第52話 痛み

 授業が終わった後、強制的にエレナを保健室に連れていくと、養護教諭に事情を話してベッドに寝かせた。はじめは文句を言っていたけど、「寝ろ」と強く言うと、顔を赤く染めて「はいぃ」と言ってすぐに寝た。

 少し扱い方がわかってきたかもしれん。それに初めて主導権を握れる相手かもしれない。


「エレナさんは寝た?」


 廊下にでると雪花がいた。


「着いてきてたのか?」


「だって最近エレナさんにばかり構うから。いくら席が隣同士でも……その……」


 これはもしや?


「その?」


「ちょっとズルいなって……」


 言いながら袖を掴んでくる。

 か、可愛い……。ヤキモチってやつですね?わかります。


「とりあえず教室もどるか」


「このままいく」


 はい可愛い!この時々甘えてくるのたまんないね!


「エレナちゃん大丈夫だった?ちょっと心配してたんだけど」


 教室に戻ると紗雪が心配そうに聞いてきた。


「あぁ。ベッド入ったらすぐに寝たよ」


「そっちの心配じゃなくて、保健室で始めちゃうのかと」


 俺の信用どこいった!


 その後エレナは昼まで戻ってくる事はなく、いつもの茶道部部室で飯を食ってる時に戻ってきた。

 その瞬間雪花が俺の隣にくっついてきた。


「たくさん寝てスッキリしました。あら雪花さん?」


「なに?」


「くっつきすぎじゃありませんか?」


「そんなことないわ」


 ヒシッ!フニョン♪


「せっちゃんなんか可愛い。もしかしてエレナちゃんにヤキモチ?」


「……なによ」


「なんでしょうコレは。定番の例えですけど、懐かないネコが懐いたかのような可愛らしさは……」


 それすごいわかる。まぁ、普段から甘えてはくるけどヤキモチとかのは次元が違う。


「……ニャ」


「「「……」」」


「悠くん。アタシ今夜せっちゃんと寝るから持ってかないでね」


「悠聖さん。ちょっと場所交換しませんか?」


「ダメだ。俺のだ」


 可愛いが過ぎる。


「うぅ……ひどい……あたしを差し置いて青春してるなんて……。あたしの青春時代はゆうちゃんとの事を妄想して終わったのに」


 うおっ!びっくりした!睦月いつから覗いてたんだ!?


「いや、ドアの隙間から覗いてんの怖いから入って」


 言うと中に入ってきてエレナの隣に座る。


「職員室では見かけたけど、一応初めましてアーレンバリさん。あたしはこの学校の美術講師の高梨睦月です。そして聞いてると思うけど、ゆうちゃんの従姉妹で、ハーレムメンバーの1人だよ♪」


「初めまして高梨先生。聞いてはいましたけど、ホントに先生もだったんですね。みんな可愛い方ばかりでマンガみたいです。そして後から入ったワタシはどんどん虐げられていって……ん!」


「あ、アーレンバリさん?……ちょっとゆうちゃん?この子大丈夫なの?」


「何も言うな。多分実害はないから何も言うな」


 悶えるエレナは放置で昼休みは過ぎていった。


 そしてその帰りだった。


「なぁ橋本。ちょっといいか?」


 HRも終わって、帰る準備をしてると声をかけられた。たしか紗雪達のカースト上位グループの1人だ。新学期に俺達が教室に入るなり声をかけてきた男。確か斎藤だったか?はっきり言って超苦手。彼女が出来たからってイキれるような男じゃないのだ俺は。


「な、なに?」


「少し話があってな。紗雪、いいよな?」


 そう言って後ろで俺の帰り支度を待ってる紗雪に聞いた。その隣には雪花とエレナもいた。


「なんでアタシに聞くの?悠君に用事なんでしょ?」


 対応つめたっ!


「あ、いや、まぁそうなんだけどさ……」


「いいよ。行くよ。ごめん、三人は先に帰ってて」


「わかったわ」


「はい」


「斎藤君、悠君に変なことしないでよ?」


「っ!わかってるよ」


 ひいっ!こいつ絶対イライラしてる!


 そして斎藤の後ろをついていって着いた場所は屋上。定番かよ。


「で、話って?」


「は?わかってんだろ?紗雪のことだよ!」


 だよね。


「お前妹の方と付き合ってんだよな?なんで紗雪までお前にくっついてんだ?しかも留学生まで一緒にさぁ」


「さ、さぁ?俺にもよくわかんないかな?」


 ハーレムらしいですよ?とは言えない。言えるわけがない。普通じゃないもの。胸をはれることじゃないのは自覚してる。他からみたら異質だってことも。未だに夢なんじゃないかって思うことがあるくらいだし。


「わかんないじゃねぇよ!いいか?紗雪と距離をおけよ?わかるだろ?俺は紗雪に惚れてんだ。邪魔すんな」


 やっぱりそうか。なら──


「それは無理だ」


「は?」


「だって一緒に住んでるから。義理とはいえ俺の妹だし。それに前に言ってた俺の取り合いとかも俺の意思とは違う所であの姉妹(他三人)で決めた事だから俺には口を出せない。出すと俺が危ない。これマジで。それに多分だけど、ウチの親も楽しんでる気がするしなぁ…。だから無理かな」


「は、はぁ?お前何言ってんの?バカにしてんの?」


「俺も何言ってんのかよくわかんなくなってきたな……。えっと、紗雪が好きなら俺をどうにかする前に告白したほうがいいんじゃないかな?多分、俺が何言っても聞かないから」


「お、お前よぉっ!お前なんかがモテてむかつくんだよ!」


 おい!それが本音じゃねーか!


「イダッ!」


 はぁ、まじか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る