実験小隊
第6話 ロニー・バレット少尉
2100年1月1日。21世紀最後の年が始まるが、まああまり関係のない話だ。
私はファクトリー勤務だったが20日間のトレーニングが終わり今日から前線勤務となった。
言いたいことはたくさんあるが、階級がすべての軍においてはどうにもならない。
カルガリー拠点司令のジェイニー・ホークヤード中佐から直接面接指導を受ける。
「テクノからラインに変更というのは珍しいね、ロニー少尉」
「はい、自分も衝撃を受けているところであります」
ジェイニー中佐は手元のクリップボードを見て、その後私を見る。ジェイニー中佐はきっちりとメイクをしている。ライン指揮官としては非常に珍しい。
「急なことで余剰の小隊はないんだ。君には遊撃任務を与える。好きなときに出撃し、好きなだけ暴れてくれればいい。テクノ上がりに戦果は期待していない」
「はい、感謝します」
「ま、働きによっては昇進とかテクノへの復帰とか……あるかもしれないね」
「はい、力戦奮闘いたします」
退出しろ、と手を振られたので敬礼をして退出した。
まあ、体の良い廃棄処理だよな、と思う。私はファクトリーでプロダクツの製造管理をしていたのだが、なにかのミスがあったのだろう。詰め腹を切らされた、というやつだ。
装備室で充てがわれたスーツを見る。日本製の最新人工筋肉採用スーツ、XM7イシカホノリ、という名前だそうだ。
ミシックの侵略により徐々にアメリカ・カナダ連合の開発力は下がっている。日本にはゲートがなく四方が海という利点があり、ミシックの被害は殆ど水際で食い止められているとのことだ。結果ジリジリと国力差がでてきている。
イシカホノリとセットで送られてきた装備にXVS10ヒゲキリという名の日本刀があった。3フィートの長さで高周波振動、チタン・モリブデンの特殊合金。これを作ったヤツは何を考えているのか。
取扱説明書には「イシカホノリの筋力がなければ振り回されるので他のスーツでの使用は推奨しない」とあり、自動的に私の装備となった。
あとはM134-UIとその弾帯。これもイシカホノリの筋力があるから振り回せるという判断だそうだ。
訓練で使っていたノーマルスーツのM2バックラーに比べるとずっと積載能力が高いのにスーツ重量は変わらない。とりあえずスーツを起動し、装備品をハードポイントへつけていく。
M134-UI/アーカムPDW/XVS10と予備弾薬をたっぷりと詰め込む。APC発着場へ向かって移動する。
APCでは誰も話しかけてこなかった。見たことのないスーツ、少尉階級章。回りは全部下士官もしくは兵卒で、士官は私くらいだ。士官は士官用のAPCがあるんだろうと思うが、まあそのへんは気にしていても仕方ない。部下なし士官の遊撃隊だ。
現在の主戦場はエイドリー。30分ほどの移動でつく。前線なのだなと実感する。
APCから降りる。司令部からの指示は特になし。本当に遊撃なんだなと思いつつPDWを接続。周辺の情報を確認しながら移動する。
実戦経験はないが心は平穏だ。私のベースとなったオリジナルも優秀なラインだった。ファクトリー勤務だとそういう情報にも触れることになる。
エイドリー中心部に到着。どこかにいるマザーを見つける任務、ということにしておく。背中のハードポイントにM134、左手にPDW、右手にヒゲキリ。昔のハリウッド映画のような格好だなと思いつつ索敵移動。
ユニットから情報が流れ込む。その機械的な反応に安心する。
ゴブリンとグレムリンが多数。マザーはどこに居るか不明。そんな状況でPDWで小物を削っていく。
「少尉殿、初陣ではないのですか?」
メッシュの隣、リタ・テート軍曹からショートメッセージ。
「初陣だ。死ぬ気でいればなんてことはない」
ちょうどPDWの弾倉が空になったのでハードポイントへ戻し、ヒゲキリを右逆手に。身長が1mにも満たない小型ミシックには逆手で振り回すほうが丁度いい。
ヒゲキリは細かく震え暴れる。イシカホノリの人工筋肉とユニットはそのヒゲキリの振動を予測し、抑え込む。
バターを切り裂くようにヒゲキリはミシックを切り裂く。信じられないという顔をし、そのまま消滅するミシック。
素晴らしい切れ味。惚れ惚れする。
ざっくりと小型を切り飛ばした後、ヒゲキリをハードポイントへ戻し、PDWの弾倉交換、再びハリウッドスタースタイルで移動。
「
ユニットから流れ込む聞き慣れない単語。
「何だそれは?」
「イシカホノリの人工筋肉はタンパク燃料の消費並びに筋肉の疲労を抑えるためリミッターが施されています。現在タンパク燃料に余剰があり、作戦行動時間も4時間を上限としているためリミッターを解除しても作戦行動に支障はありません。行動限界時間はおよそ6時間。ただし、最大10時間のクールダウンが必要です」
「ふむ、AMPs起動」
「AMPs起動」
それまで重かったヒゲキリがかなり軽く感じる。これならばPDWで撃つよりもヒゲキリで切り裂くほうが楽だ。
更にミシックの動きがゆったりしているように感じる。これははデザインドの強みの一つ。脳内処理の最適化並びに分泌物のコントロールがあるから、だ。
スイッチが入った。交代まではおそらく私は死なない。それどころかミシックにとっての悪夢となるだろう。
「ロニー・バレット少尉、そろそろ交代の時間です」
ユニットから意識下へ流し込まれる警告。
「そうか。戦果報告」
「完了しています。バグベア13、ゴブリン28、グレムリン41。驚異的スコアです」
帰りのAPCでは違った意味で誰も話しかけてこなかった。
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