第31話 25日 夜

 ##奈々##


 おかしい…

 10時になってもおにぃ達が帰ってこない…。


 ガチャ


 あっ、帰ってきた?


「おかえりー!どうだっ……た?あれ?雪花さんと紗雪さん?」


 玄関まで行くとおにぃの姿は無く、雪で濡れた雪花さんと紗雪さんだけだった。どーゆーこと?


「あれ?雪花さんおにぃは?」


「っ!えと、あの…」


 いい淀みながら視線がウロウロしているその反応だけでわかった。きっと二人は上手くいかなかったんだ。怒りがこみ上げてきた。自分でもわかるくらいに声が低くなる。


「雪花さん、どうゆうこと?おにぃに何したの?おにぃ気合い入れて告白しに言ったはずなんだけど?雪花さんも昨日のデートから幸せそうに帰ってきたよね?まさかフッたの?」


「あの…それは色々とあっ【バチンッ】痛っ……えっ?」


 思わず手が出ていた。


「ちょっと奈々ちゃん!?」

 紗雪さんが驚いている。


「え?フッたの?なんで?好きなんじゃないの?そのネックレスは何?おにぃから貰ったんでしょ?あたし、おにぃがそれ買うの見てたんだから!」


 バチンッ!

 もう一度頬を叩く


「あたしだって…あたしだっておにぃの事好きだったのに!兄妹だから諦めてて雪花さんはおにぃと付き合えるのに!好き同士なのになんで!?」


「!?わ、私は…私も…。」


「なに?聞こえないんだけど!ハッキリ言ってよ!」


「わ、私達は…恋人のフリだけで終わりなの…よ。本物にはなれないの。それだけ…よ」


「はぁ?なにそれ?そんなので納得できるわけないでしょ!むかつく!」


 もう一度手を上げるとその手が止められた。紗雪さんがあたしの右手にしがみつくように止めていた。


「奈々ちゃんもうやめたげて」


「紗雪さんなんですか?」


「せっちゃんも色々あったの!今はまだ待ってあげて。」


「何を待てばいいんですか?何か知ってるんですか?」


「そ、それは…」


 言いながら雪花さんに目を向けてるけど雪花さんは頬を押さえて首を横に振るだけ。それに紗雪さんは頷いて、


「今はまだ言えないの。ゆうちゃんが帰ってきたら話すから」


「……わかりました。帰ってきたらちゃんと話してもらいます。」


 振り上げていた手をおろし、自分の部屋に戻っておにぃが帰って来るのを待っていたけど全員帰ってくる気配が、ない。時計をみるとすでに深夜1時を回っていた。


「まさか…」


 急いでおにぃの携帯に電話をかけるけど繋がらない。電源が切れてるみたいで繋がらない。充電切れた?いや、おにぃは出かける前まで充電してたはずだし…。自分で、切った?なんで?

 ドアを開けて雪花さんの部屋に行くとそこには泣いて嗚咽をこぼしている雪花さんとそれを慰めている紗雪さんがいた。


「おにぃが、おにぃが電話にでないの!な、何度かけてもつながらないの!どうしよう!?」


「落ち着いて奈々ちゃん、アタシ達もあんまりにも帰り遅いから電話したけど繋がらなくて…」


「おにぃまさかショックで……」


 ビクッ


「私の私のせいで……グスッ、ふぇ、ふぇぇぇ」


 雪花さんがまた泣き出した。けどそんなのしったことじゃない。どうしていいかわからず、探しに行こうと外に出ようとすると、


「奈々ちゃん!もう遅いからあぶないよ!クリスマスだし危ない人いるかも!それにゆうちゃんはそんな事はしない人だよ。」


「で、ですよね…。でも、もしおにぃに何かあったら…ぜっったいあなたをゆるさない」


 結局何度かけても繋がらず、気がついたら朝になっていた。



 ##紗雪##


 アタシが友達と遊んでるとスマホが鳴った。画面をみると、せっちゃんからの電話。なんだろうかと電話にでるとすでにせっちゃんは泣いていた。。


「グスッ…姉さん、私、私もうどうしたらいいかわかなくて…」


「せっちゃん!?どうしたの?」


「彼を、悠聖君を傷付けてしまったの…けど、どうしようもなくて…グスッ」


「え?悠君?どーゆーこと?今どこにいるの?」


 せっちゃんから場所を聞いて、友達に断りを入れるとすぐに聞いた場所に向かった。向かった場所はアタシにもすぐわかる場所。前の家がある場所だった。すぐにせっちゃんを見つけた。今月いっぱいはまだうちが契約したまはまなので誰もいない。せっちゃんは庭の軒下のベンチに泣きながら座っていた。


「はぁはぁ、せっちゃん、どうしたの?何があったの?」


 あげた顔は青白く、泣きすぎなのか目は真っ赤になっていた。そのままアタシにしがみついて声をあげた。


「姉さん…姉さん、うわぁぁぁあん」


 せっちゃんがこんなに感情を出して泣くのはホントに久しぶり。きっと母さんの時以来かもしれない。


「ねぇ、何があったの?」


「あのね……」


 そうしてアタシは全てを聞いた。

 ホントの兄妹だって事、悠君に告白されたけど断って逃げた事。

 ハッキリ言って信じられなかった。けど嘘をつくような子じゃないからホントのことなんだろうなぁ。そして悠君がせっちゃんを選んだことに寂しさを覚えたけどなぜか納得も覚えてしまった。


 そしてどうにかせっちゃんを落ち着かせた後、二人で家に帰ると怒りで震えたら奈々ちゃんがいて、せっちゃんが叩かれるのを押さえて悠君が帰って来るのをまったけど、全然帰ってこない。自分のせいだと責めるせっちゃんをなだめ、暴走しそうな奈々ちゃんを押さえてなんとか冷静であろうとする。けど…


 悠君……電話も繋がらないしどうしたの?アタシも辛いよ…。なにもないよね?心配で胸が痛いよ…。


 ##雪花##


 悠聖君の告白を断って逃げた先は前に住んでいた家。門を開けてカギがないので、庭に行くとベンチに座るって目を閉じると断った瞬間の彼の顔がすぐに頭に浮かんでくる。悲しそうで辛そうに歪んだ顔。そしてそんな顔にしたのは私。

 あまりにも辛くて耐えれなくて目を開けると今度は涙がとまらなくなる。


 どうして?どうしてこんなことになるの?私はただ彼の事が好きになっただけなのに…。


 震える手で姉さんに電話をする。姉さんも彼の事が好きだから、私みたいになる前にホントの兄妹の話はしないといけないと思った。結局電話では泣いてばかりで何も話せず姉さんが私のとこまで来てくれた。全てを話すとやっぱり姉さんも驚いていた。そのあとどうにか落ち着いて家に帰るとすごい剣幕で奈々ちゃんに怒られて頬を張られた。奈々ちゃんも彼の事が好きだったみたいで、すごく痛かったけどむしろもっと叩いてほしかった。彼を傷つけた罰をなんでもいいから受けたかったのかもしれない。こんな事で消えない罪だとしても…。


 そして深夜。未だ頬の痛みは引かない。

 彼が帰ってこない。連絡もつかない。私のせいだ…。そう考えるとまた涙が溢れてくる。部屋に嗚咽だけが響く。今夜は姉さんがずっとそばにいてくれるけど、きっと姉さんも辛いはずなのに。

 部屋に入ってきた奈々ちゃんに向けられる視線が痛くて目をそらした。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。



 そして夜が明けて昼頃、奈々ちゃんのスマホに彼からの連絡がきた。






 あとがき


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