第50話 お仕置き

【今終わった。詳しくは帰ってから話す】


 それだけ打って雪花と紗雪に送った。


 今は、すっかり暗くなってしまった為、エレナを家まで送って行ってる最中だ。

 ちなみにエレナは今現在、俺の腕にこれでもか!としがみついている。


「キ、キスってすごいんですね……。初めてしりましたが全然力が入りません。ドラマとかでしてる人達はいつもこんなことに耐えてるんですね」


 いやぁ、テレビドラマの中のは違うと思うよ?


 あの後、キスの感触にハマったエレナの求まるままにひたすらキスの応酬だったのだ。ふやけるかと思った。


「あ、この辺で大丈夫です。ありがとうございました」


「あぁわかった。けど、帰る前に1ついいか?」


「……なんでしょうか?」


「なんで盗聴なんてしたんだ?」


「っ!」


「答えたくないならいいけどな」


「いえ、言います。ワタシは昔から依存が強いみたいなんです。好きになると、なんでも欲しくなってなんでも知りたくなってしまって止まらなくなるんです。それで悠聖さんのことも、その……すいませんでした」


 そう言って頭を下げてきた。

 うぅん、この子はそういうタイプだったかぁ。ヤンヤンなのかねぇ?けど周りが濃すぎてあまり動じてない自分が一番怖い。


「まぁ、あれだ。知りたいなら教えるからもうやめろよ?」


「え?それだけ……ですか?」


 ん?それだけ?あぁ、なんか責められるとでも思ってたのか?でも確かにまたやられても困るしなぁ。あっ!


「それで嫌いになってたらキスなんかしないよ。ただ、さすがに悪い事は悪い事だからな。だから──」


「だから?」


 エレナの耳元に寄ってなるべく怖い顔をして、低い声で言ってやった。


「バカな事をしたお前には今度だからな?」


「ふわあぁぁぁぁっ!」


 おわっ!なんだ?いきなり膝から落ちたぞ?そんなに怖かったのか?あれ?脅かしすぎた?泣いてないよな?


「エ、エレナ?大丈夫か?」


「ふぁ、ふぁい。大丈夫れす」


「そんな怖かったか?ごめんな?」


「ふぅふぅ……はぁ。いえ、大丈夫です。そうじゃないんです。お仕置きちゃんとうけます」


「そ、そうか。ならいい……のか?」


 冗談で言ったから何も考えてないぞ?どうしよう


「では、ワタシはこの辺で」


「あぁ、気をつけてな?」


 なんかフラフラしてるけど大丈夫か?


 ◇


 ワタシは力の入らない手で鞄からなんとか鍵を出して誰もいない部屋の中に入ると、壁づたいに歩き、すぐに寝室に行ってベッドに倒れ込む。全身に力が入らない。

 なんですかこれは?彼に低い声で耳元で囁かれた瞬間に全身がゾクゾクって震えました。

 お仕置き……一体何をされるんでしょう?

 それにバカって言われました。

 バカって──ゾワッ!

 あぁ!また!

 彼にもっと、もっとバカと言って欲しい。

 あの強張らせた目で見て欲しい!

 あんなバカな事をした私を助けてくれた人。

 あんなすごいキスを教えてくれた人。

 あぁ、なんて愛しい愛しい愛しい愛しい!

 顔をあげて枕元の壁を見ます。そこに貼ってある、転入した日に撮った彼の写真を見てはため息がでます。

 お婆様。これがホントに恋なのですね!すごいです!


 ふふ、悠聖さん。ワタシの全てを賭けてアナタのことを愛していると証明してみせますからね……。


 ◇


 家に帰ると、すぐさま雪花の部屋に連行された。何故か睦月までいる。


「睦月、用事あるんじゃなかったっけ?」


「職員室で留学生の話を聞いて、雪花ちゃんからもメッセ貰ってそれ見てすぐにきたの!一体どうしたの?」


 なるほど。なら、さっさと説明してしまおうか。

 と、いうわけで三人に担任から呼び出されてからの事を話した。あ、キスの事は話してないけど。


 話し終わると三人は同時にため息を吐いた。なんでだ!?

 最初に口を開いたのは雪花だった。


「ほらね?何かしてくるって言った、私の言った通りでしょう?それにしても悠聖君。あなたって人は彼女に新しい扉を開かせてどうするつもりなの?」


「は?新しい扉ってなんだよ?」


「わからないならいいわ。そのおかげでって部分もあるでしょうから」


「おかげ?」


「えぇ、おそらく前までのヤンな感じだけだと厄介だったけど、今はきっとアナタの言う事ならなんでも聞くんじゃないかしら?」


「なんで?」


「それがアナタが開いた扉だからよ」


 わけわからん。そして紗雪も睦月もなぜそんなに頷いている?


「はいっ!もう、この際エレナさんの事はどうしようもないので、五人目として歓迎しようと思います。それとは別にゆうちゃんにお願いがあります!」


 歓迎しちゃうのね。だと思ったけど。


「なんだよ?」


「その、【お仕置きだからな】をあたしにも言ってください!ズルイ!」


「あ、アタシも……」


「私も」


 ……なんだこいつら。ズルイってなんだ。

 怒られたいって意味わからん。


「なんかイヤだな……」


「ゆうちゃん今度の美術の時間モデルね」


 はぁっ!?


「あっ、それいいね!」


「大賛成」


 お前らまで!


「ちょっ!なんでだよ!」


「そろそろ人物画を教えようかと思ってたから。あれ?もしかしてイヤだった?どうしよっかなぁ?」


「しょ、職権乱用じゃねぇか……」


 くそぅ。こんなん言うしかないじゃねぇか!


「ふふん♪先生は偉いんだぞ?」


「お、お前ら。本気でモデルにしようとしてんなら……【お仕置き】だからな?」


「「「……」」」


 おい、なんか言えよ。恥ずかしいの我慢して言ったんだからさぁ。

 ん?雪花さん?俺の手引っ張ってどこに向かおうとしてんの?そっちはベッドしかないけど?そしてなんでそこで正座してんの?ねぇ、なんで土下座してんの?


「どうか私にお仕置きしてください」


「アホかぁ!」


 パシーンッ

 思わず下げられた頭をはたいた。

 雪花は、叩かれた頭を押さえながら顔を起こしてまた変な事言い始めた。


「だ、だってあんなの無理よ!あんなのお仕置きされるしかないじゃない!」


「あ、あの、出来ればアタシもおねがいしまぁす」


「ゆ、ゆうちゃん!あたしは別にどんな事でもかまわないけど……」



 ──全員デコピン決定

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