第33話 睦月の思惑
睦月からきたメッセを見ながら考える。まだ返事はしていない。どうすればいい?すでに起きてしまった事は変えられない。
あの日雪花が下におりなければ
あの日学校に行かなければ
そもそも嘘の恋人なんて引き受けなければ
そんな事考えても仕方がないのに、頭の中でぐるぐると同じ事が繰り返し思い浮かんでは消えていく。くそ、なんだこれ。
俺はオタクのボッチでずっと静かに過ごしてきたはず。なのに、今はまるでラブコメの主人公のシリアスパートみたいな事になっている。
そもそもこんな一度に好意を受けるなんて自分が読んでる本の中だけだと思っていた。
ハーレムいいよなー!俺ならこーするのに!みたいな事考えてたのに、実際はそんなうまくいかない。絶対に誰かが傷つくんだ。
ただ1つわかってるのは俺が最低だって事だけ。睦月と関係を持ちながら、雪花の事も考えている。紗雪にだってあんなにアプローチされてちゃんと直接断ったわけじゃない。雪花に告白したって事実だけで気付いてくれるだろう。と、勝手に思ってはぐらかそうとしてる。
コンコン
だれだ?
「悠君いるでしょ?開けて?せっちゃんとどうなったの?なんでせっちゃん泣いてるの?ねぇ、アタシ達血が繋がってないことわかったんだよ?今までと変わらないんだよ?ねぇ?昨日何があったの?」
うるさい
うるさいうるさい
わかってるんだそんな事は
「せっちゃんと付き合うんじゃないの?そうじゃないとアタシ…まだ諦めきれなくてつらいょ…」
「うるさいっ!」
「えっ?ゆ、悠君?」
スマホを持って上着を羽織る。机の上にあった財布をポケットにねじ込み部屋を出た。
ドアの前には今にも怯えて泣きそうな紗雪がいた。
「強く言ってごめん、頭冷やしてくる」
そう言って返事も聞かずに下に下りて行くとリビングには母さんだけがいた。
「雪路さんは?」
「やり残しがあって仕事に戻ったわよ。」
「そっか。ちょっと友達の所に出掛けてくる。もしかしたら泊まるかもしれない。」
「そう…。家で変な話しちゃってごめんね」
「いや、いいよ。じゃ、いってくる」
「いってらっしゃい…」
そう言う母さんの声は小さかった。
玄関を出て少し歩き睦月に電話をする。
「は~い、ゆうちゃんどしたの?」
「今から行ってもいい?」
「全然いいよ!そんな聞かなくてもいつでも来ていいのに」
「そっか。今家出たとこだから少し待ってて」
「うん。なんか元気ない?」
「あー、行ったら話すよ」
「わかったぁ。気をつけてね」
電話を切りスマホをしまって睦月の部屋に向かって歩き出す。
「おにぃ!」
「奈々か。どうした?」
「おにぃどこいくの?雪花さんは部屋から泣き声聞こえるし、紗雪さんも廊下で泣いてるし、奈々が寝てる間に何があったの?」
「母さんに聞いてくれ」
「ねぇ、奈々もついていっていい?」
「ダメだ。帰れ」
「いじわるっ!もう知らない!このヘタレ童貞!」
それには答えずに俺は歩みを進めた。
奈々ごめんな。今そんな余裕がないんだ。後、もう童貞じゃないんだよ。
奈々達につけられたら困るから少し遠回りをして睦月の部屋の前に着くとインターホンを押す。
「いらっしゃい。外寒かったでしょ?入って入って。そしてギュ~!ゆうちゃん成分補給♪」
以前とは違うパジャマだ。薄い水色の、前がボタンで留めるタイプのスタンダードなパジャマ。そんな睦月の頭を軽く撫でる
「急にごめんな。ちょっと色々あってさ」
「なになに?話してみて?」
そう言われてリビングに移動して以前も使った座椅子に座ると膝の間に小さいのが入ってきた。
「特等席もーらいっ♪で何があったの?」
言いながら少し後ろを向いて首を傾げている。…ほんとに年上なのか?
そして事の顛末を話した。
「…ってわけなんだよ。俺、最低だろ?」
「…………」
何も返答がないのは愛想尽かされたからだろうな。それも当然か。今日はネカフェにでも泊まろうと考えて帰ることを伝えようとすると向こうが先に口を開いてきた。
「それがどうかしたの?」
ホントに不思議そうに聞いてきた。
「どうかって…だって俺はもう睦月と関係もったのに、雪花との勘違いがはっきりしたらもう気持ちが揺れちゃったんだぞ?紗雪の事だってそうだし、こんなん最低な男そのものだろ?」
「ん~言い方間違えたかな?それがどうしたの?じゃなくて、そんなの知ってるよ。が、正しいかなぁ?」
睦月は何を言ってるんだ?
「あたしはね、今の学校に来る前からゆうちゃんの事ずーっと見てたからわかるの。雪花さんの事が好きなんだろーなって事も。美術準備室ではちょっと焦って行動しちゃったけど…。でもね、そんなの気にしないよ?ゆうちゃんが誰を想っていてもあたしがやることは、ただただ諦めずにゆうちゃんに気持ちをぶつけていくだけ。それにね、あたしはもっと最低だよ?ホントはこのままずっと雪花さんとは気まずいままであたしの側にいて欲しいとも思ってるの。あたしだけにすがって、あたしだけを頼りにしてほしいって。でもそんなの無理なんだよ。もうみんなのゆうちゃんになってるんだもん」
「………」
「だからね…今のあたしはゆうちゃんが触れてくれるだけでも満足なの。彼女でもお嫁さんでもなくて、ゆうちゃんのモノなの。いつでも好きな時に好きなようにしていいの。だからね…自分が最低とか考えなくていいから、あたしのことは好きにしちゃっていいんだよ?むしろ雪花さん達も巻き込んでハーレムでも作っちゃう?」
「そ、そんなのはダメだろ…」
「そんなことないよ。聞いた感じだと結構ゆうちゃんに依存してる感じがするからイケる気がするもん。それにみんなゆうちゃんが好きで、ゆうちゃんもみんな好きなら誰も不幸にならないんだよ?みんなで幸せになれるんだよ?」
なんだ?何をさせようとしてるんだ?
ハーレム?
俺が?
いいのか?
幸せになれる?
俺は何を相談しにきたんだっけ?
赴任してくる前からずっと?
どういうことだ?
あれ?睦月の言葉が頭にぐるぐると回って思考が纏まらない
そんな時睦月が体をまわして俺を正面から見つめて手を頬に当ててすり寄ってくる。
そのまま柔らかな唇が俺の耳元に近づいてささやく
「ねぇ、もう何も考えないでいいんだょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます