after2 睦月とダイエットと温水プールと……

「ゆうちゃんのばかぁ〜! ゴボボバッ!」

「ご、ごめんってば! げっ!」


 目の前で溺れそうになりバタバタ暴れる睦月。

 それに合わせて跳ねる水飛沫がキラキラと輝く……ってそんな場合じゃなかった!


「おいこら、あんまり暴れんな! 支えられなくなるだろ!」

「そんな、こと、言ったって!」

「あーもうっ! 力ずくで持つからな!」

「あ! ちょっと待って! ひゃんっ!」


 俺の手が睦月の肌と布の間に滑り込む。

 おや? これはもしや?

 まぁいい。とりあえずは支えないと。

 その結果、俺が溺れかけた睦月を後ろから抱きしめる形になってなんとか一息。ふぅ。


「ちょっとゆうちゃん。手」

「手?」

「支えてくれたのは嬉しいけど、そこは今支えなくてもいいんじゃない?」

「いや、大きいから重いかな? って思って」

「大丈夫だしっ! ゃんっ! こら! 動かさないの!」


 よく見ると俺の左手は睦月の腰に回され、右手は睦月の豊満な右側胸部装甲(ちなみに睦月の水着は競泳水着。ちょっとはち切れそうだけど)の中にすっぽりおさまっていた。

 いやまぁ、見なくてもわかってはいましたけどもね?


「もう、そういうのは帰ってから部屋で……ね? ほら! 続き続き! 」

「はいはい」


 今じゃもう、周りの目は気にしたら負けだと思ってるから気にしない。

 おや? そこの青年。目が血走ってるけど大丈夫かな? 塩素にやられた? 早く洗わないと!


 さて、なぜこんな状況になったかと言うと、話は2日程遡る。



 ──2日前


 今はまだ春休みの途中。久しぶりに睦月の部屋にきてまったりしていると、学校関係の書類の整理をしていた睦月の手が止まり、急に血相を変えて俺の目の前に来てこう言った。


「ゆうちゃん! 大変!」

「なにが?」

「始業式の翌週に身体測定があるの! 教員も!」

「それで?」

「痩せなきゃ!」

「それ、女子中高生の定番のセリフだなぁ」

「ふぐぅ……! あの頃と比べると落ちにくくなってるんだよぅ……」

「てか別に痩せなくてもいいんじゃないのか?」

「ほら出た! 少女漫画のヒーローがよく言うセリフ! 嬉しい♪ けど違うのっ! 痩せる痩せないじゃなくて、紙に書かれる数字の一の位が4か、5で全然違うの! 0か9でも違うの! 気分的に!」


 よくわからんな。


「で、何するんだ? 今はまだ寒いから汗なんてそうそうかかないだろ? 」

「ナニするだなんてゆうちゃんのエッチ! でも好きっ! 」

「……」


 いや、何でだよ……。


「うぅ……無言の圧力がぁ……。ちゃんと考えてるからね? はいこれ。ここにいってみない?」


 そう言って渡されたのは隣街の温水プールのチラシ。


「温水プールか?」

「そう! それで水中ウォーキング! 」

「いいけど……あ」

「やった! じゃあ今度の休みね♪」

「あ、あぁ」


 あれ? 記憶が確かなら睦月って泳げなかったような? いや、さすがになぁ……。


 ってのが2日前の事。

 案の定、睦月は今でも泳げなかった為、俺が手を掴んでなきゃ歩けないという自体になった。

 そしてつい手を離したら、さっきみたいな事になったってわけだ。やれやれ……。


 そしてしばらくウォーキングを続ける事一時間。


「疲れたぁ! 少しは痩せたかな? 」

「1日くらいじゃそんなにかわらないだろ?」

「もう、夢がないなぁ!」


 頬を膨らませてプンスコ拗ねる姿はとてもじゃないが歳上には見えないな。


「ほら、帰って休もうぜ」

「はぁーい」


 その後、睦月のアパートに戻り、順番にシャワーを浴びてリビングでグッタリ……してるのは俺だけだった。


「睦月さん? 何をしてるのかな?」


 まるで猫の様に俺の膝の上に登ってくる。


「ゆうちゃんが悪いんだよ? プールであんな事するから」

「あれは溺れそうになったのを助けたからであってだな? 他意はないぞ?」

「うん、知ってる。だから……」


 だから?


「今度はゆうちゃんに溺れちゃおっかな♪」



 あぁ、そーゆーことね……。




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