを返してきた。

「……まあいい。そろそろ時間だ。解散。作戦行動時間になったらAPCターミナルへ集合」

 アラハバキ小隊用のAPCが三台用意されるのだそうだ。豪勢なことだ。

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