第58話 証拠はあるわよ
「きゃ━━━━!!」
カシャカシャカシャ
斎藤が俺の事を睨んだ瞬間、近くから悲鳴が聞こえた。ついでに何か音も。
おかげで斎藤の動きが止まり、俺も数歩下がって距離を取る。
そして、いくら物陰とはいえここは病院。つまり人はたくさんいるわけで、斎藤は声に集まってきた人達に取り押さえられた。
体だけじゃなくて、口も押さえられてるせいで何も喋る事はできなそうだけど、目だけは俺を見ていた。そんなに見つめるなし。
てか、こんな人がいるところでおバカだねぇ。
それにしても、あんなにキレられる覚えがないんだが?
まぁいいか。多分これでもうコイツは終わりだろうな。
視線から外れてさっきの悲鳴の主を見る。
「声でわかったけど、やっぱり睦月だったな。助かったよ。ありがとな」
そこにはスマホを構えた睦月が立っていた。
「ううん!大丈夫だった?学校抜け出してきてよかったぁ!」
ん?
「抜け出した??」
「うん!朝に雪花ちゃんからメールが来て、奈々ちゃんにメールしたらこの病院だっていうから職員会議終わってからすぐ来たの。大丈夫!今日は午前中、あたしの授業ないから!」
そういう問題でもないような?まぁ、結果として助かったからいいか。
と、そのとき
「ちょっと会計終わったわよ?ジュース買うのにいつまで……って何?この騒ぎ?」
母さん……。
その後は、割りとスムーズに事は進んだ。警察が来て、聞かれるままに事情を話し、原因が嫉妬からだとわかると、警官と母さんから不思議そうな目で見られた。ほっとけ!
向こうは行為を否定していたが、証拠として睦月が写真を撮っていたため、それが決定的になり、意気消沈しているとこに俺が腕の怪我のことも話すと、うっかり認めてしまい「あっ」ってなってた。おかげで傷害の疑いもかかっていた。どんまい。さよなら。
けど、腕の怪我の方は証拠ないんだよなぁ……。
で、今後は法的な話になるらしく、母さんに任せて俺は睦月と家に帰って来た。
「あー無駄につかれた……」
「けど何もなくてよかったよぉ。何かあったら社会的抹消するとこだった」
いや、こえぇよ!
「じゃあ、あたしはそろそろ学校戻るね?ちゃんと薬飲んで休んでるんだよ?」
「わかってるよ。今日はサンキュな」
「はい、どういたしまして♪」
睦月はそう言いながら俺の頭を軽く撫でて学校に戻っていった。
帰り道で買って来た弁当を温めて食べる。
薬を飲んでソファーでテレビを見ていると眠気がやってきた為、自室でベッドに入ると一気に睡魔がきてまぶたをさげようとしてくる。
これでやっと平穏が戻ってきた……か……な……。
ん、んん……今何時だ?スマホスマホっと……あれ?手が?
「おはよう。ちゃんと休めたかしら?」
俺の手は雪花に握られていた。
「あぁ。ちゃんと大人しくしてたよ。雪花がいるってことはもう夕方か?」
「ええ。そろそろ5時になるわね」
「え?もう?結構寝たなぁ」
「大変だったんでしょ?睦月先生から聞いたわ。ホントに無事で良かった……」
言いながら上半身だけ起こした俺の腰元にしがみついてくる。
「どうした?」
「心配だったのよ。それに……寂しかったの……」
「ごめんな?」
「ううん。悪いのはあなたじゃないでしょ?それよりも詳しく聞かせてくれる?」
そして俺は事の顛末を話した。
すると……
「証拠ならあるわよ」
……は?
「はい?なんだって?」
「証拠ならあるのよ。ほら」
そう言って雪花が、スマホを取り出して何かを再生する。
ってこれは俺が蹴られた時の会話!?
なんで!
「不思議よね?いつの間にか私のスマホがあなたの鞄に入ってて、偶然エレナさんと通話状態になってたなんて」
な、なんつー手の込んだ事を……。けど、これで!
「ま、まぁ過程はともかく助かった!これがあれば!」
「ねぇ?」
「ん?なんだ?」
「ご褒美は?」
「ご褒美?」
「ん!」
雪花は俺の問いに答えることなく、目を閉じて首を上にあげた。
なんか最近バタバタしてたせいか、変に久しぶりな感じがして恥ずかしいな……。
そうおもいながらも俺も顔を寄せた。
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