第59話 奪い合い

 現在、俺の目の前で戦争が起きている。

 口を出すことも許されない。手を出すのは良いらしい。なんでだよ……。


「はい!やっぱりおにぃのお風呂は奈々が手伝います!だって妹だもの!」


 だっての意味がわからん。つか、なんか久しぶり?


「いーえ、アタシが一緒に入るから!だってアタシのせいでこうなったから当然だし!」


 そんな責任感じなくてもいいのに。


「ほら、悠聖君行きましょ。私が洗ってあげるから。……隅々まで全部」


 おい、手をわきわきさせるなし。


「「待った!」」


「なによ。私、今回役にたってないんだから良いでしょ?」


「全然良くないよ!何しれっとゆう君連れて行こうとしてるのよ!ずるい!」


「そうですよ!ちゃんと公平に決めましょう!看病イベですよ!鉄板です!ゆずれません!」


 イベとか言うな。


「もう一人で入るからいいよ」


「「「それはダメ」」」


 俺が風呂に入ろうとした時から、ずっとこの調子だ。

 着替えを持って部屋を出た所で紗雪に見つかり、「お風呂一人だと大変でしょ?て、手伝おっか?「いや、大丈……」ううん!手伝う!」って言ったのを雪花と奈々に聞かれてからこんな感じ。俺の声は聞こえてないらしい。難聴系ヒロインかな?


「なぁ、もうじゃんけんでいいじゃない?寝汗が気持ち悪いから早く入りたいんだけど……。それに母さんもいるんだろ?そんな騒ぐと聞こえるし、風呂上がりが気まずいだろーが」


「はぁ……しょうがないわね」


「ホントにゆう君はワガママなんだから」


「おにぃ、そゆとこ直さないと」


 なんで俺が悪いみたいになってんだ……。

 そして目の前で三人が手を振りかぶり……。


「「「じゃーんけーん……」」」


 その結果、


「へへへ♪どう?洗い残し無い?頭は?痒いとこない?大丈夫?」


「あ、あぁ。もう大丈夫。大丈夫だから……」


 かろうじて水着なのは良いけど、その……困る。


 そしてようやく浴槽に浸かると紗雪も向い合わせで入ってきた。


「はぁ、あったけぇ……」


「そだねー♪……ねぇゆう君。ホントごめんね?」


「んぁ?なにが?」


「今回の事。アタシの問題だったのに、ゆう君だけ怪我しちゃった」


「いや、誰の問題とかじゃないだろ。今回のことはただただジェラ男が悪い。はい、これでこの話は終了!雪花から聞いたけど、学校でも大変だったんだろ?エレナがなんとかしてくれたみたいだけど。ってあの子何者なの!?」


「全然大したことないよ!自分が思った事を言っただけだし、叩いた事もアタシは後悔してない。ていうか、確かにエレナちゃんは不思議すぎるね。……あれ?ジェラ男ってせっちゃんから聞いたの?」


「いんや、ジェラシー狂いの男だからジェラシ男。雪花もそう言ってたのか?」


「うん。二人とも同じ事考えてたなんて、なんか妬けちゃうな。でも負けないんだから」


 紗雪はそう言うと浴槽の中で膝を抱えた。


「さゆ……」


 そう、俺が呼びかけた時だった。


 ガラッ!


 ん!?


「私も入るわ!」


「は?雪花?」


 そこには雪花がいた。仁王立ちで。


「せっちゃん!?なんで?奈々ちゃんと弥生さんは!?てか水着くらい着なさい!」


「奈々ちゃんはまたネトゲ中よ。弥生さんは、「今日は色々お疲れ様です」ってお酒を注いであげたらすぐに寝たわ。あんなにお酒に弱いなんて知らなかったわね。えぇ、ホントに知らなかったわ。お父さんは今日も職場に泊まりよ。ちなみにここ数年、誰かと海とかプールなんて行ったことないから水着なんて持ってないわ!」


 こいつ……策士だ。母さんが酒に弱いの知ってたんだ。そして理由が切ない……。


「というわけで私が来たわ。姉さん?悠聖君の体は何で洗ったの?」


「え?え?普通にボディスポンジだけど?」


「駄目ね。実は手で洗った方がいいのよ。なんかそんな感じの事を何かで見たような気がしないでもなくなくないもの」


「えっ!そうなの!?」


 どっちだよ。紗雪も信じるなよ。真偽はわからんけどさ。

 まぁいいか。そろそろ上がろっと……ガシッ。


 え?


「というわけで洗い直しよ」


「あ、アタシも!」


 いや、ちょっと待って!もう上がりたい!ほら、俺怪我してるんですよ?

 え?二人とも心配してくれてたんじゃないの?

 なんで手に泡付けてんの?


「ほら、ちゃんとキレイにしないと」


「そうだよ!」


 ちょっ!まっ!


「た、助けっ……!」



おもしろい、続きが気になるって方がいましたら☆、フォロー、応援等頂けますと、執筆の励みになり、嬉しくなります。

よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る