第54話 雪花の怒り
腕の痛みで目が覚めて、スマホを見るとまだ朝の4時。リモコンで部屋の電気を付けて、腫れを確認しようとパジャマの袖をまくろうとするけど……
「うわぁ……まじか」
想像以上に腫れてて、とてもじゃないけど袖をまくる余裕なんてなかった。むしろ結構ギリギリ。筋肉ある人が小さい服を着たらこんな感じになりそうだな。
「うぅむ。結構熱持ってるなぁ。今なら誰も起きてないだろうし、少し水で冷やすか……」
なんともない右手で体を起こして部屋を出る。向かう先は台所。
下に降りてエアコンを付けて、リビングから持ってきたイスを流し台の側まで運び、それに腰かける。
「がっ……ぐっ……」
水で冷やすためにパジャマを脱ごうとするが、これが中々痛いときたもんだ。けど、なんとか脱ぐと、そのままソファーに向かって投げつける。
……届かない。まぁいいや。つか寒い!エアコンさん頑張って!
イスに座って、レバーを上げて流水を左腕に当てる。空いた右手はスマホを持って、暇潰しのゲームだ。
少しずつ腫れたところの熱がおさまっていくような気がする。まぁ、急場しのぎにしかなんないだろうけど。
あっ、ゲームのスタミナ切れた。回復アイテム使うかどうするか……。
「何をしているの?」
……え?
声がする方に目を向けると、そこには雪花が立っていた。やべぇ
「あ、いや、ちょっと水を飲みに?」
「水を飲むのにパジャマを脱ぐ必要はあるかしら?」
「いやぁ、暑くて?」
「この季節に?」
雪花はそう言いながら台所の電気をつけた。そしてそのままこちらに歩いてくる。
俺は水止めて、腕を雪花の視線から外れるように隠す。
「ちょっと見せなさい」
「いや、大丈夫だから」
「いいから」
「ほんと大丈夫だっ……ガッ!!」
隠そうとして腕を動かすと痛みが走る。しまった……。
「……ちょっと、何よコレ!パンパンに腫れてるじゃないのよ!そんな……ここまで……」
俺の腕を見て、泣きそうな顔になりながら詰めよってくる。
「ほら、昨日呼び出されたあと急いで帰ろうとしたら転んじゃってな?少し痛むから冷してたんだよ」
「……転んでこんなになる事ってあるの?」
「当たりどころが悪かったのかね?けどまぁ、今冷やしたから大分良くなったよ。あ、でも一応念のために痛み止めだけでも飲んでおくかな。一応な。ホントに念のためね」
「……ねぇ、ホントに転んだの?」
「もちろん。はぁ、運動不足かねぇ?」
俺はそう言いながら薬箱から痛み止めと、食器棚から木製のコップを2つ出した。1つは雪花に渡す。
「病院行きなさいよ」
「ん?まぁ、様子見だな。誰にも言うなよ?ほら、お前はお茶でも飲むか?」
「えぇ」
冷蔵庫からお茶を出すんだろう俺は薬を飲む。雪花はその隣でお茶の入ったコップを持ったままだ。
「じゃ、俺は部屋にもどるから」
「……」
返事がないのが気になるけど、俺はそれどころじゃない。さっきお茶を出すついでにコッソリ出した保冷剤で腕冷やさないと。少しでも腫れをひかせないと……。
ガンッ!!
自室に入ろうとした瞬間、下から物音がした。
なんだ?寝ぼけてコップでも落としたか?
まぁいいか。冷やせ冷やせぇ!
◇
何よあの腕。あんなに腫れてるなんて。
転んだだけであんなになるわけないじゃない。
帰り道で肉まん落とした時に、気付いてはいたけど、まさかあそこまでなんて!
明日には必ず病院に行ってもらわないと。何かあってからじゃ遅いもの……。
それにしてもあの男……。
私の大切な人にこんな事するなんて、許さない許さない許さない許さない。絶対に許さない。
わざと、あの男の目の前で悠聖君に甘えてやろう!なんて事をエレナさんとちょっと話してたけど、それじゃダメだわ。
強く握りしめたままだったコップを持つ。彼が入れてくれたお茶を飲み干すとそのままコップをシンクに叩きつけた。
「覚悟していなさい…」
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