第60話 ……王子様?

 痛みも割りと引いたから今日は登校することにした。休んだのは病院に行った日の翌日の一日だけ。

 理由は簡単。家にいるよりも、学校に行ってた方が休める事に気付いたからだ。

 あの双子には、安静って言葉の意味を考えて欲しい。切実に。


 そんなわけで今は学校に向かって歩いてるとこ。鞄はじゃんけんで勝った雪花が持ってくれていた。


「なぁ、やっぱり自分で持つぞ?右手は大丈夫なんだからさ」


「ダメよ。これは私の役目。誰にもゆずらない」


「くやしい……」


 雪花はそう言いながら俺の鞄をギュッとする。なんの使命感だよ。

 紗雪もそんなので悔しがるなよ。


「なんかなぁ……はぁ」


 もう諦めよう。


「おはようございます。悠聖さん」


「ん?あぁ、エレナもおはよ。こないだは紗雪を守ってくれたんだろ?アイツ投げ飛ばしたんだって?すごいな!」


 駅まで行くとエレナも顔を出した。


「いえ、大したことないですよ。虫と一緒ですから」


「お、おおぅ……。そうかぁ……」


 凄いこと言うなこの子は。あ、そいえば!


「なぁ、俺の屋上での会話の録音ってさぁ……」


「さぁ、早く学校行きましょう。遅刻してしまいますよ?ほら早く」


「まてい」


 早足で歩き始めたエレナの肩を掴む。


「なんですか?」


「いや、なんですか?じゃないからね?確かに今回すごい助かったし、すごいありがたかったけど、聞かれればちゃんと答えるから盗聴みたいなのは辞めなさいって言ったよね?今回のは俺を心配しての事で、雪花とグルみたいだったけど」


「……すみませんでした。でも!」


「でも?」


「……言ってくれなかったじゃないですか」


「何を?」


「あの日、紗雪さんが「何もされなかった?」って聞いた時に言ってくれませんでしたよね?肉まんを程の痛みだったのに」


「うっ」


 確かにそう言われると……。

 それにやっぱりあの時はエレナが落としたんじゃなかったんだな。あれで俺の様子を見てたのか……。


「ワタシ達に心配をかけないように考えてくれていたのはわかります。それでも言って欲しかったです。」


 隣で雪花と紗雪も強い目で俺を見つめていた。


「わかったよ。今度からはちゃんと言うよ。ごめんな?」


「「「嘘だ」」」


 ……なんで!?今良い感じに終わる所でしょ!?


「さて、そろそろ行かないとホントに遅刻するわよ?」


「そだね、行こっか」


「はい。昨日焼き菓子作ったのを持ってきたのでお昼に食べませんか?」


「それは楽しみね」


 あれ?ここでわかりあうのがテンプレじゃないの?あれぇ?

 あ、さっきの目は疑いの目だったのね?納得。


 学校に近づくにつれて、妙な視線を感じる。主に同じクラスの奴から。

 なんだ?ギブスしてるからか?


 そして教室に入ると決定的な一言がかけられた。


『よっ王子様!』


 ……は?王子様?誰が?

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