第49話 ゼロになる距離
エレナが教室に戻らないまま最後のHRが終わり放課後になる。
貧乳同盟の紗雪が一度メッセを送ったみたいだけど、返事はきていないらしい。
一体なんなんだろな?まぁ、考えても仕方がないし帰るか。っとそこで教室に担任が入ってきた。
「おっ!橋本まだ残ってたか!」
「……なんすか?」
「ちょっと指導室まできてくれ」
え゛?
その一言で教室に残ってた奴等の視線が俺に向かう。
(やっぱり……)
(さすがに教師の目にも余ったんじゃね?)
(そのまま地獄に落ちろ!)
最後の言ったやつだれだ?
「え、なんでですか?俺なんもやってないっすよ」
「わかってる。むしろお前は被害者だな。とりあえず来てくれ」
「被害者?……わかりました。雪花、紗雪、先に帰っててくれ」
「私は待ってるわ」
「あたしも!」
「いや、どのくらいかかるかわかんないし、暗くなると二人とも危ないからな。頼む」
「はぁ、わかったわ。でも終わったらすぐに連絡するのよ?」
「あぁ」
「じゃああたしもごはん作って待ってるからね?」
「わかった。じゃ、いってくるわ」
二人にそう告げて教室を出る。
出るときにまた声が気負えるかくら
(義兄妹ってホントだったのかよ)
(あの二人と同じ屋根の下……)
(イチャイチャしまくってんだろうなぁ)
(橋本君ヤバい)
おい、最後の絶対藤田だろ?
イチャイチャしまくってます。すいません。でも結構大変なんですよ?
扉をしめて担任の後ろをついていく。はぁ、俺が被害者?心当たり全然ないんだけど。
「しっかし大変だな?このハーレム野郎が」
いきなり何言いやがるこの野郎
「んなっ!なんで!?」
「はぁ、なんでってあれだけベッタリしてたら誰だってわかるだろ。まぁ、オレは特になんも言わないけど、節度だけは考えて動けよ?それにしてもまさかアーレンバリまでとは思わなかったけどな。あの子には気をつけろよ?」
「はい……。ん?気をつけろ?どういうことですか?」
先生がその質問に答えることはなかった。
「よし、ついたぞ。入れ」
目の前には指導室の扉。初めて入るなぁ。
は?
指導室にはエレナとスーツを着たおっさんが椅子に座っていた。エレナは俯いていたから顔色はわからないが、おっさんの方はニコニコしてこっちを見ている。
「やぁ、こんにちは。君が橋本悠聖君かな?」
「え、あ、はい」
「僕は佐藤敬二。刑事だよ。一応これ証拠ね」
そう言って警察手帳を見せてきた。
職業が刑事で名前も敬二か……。濃いな。
「はぁ、それでその刑事さんがどうしたんですか?」
「橋本さん以前携帯の機種変しましたよね?」
「はい」
「その前の携帯にですね、違法の盗聴用のアプリが入ってたみたいなんですよ。ショップ店員がデータ削除する際に気づいたみたいで、警察の方に連絡がきたんです。それで、その盗聴した情報が送られていたのがそちらのアーレンバリさんの携帯なんです。その事で朝からちょっと話を聞きに来てたんですが、ずっと何も喋らないし何も食べないしで困ったんですよ。それで橋本さんをお呼びしたんです。犯罪ですからね、ホントは親御さんも呼んで話をするべきなんでしょうけど、一応お二人の話を聞いてからにしようと思いまして。甘いかも知れませんが佐藤だけにねって」
このおっさんそれが言いたいだけじゃないのか?すげぇドヤ顔してるし。人情刑事物の二時間ドラマの見すぎじゃね?
まぁいい、好都合だ。隣を見るとエレナはまだうつむいていたが、肩はビクつき、両手は強く握られていた。
ふむ、盗聴……ね。
ちょっと俺の足りない頭を必死で回す。
アプリを入れたのは多分、連絡交換で俺のスマホを渡した時だろうな。なんか長かったし。
そして休み明けのあの質問は俺が機種変したために、盗聴できなくなったからその確認?なら前のスマホを欲しがったのは、きっと証拠を消す為。そしてその後から様子がおかしかったのは今日のこの事を懸念してか……。それっぽく考えて見たけど懸念の使い方合ってんのかな?
それにしても……俺に好意を持ってくれる子はなんでどこかしらぶっ飛んでるんだ?
まぁ、とりあえず俺のやることは決まったな。
「えっと、それ知ってますから大丈夫ですよ。そのアプリを入れる所は俺も見てましたし。けど違法ってのは知りませんでしたね。ダウンロードする時に、普通に浮気や不倫防止アプリって表示されていたので」
佐藤さんと担任の目が見開いて俺を見てくる。エレナも顔を上げてこっちを見ていた。
「本当ですか?」
佐藤さんが聞いてくる。まぁ、そりゃあ怪しむよな。けどこっちも譲らない。
「はい、恋人ですからね。そのくらいは許容範囲ですよ。留学したばかりで不安だったみたいなので全然平気です」
担任の「おいお前中村は?」って視線が痛いけどガン無視する。
「なるほど……アーレンバリさん。橋本さんはこう言ってますが本当に恋人なんですか?」
「えっと……」
「エレナ」
「っ!はい、悠聖さんはワタシの大切な。とても大切な人です」
「そうですか。では先生、僕は帰りますね」
「は?え?い、いいんですか?」
先生がすげぇびっくりした顔になってる。俺もびっくりした。
「はい、想い合う二人にこれ以上は野暮でしょう。今日、僕はここに来なかったことにします。違法を知らずに使用したので、今回だけは知らないフリをします。学校での処罰も軽くしてあげてくださいね?ただ、お二人にはもう少し節度もったお付き合いをお願いしますよ?」
「「はい」」
「では僕はこれで。こうゆうの一度やってみたかったんですよ」
おい最後の一言余計だぞ。助かったけど。しっかし、ラノベではよく見るけど、ご都合展開ってホントにあるもんだな。
「はぁ、じゃあオレは佐藤さん送ってくるからお前らも帰れ。アーレンバリは反省文10枚な。後で清掃とかの奉仕活動してもらうからそのつもりで」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言うと先生は指導室を出ていった。「なんだこの茶番劇は」とかブツブツ言いながら。
まぁ、わからんでもない。
さて、
「俺達も帰るか」
「……はい」
エレナは返事をすると俺の腕を掴んできた。
「ん?エレナさん?」
「朝の雪花さん達が羨ましかったので……。後、さっきみたいにエレナって呼んでくれますか?その、恋人なんですよね?」
「さっきのはやむを得ずって言うか……」
「ダメですか?」
言いながら下から俺の顔を見上げてくる。エレナの顔が真っ赤に染まっていた。真っ白な肌に輝く銀髪との差もあってハッキリとわかるほどに。そんな顔で言われたらダメなんて言えないじゃんか。
「わかったよ。エレナ」
「はいっ!!」
くそぅ、可愛いじゃねーか!
二人で俺の荷物を取りに教室に行くとすでに誰もいなかった。外も暗くなったし、時間も時間だからか校舎自体に人気が感じられない。
「よし、荷物も持ったし帰るか!ってうわっ!」
振り替えるとすぐ後ろにエレナがいた。
「悠聖さん。先程はホントにありがとうございました。これはお礼です」
「わっ!」
いきなり頬にキスされた。
「またいきなりだな……」
「はい。そしてこれはワタシの気持ちです」
エレナの手が俺の両頬を包むように添えられる。
「え?」
「一生に一度のワタシのファーストキス受け取ってくださいね?」
「んっ!」
「んむっ!んむっ!」
返事をする前にエレナの柔らかい唇が触れる。慣れてないのか舌が入って来るような事はないが、何度も何度も唇を押し付けてくる。その姿が可愛くて、思わず抱き寄せて今度は俺からキスをする。エレナの唇を押し開き舌を侵入させる。
「はぇ?んんっ!?」
しばらくそれを続けて顔を離すとエレナの目尻は垂れ下がり、顔はすっかり上気していた。
「悠聖さぁん……もぅ、だめぇ」
「悪い、エレナ初めてのキスだったのな。つい」
「いいんですよぉ。好きにしてください。ワタシの全てをアナタに捧げます……。」
「エレナ」
「んん……」
そしてまた俺達の距離はゼロになる。
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