第67話 雨─そして知ること
二月の頭。
気温は低く、吐く息は真っ白。
そして目の前には、さっきまで降っていた雨のせいでびしょ濡れになったままでうつむいている雪花がいた。
「お、おい。そんなに濡れてどうしたんだ?傘は? 風邪ひくだろ? それにこんな時間まで……」
今は夜の7時。用事があると言って先に帰った雪花の帰りが遅いから探しに行こうと外に出ようとした所で玄関の前にいる雪花を見つけたのだ。
「……」
雪花は何も答えずに下を向くだけ。
「雪花?」
その時、小さくて消えそうな声が聞こえた。もう少し離れていたら聞こえなくなりそうなほどに小さな声が。
「……った」
「え?」
「……私は一番になれなかった」
は?何を言ってるんだ? 一番? なんの?
「なぁ、何の事だ? 一番?」
「いずれわかるわ。ごめんなさい。今は一人にして欲しいの」
雪花はそう言うと俺の横を抜けて家の中に入って行った。俺も追いかけて家のなかには入るが、飯と風呂に入る以外は部屋にこもりっきり。紗雪も心配して部屋に行くけど、中には入れて貰えないみたいだった。
「ねぇゆうくん。せっちゃん何かあったの?」
「いや、俺にもわからない。何も言ってくれないんだ。ただ一言『一番になれなかった』としか……」
「一番? なんだろ?」
ホント、一体なんだってんだ?
次の日も雪花の異変は続いていた。
朝、学校に行くときも一緒には行くけど腕にはしがみついてこなかった。
そのかわりにエレナがいつもの雪花の位置に来て腕にしがみついて胸をグリグリしてくる。雪花は一瞬見るだけで何も言わずにスマホをいじりはじめた。
「はぁ、全然気付かないのですね。せめてもう少し成長してくれれば……。さて悠聖さん。雪花さんはどうしたのですか?」
「俺にもわかんないんだ。昨日ずぶ濡れで帰って来たかと思ったら、それからずっとこんな感じでな」
見た感じは機嫌が悪いってわけではなさそうなんだよな。起きた時もちゃんと挨拶は返してくれたし。悩んでる? 焦ってる?
うん、考えてもわかんないな。みんな集まるから睦月も呼んで昼にでも聞いてみるかな?
そして昼、いつもの場所にみんな集まって飯を食い始めたところで聞いてみた。
「なぁ雪花、一体どうしたんだ?」
「そうだよせっちゃん! ゆうくんから聞いたけど、一番ってなんのこと?」
雪花は箸を止めてしばらく考え込むと口を開いた。
「──それは私からは言えないわ」
私から? 他に誰か関係してるのか?そこで少し遅れて睦月もやってきた。コンビニの袋を持って。ん? 指に絆創膏? 怪我でもしたのか?
「ごめんごめん! 今日お弁当忘れちゃってコンビニに行ってたんだぁ。タイミング逃しちゃってろくなの残ってなかったけど」
手にした袋から出したのはサラダとお菓子をいくつか。……お菓子?
「これ好きなんだよねぇ♪」
そう言いながらお菓子の包みを開く。俺も好きな棒状のスナック菓子だ。
昼にお菓子とサラダて……。
少し呆れて、あんまりだから俺のおかずを少しわけようとした瞬間、雪花がいつもより大きな声で睦月に告げた。
「先生! なんでそんなもの食べているの?
自覚はあるのかしら?」
「……へ?」
激昂した雪花にいきなり怒鳴られた睦月はあっけにとられて固まってしまった。俺たちももれなく石と化す。
「先生は私のお弁当を食べてください。そっちは私が食べます」
「え? へ?」
あっという間に交換されてしまい、睦月の手には雪花の弁当が乗せられている。
なんだこれ?
「え? 雪花ちゃん? これはどういうこと?」
「はぁ……。 どういうこともなにも私達を差し置いて一番になったじゃない。もっと自覚をもって生活をしてもらえるといいのですけど?」
ん?ここで一番が出てくるのか?睦月が一番……何がだ? 年か?
「話が読めないんだけどぉ?」
「誤魔化すのかしら? なら私が言ってもいいのね?」
「えっと……どうぞ?」
「昨日、自販機の裏で先生が電話で話してるのを聞いたわ。出来たのでしょう? 悠聖君との間にその……愛の結晶的なものが……」
ぶっ!
「「「「え、えぇぇぇぇぇ!?」」」」
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