第3話

 "彼女"の気配が俺の周りの空気を撫でる。

 俺は"彼女"がやってきた事を確認するために、"彼女"がいるであろう方向にカメラを向ける。

 パシャリ。

 写真を見ると、笑顔でピースをした彼女が写り込んでいた。



 "彼女"は目では見ることができないのだ。


 俺の、このカメラでしか彼女を捉えられない。


 "彼女"は、不思議な幽霊なのだ。







 俺は、この森の写真を撮りたいから来ている。だが、彼女との交流もまた、1つの目的なのだ。

 彼女は声を発さない。いや、発しているのかもしれないが、聞くことはできない。俺の体にも触れられないようだ。


 写真で姿を確認すると、年齢は20代前半?頃だろうか。薄めのピンク色のワンピースをいつも身に纏っているようだ。

 いや、そもそも幽霊って服着替えんのか?

 髪は肩の下まで伸びている。


 俺にわかるのは、それぐらい。


 名前すら知らないが、写真を通して見れば、姿は見えるから構わない。

 彼女は突然立ち上がり、森の奥へと向かった。

 細かい方角まではわからない。だから、追いかける事もできずしばらく待っていると、ふわふわと花束が飛来した。

 おそらく、彼女が摘んできたのだろう。

 花束にカメラを向け、パシャリ。

 両手で花束を持っている彼女の姿が写っていた。

 崩れ無いように優しく受け取る。

 感謝を言おうとしたが、花束を受け取ってしまったのでどこにいるかがよくわからない。


 カメラで辺りを撮ってみたが、彼女はもういなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る