第12話 片割れ
「私が、双子……?」
頭が追いつかない。
それは最初に目覚めた時からだが、ずっと葵だけ置いてけぼりをくらっているように感じる。
「お
「じゃあ……本当の家族のことも……?」
「すでに調べはすんでいる」
「両親のことを教えてやってもいいが、知ったからといって親には会えない。
わざわざ刺すような言い方をされてムッとなる。
だが確かに、捨て子なのは事実。生みの親と育ての親、どちらにも捨てられたなんて、悲しいを通り越して清々しい。
それに葵はもうすぐ
親の事を知ったところで
(────けど、私だってまだ諦めたわけじゃない!!)
「まあまあ、そんな
この場にそぐわない、柔らかい
「ニシキ」
リンが男に厳しい眼を向けた。
「余計な世話は
「けれど、弟の心配をするのは兄として
「ここでは
(き、兄弟だったんだ……)
顔も雰囲気も似ていないからわからなかった。
弟に突き放されたニシキは眉尻を下げた。
「ああ、そうだね。これはつい失礼を……。しかしリン、巫女は国の
リンはそっぽを向いた。
(こんのオカッパ
葵が身の
「それこそ
一斉にリンへ視線が集まる。
しかし当の本人は顔色一つ変えず、小首を傾げてみせた。
その態度に、噛み付いた神官はムッとした
「聞けば、巫女が目覚めるなり
「妖獣の
もう一人が皮肉げに笑うと、数人の神官達もあわせたように鼻で笑った。
「いやなに、我らは
「いざ
わかりやすい
「貴様ら!! 黙って聞いておれば無礼な!!」
リン側に
「だいたい、
「そうだ!! 現に巫女は無事であろうが!!」
そうだそうだ、と口々に
最悪なことに、葵はそのド真ん中に座らされているのだ。
しかも、内容が自分のこととなるとさらに居心地が悪い。
葵は
「これ、よさぬか」
見かねてニシキが止めに入った。
「巫女が
人の良さそうな、穏和な笑みを向けられて、葵は少しだけ気が抜ける。
「葵殿、お恥ずかしいところをお見せ致した。これでも気の
「は、はあ……」
葵がぎこちなく頷くと、今度はリンに向き直った。
「大変失礼致した。
そうは言っても、リンが許すのだろうか。
葵がビクビクしていると、ずっと黙っていたリンが口を開いた。
「いいて。
(……だ、誰?)
急に
そんなに丁寧な謝罪ができるなら、普段もそうすればいいのに。
(私にはあんなに
ニシキは笑みを
いがみ合っているのは下の者達で、意外と
「────とはいえ」
リンの独特な声が部屋中に響いた。
誰もが彼に注目した。
「本来ならば決して開かぬはずの
せっかく
リンが言わんとしていることがわからず、ニシキは眉を寄せる。
「近頃、本殿への女の出入りが多々あるとか」
その言葉に、ニシキ派の男達の何人かが息を
ニシキは笑顔を絶やさず聞き返した。
「それは下女達だろう?」
「聞けば、兵士達の
「まさか……本殿へは
「その
ニシキはおかしな聞き間違いをしたような
リンが
「本殿に住まう男は我々のみ。まさか、下女達が女を買うわけがあるまい」
これには
ニシキ側の後方に座る一人が、焦ったようにリン側の神官達を指さした。
「お、お主たちの誰かではないのか!?」
いわれのない罪を擦り付けられた側は、当然
「門番達は、女を南棟へ通すよう言われたと言っていたが?」
「……記憶にござらん」
(政治家か!)
葵は思わず心の中でつっこんだ。
どこの国も言い訳の
「そうか、では個人の名を出せば思い出せるだろう?」
すかさずリンが言い返すと、今度こそぐうの音も出なくなった。
それでもリンの追い込みは終わらない。
「巫女が不足し国が危ういというのに、お前たちは
リンが睨みつけると、身に覚えのある
ついさっきまでリンが一方的に責められていたのが、いつの間にか形勢逆転である。
「であるのに、
そういうことか、と葵はリンの
『上の立場の俺は頭を下げたのに、お前らはプライドばかりで出来ないの? 国民の命が掛かってんだけど、おわかり?』
相手の
最初の丁寧な謝罪は、このためだったというわけだ。
全てはリンの
(うわあ、やっぱりあいつ超性格悪い!!)
「ついでに言えば、これに
ギラギラと殺気を向けられ、葵は勢いよく顔をそらした。
(こ、殺される────!!)
「もうよい」
鶴の一声でその場を
「リン、そのくらいにしておいてやれ」
リンは素直に頭を下げた。
「ニシキ、
「
ニシキが深々と謝罪すると、それにならって全員が手をついて頭を下げた。
葵には、惲薊が向けたその眼が、リンのそれと重なって見えた。
顔が全然似ていなくても、やはり親子。似るところは似るのか。
それにしても────。
(この会議……疲れる……)
いつもこんなのでは、胃に穴があいてしまいそうだ。
神官達は抜きにしても、トップの三人は血の繋がった家族であるはずなのに、それぞれの間には見えない壁があるように感じる。妙な感じだ。
再び静寂がおとずれ、惲薊は葵を見下ろした。
「葵よ。村まで逃げたことは、すでにリンから聞いておる」
葵はギクリとする。
罰を言い渡されるのではないかと、怖くなった。
「だ、だって! 私死ぬんでしょう!? まだ死にたくないもの!! お願いします、家に帰してください!!」
数秒、間があった後、神官達の
リンも今度こそ止める気はないようで、うんざりしたようにあさっての方向を見るばかりで、葵と目を合わせようとしない。優しげな笑みを浮かべていたニシキも難しい顔で押し黙っている。
結局、
「お主は巫女の教育を受けていないゆえ、
「だったら────!!」
「が、それは出来ぬ」
「どうして!?」
「一人の命と多数の命、どちらが重いか
もしかしたら、と微かな希望を抱いていたが、甘かった。
ここには味方どころか、同情する者すらいない。
残酷な現実を突きつけられ、涙が流れた。
「そもそもお主は
「でも、でも────!!」
「儀式は明日、とりおこなう」
「あ、明日!?」
男達は声をそろえて返事をした。
「リン、巫女が命を
「
まるで葵が自主的に犠牲になるような言い方に耳を疑う。
所詮、この当主も腹の中は真っ黒だった。
「ま、待って下さい!! そんなのって────!!!!!!!!!!!」
「それからリン、髪を染めろ。何度も言わせるでない」
「……は」
「なんで、私がこんなことに……」
(明日……明日死ぬ……?)
絶望に打ちひしがれる葵の声を聞く者は、誰もいない。
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