第53話 隠せない強がり

 今は屋上にて1人で悶え中。


「あーくそ。いってぇ」


 逆上して暴力なんて漫画だけにしてくれよホント。テンプレかよ。それにイケメンはそういう事しちゃだめだよ。背中に花背負ってキラキラ笑ってればいいのに。

 まぁ、とりあえず顔は守ったからみんなにはバレないはず。


「あの三人には気づかれないようにしないとな……」


 けど、腕を組むのはちょっと勘弁してくんないかな。左腕で受け止めたけど、受け止めたところが結構痛い。

 それにしても、まさか殴るんじゃなくて蹴りでくるとは、さすが雪国の学校のスケート部。蹴った後のつま先立ちに危なく笑う所だった。


 さて、そろそろ帰るかな。大袈裟に痛がったらすぐに行ってくれたのは助かった。予想よりは早く帰れる。


 立ち上がって鞄を持……とうとするけど……


「イッ……タァ……」


 こりゃ左手はだめだな。利き腕じゃなくて良かった。鞄からスマホと定期を出して全て右側のポケットに入れて、鞄を持つ手を右手に変えて屋上を出ていく。

 駅まで来たところで見覚えのある三人が……


「三人揃って何してんだ?」


「やっと来た。思ったより遅かったわね」


「悠くん大丈夫だった!?何もされてない?」


「大丈夫。けど、近い内に紗雪に告白してくるかもよ?」


 黙ってろとは言われてないからな。俺は言う。


「え、無理」


 無理だそうです。


「悠聖さん、待ってる間にコレ買ってたんですけど食べますか?」


 エレナがそう言って見せてきたのは肉まんだった。おぉ!うまそう!

 けど、右手塞がってんだよなぁ……。かといって受け取らないのも不自然か……。


「食べる食べる!ありがとな」


「いえいえ、はいどうぞ」


 差し出された肉まんを受け取ろうと左手を伸ばして……


「っ……」


 つかめなくて落としてしまった。やべ、あやまんないと──


「すいません。。これはワタシが食べますね。三秒ルールです」


「お、おう……」


 三秒ルール知ってんのかよ。にしても今のは俺がつかみ損ねただけだと思うんだけどなぁ?んん?


「ねぇ、そろそろ帰らない?お腹すいたわ」


 雪花助かった。


「そうだな。帰るか」


 後は電車が混んでない事を願うだけだが、幸い混んでなくて座ることができた。三人も、いつの間にそんなに仲良くなったのか、集まってアプリゲームをやっていた為、くっついてくる事がなくて助かった。ホントに。


 途中でエレナと別れて家に帰ってくると、俺はすぐに自室に入って、鞄を投げ捨て制服を脱ぐ。


「うわっ」


 俺の左手は赤紫になり、腫れていた。


「痛いけど、動くから折れてはいないはず?けどこれはちとキツイな……」


 さて、どうするか…

 まぁ、考えてもしょうがないか。とりあえず湿布貼ってから少しダボっとした服で腕は隠して、風呂はシャワーで済ますか。


 はい、下におりました。

 そしてまた自室に戻ってきました──

 がぁぁぁぁぁぁ!痛いし、いつも通りに過ごすのきっついっ!

 シャワーはなんとかなったけど、飯がきつい、茶碗持つのしんどい!持たないで食べると怒られるし!

 もう寝る!痛み止め飲んでねる!

 はぁ、明日には腫れだけでもひいててくれよ……。



 ◇



 悠くんが斎藤くんに呼び出されてから、アタシはせっちゃんとエレナちゃんと三人で駅に向かって歩いていた。


「悠くん大丈夫かなぁ?」


「さぁ、どうでしょうね?」


「ええ、気になりますね」


 なんか二人の様子が、変?


「あっ!」


「え、せっちゃんどうしたの?」


「私のスマホどこにいったのかしら?」


「えっ、無くしたの?」


「えぇ、そうみたい」


「たいへん!今アタシのからかけてみるね!」


 アタシが自分のスマホを出してせっちゃんのに電話しようとすると……


「あっ!」


 今度はエレナちゃん!?


「ワタシのスマホが勝手に雪花さんのスマホに電話しちゃってます!しかもずっと通話中になってますね!誤操作でも起きたのでしょうか?」


 え?二人ともいつの間に連絡先交換してたの?


「まぁ、それは良かった。それにしても通話中なんて不思議ね。何か聞こえる?」


 ちょっと。二人とも待って。なんかわかっちゃったんだけど……。まさか悠くんの鞄に?そしてせっちゃん。棒読みすぎじゃない?


「今スピーカーにしてみますね」


 エレナちゃん?エレナちゃんのスマホのマイク部分にテープ貼ってあるのはなんで?こっちの声が漏れない為だよね?確信犯だよね?


 アタシが疑問を口にする前にエレナちゃんのスマホから声が聞こえた。


『で、話って?』


 !? 悠くんの声?


 そして、スマホの向こうから聞こえてくる会話に怒りがこみ上げてきた。

 斎藤くん……何考えてんのよ……。


 そして……


『イダッ』


 悠くんの痛みを訴える声がする。

 嘘でしょ……。ヒドイよ……。


「いかなきゃ!」


「待って姉さん」


「何よ!」


「もう遅いわよ。このバカは今、もう屋上を出ていったわ」


「でも!」


「悠聖君は私達に気付かれたくないみたいよ。だから気づかないフリをしてあげましょ」


「で、でも……」


「大丈夫ですよ紗雪さん。ワタシ達も怒りがおさまりませんから」


 そう言いながら微笑んでるエレナちゃん。なんか目が怖い!


「そうよ姉さん……。カッコつけてるんだからそっとしておいてあげましょう。でも、何かあったらすぐフォローできるように」


「う、うん……」


 けど斎藤くんは許さない!絶対に!


 そんなワタシの決意の側で、せっちゃんとエレナちゃんがボソボソと話をしていた。何を話してるかは聞こえないけど何故か寒気がした。

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