アメリカ・カナダ連合
カルガリー奪回戦
第2話 テリー・レイクス二等兵
2099年12月1日。
クソッタレの朝。
支給品の高タンパク食を流し込む。兵士の燃料ってやつだ。顔を洗い、歯を磨いて部屋を出る。
装備室でスーツを着込む。標準筋肉量のノーマルスーツ。カスタマイズはハードポイントの増加くらいだ。タンクにスーツ燃料の高タンパク液を流し込む。
こいつも、俺と同じモノを食っているってわけだ。
システム起動。スーツが統合インターフェイスを通じて体の一部となる。メッシュネットワーク接続、ステータス確認。中央からの予想遅延は2ミリ秒。
人工筋肉が収縮し全身が締め付けられる。ハードポイントに弾帯と予備銃身、
12.7mmのブローニングM2をベースにユニット用インターフェイスを備えたM2HB-QCB-UI重機関銃を手に
「おはようございます、テリー・レイクス二等兵」
ユニットの合成音声が意識下に流れ込む。
「今回も前日と同様カルガリー奪回作戦を継続します。交代時間は四時間後。離脱が難しい場合はそのまま次の交代時間まで作戦行動の維持を行ってください」
軽く言ってくれる。が、我々はそれが商売だ。
戦場到着。APCからスーツ姿の同僚たちが降りていく。
HMDに作戦領域の地図と予想される配置が映し出される。重機関銃をユニットに接続。オンライン確認。弾倉の状態と温度センサーが正常に稼働していることを確認する。
ハンドサインを交わし散開する。
メッシュが希薄になり遅延が大きくなっていく。現時点での中央から予想遅延は120ミリ秒。徐々に銃撃音が大きくなり、前シフトの兵士たちとの間のハンドシェイクがリポートされる。
指示された交代ポイント、廃ビルの2階へ移動すると窓から7.62mmを突き出してバーストしている兵士が見えた。
リレーポイントが増えることによる遅延の弊害と更に戦況ログの交換並びに後方への転送が行われるためにデータリンクが圧迫されていく。
予想遅延がミリ秒単位から秒単位へ移行。現在約1.5秒遅延。送られてくる戦況ログのダイジェストデータが統合インターフェイスを通じて俺の意識下に投影される。
ゴブリンが多数。その後ろに10mほどの巨体。ミノタウルス、か。厄介なミシックだ。
打たれ強く、凶暴で、巨大。もう少しでかいヤツを持ってくるべきだったか。
ミノタウルスがハンドグレネードを数発もらっているというログ。だが倒れない。
ログの交換にはおおよそ15分かかる。交換完了後の後方転送が完了するのに更に5分ほど。HMDに完了サインが点滅した。肩の通信ポートに左手を接触させ接続。
「交代です、クレイグ・ホッパー上等兵」
嫌なログを見た後だが冷静に通信を送る。
「気をつけろ。ダイジェストを見たならわかるかと思うがミノタウルスの新種かもしれん。ジャパニーズペアをすでに5個食っているが、倒れる気配はない」
M67アップルの後継M73ジャパニーズペアは日本製のハンドグレネード。M67とほぼ形は変わらないが中身が日本製ってことでそんな名前で通っている。
クレイグ上等兵はインターフェイスを通じてその情報を俺に流し込むとサムズアップして後方へ移動。リンクが切れた。
窓から外の戦況を確認する。近隣のユニットからのデータが流れ込む。周囲のゴブリンはほぼ掃討済み。ここに12.7mmで籠もる意味は薄いと判断。中央へ現ポイントの破棄を申請し、遊撃任務へ遷移する。M2を背中のハードポイントへぶら下げて窓から飛び降りたところで申請が許可され遊撃任務の正式な発令が行われる。
移動開始してから数秒後、中央から警告が来た。遊撃指示前のポイント離脱に関する苦情。現場判断を表面の言葉で詫び、戦場を走り抜ける。
誰だ告げ口したやつは。近くのメッシュポイントを見ていく。
おそらくジリアン・ヘンウッド二等兵だろう。後で話をつけておかねばなるまい。
走りながら右腰のハードポイントにある6x35mmのアーカムPDWをつかみユニットへ接続。ステータスがHMDに表示される。
意識下にユニットからの警告が転送される。前方にゴブリンもしくはそれに類するサイズのミシック数体存在の可能性。別のポイントからのユニットとのリンク強度から推測される情報。
廃ビルの影から飛び出し、掃射。3体のゴブリンの排除を確認。
強い警告が転送されてくる。巨大なミシックの反応が2時の方向500メートルほどにあり、こちらへ突進中。PDWをハードポイントへ戻し、背中のM2を再接続。手近な廃ビルの中に入り、上階へ移動。
射線が通った。緑の目は8対。周囲を睥睨する悪夢の目。
M2を窓枠に載せ、ぶっ放し始める。周囲からも火線が飛ぶ。2弾帯ぶっ放したところでユニットから温度警告が来た。一度引っ込んでバレルを交換。周囲のユニットからの警告が転送され、窓枠に視線を送る。
「な……!」
窓枠に巨大な手。隣の窓枠には緑の目。ろくに照準も付けずぶっ放す。いくつか壁に弾が当たり、砕ける音。
衝撃。壁を破壊した手が伸びてくる。M2の接続を強制切断。投げつけながら下がるがミシックの手はそのまま伸びてくる。
「クソッタレ! ログ強制転送!」
ユニットが周囲のメッシュネットワークに現在の戦闘映像ログをバラバラに分割し強制転送していく。
ミシックに掴まれた。ありえない力で締め上げてくる。スーツの人工筋肉がフルパワーで抵抗するが、ビチビチと筋繊維が切れていく音が聞こえる。バックパックのユニットがきしみ始める。
「保安システム発動!」
タンパク発電システムがフル稼働し、HMDにオーバーロード警告並びに保安システム発動の警告が出る。意識が遠くなる。保安システム起動確認。あばよ、先に行ってるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます