エピローグ3年後のある日

 それから3年後、フロレンツはある河川でルルの背中を流していた。


「昨日も宿屋に泊まらなくてごめんね? 野宿ばっかりじゃ辛いよね……。僕お金貯めてルルちゃんと暮らせるおうち建てるからね!」


 ルルは声を出さずに頷くだけだった。よく見るとフロレンツの右腕はない。


「あ、隊長! 今日は私がお風呂に入れる当番ですよ!」


 現れたのは金髪の長い髪を後ろでゆるく編み一つにまとめた女性だ。


「だから、レオニー。僕はもう隊長じゃないんだって……」


「んーもう、咄嗟の時はどうしても隊長って言っちゃうんですよ」


 レオニーはフロレンツの胸板を叩き怒っている。


『始まったわね痴話喧嘩……どっか別のとこでやってよ』


 ルルは水しぶきを上げて体の水分を飛ばすと、のそのそと立ち上がる。すると、後ろからルルより2回り程小さな青い龍が現れ、ルルの肩を優しく撫でる。


『まあまあ、そう言わずに……』


『黙っていなさい』


『はい』


「なんすか。なんすかー? ダメですよルルちゃん僕のロジェくんいじめちゃー」


 青い竜は身を小さくして、ケヴィンの後ろに隠れた。


 フロレンツは冒険者として現在活動している。その右腕としてパーティーを組んでいるのがレオニーとケヴィンだ。


 何故かケヴィンは川沿いで怪我をしていた子竜を開い、テイムした。まだ、直接言葉を介す事はできないが、アイコンタクトで最近ではやりとりが出来る様になったらしい。


 初めはフロレンツとルルの二人で飛び出そうとした冒険もケヴィンがついてきて、レオニーが追いかけてきて、また竜も増えて毎日ガヤガヤと楽しい日々を送っている。


「フロレンツ様、食事の準備が整いましたよ。参りましょう」


 レオニーがフロレンツの服の裾を軽く引っ張り、歩き出そうとすれば、ルルがその手を尻尾で払う。


 二人が睨み合う中、男2人と1匹は簡易な天幕の食卓へと向かう。


 ——フロレンツ(様)は私のもの!!——


 毎日のように火花を散らしている二人を放っておいて、男たちはご飯を食べるのであった。



 レオニーのお腹にはフロレンツの子がいる。

 そして、ルルもロジェとの間に卵を宿そうとしているのだ。


「これ、俺の立ち位置どうなるんすかね……」


『それ、僕もっす……』


 ケヴィンたちがため息を吐いた。


「それはお前が女を作ればいい。そしてロジェくん僕はルルの父親だ。僕を超えろそして、ルルの長い人生を支えられるような男になれ」


「『それが無理なんす!』」


 主従揃っての言葉に3人は笑う。そして、ルルとレオニーは伴侶の前にそれぞれ立つ。


『ロジェ……』


「フロレンツ……」


 ルルは甘い言葉を、レオニーの声にフロレンツは甘い唇を落とす。


「あーもう自分いいっす。婚活するっす」


 ケヴィンが不貞腐れたところで、レオニーたち女組が指を指す。


「ほら、今日も来てるわよ……」


『ケヴィンだってモテモテじゃない?』


 川辺からはひょっこりとコバルトブルーの竜が顔を出す。


 少女のように恥じらいながらその姿を晒す竜に、ケヴィンは釘付けだった。


「なんて美しいんだろう……」


 ケヴィンは無意識のうちに竜の手を取った。

 だが、その手は振り払われた。


『違う! あなたじゃない』


 竜は身をくねらせ、フロレンツのそばによると、座っている椅子によじ登り、フロレンツの頬に唇を触れた。


『あなたの名前は?』


「なんすか。この展開! 俺は所詮当て馬っす」


 フロレンツはその青く煌めく髪を撫で、落ち着かせる。


「待って、ね。落ち着いて、僕はこれ以上契約するわけには……」


『大丈夫。命を取ったりしないから、そうね。あなたの……』


 そこへ威嚇するルルと剣の柄に手をかけたレオニーがやって来る。


「人の夫の体取らないでもらえますか? それと唇もだめー!」


『そうよ! これ以上竜を侍らせるなんて耐えきれない』


 そう、毎度竜に出会うと狙われるのは変わっていなかった。


 フロレンツは竜のそばから離れて、身重なレオニーに寄り添う。


「ダメだよ。レオニーお腹の子供が……」


「女に弱い貴方に変わって、こうやって戦うしかないんです! お腹の子の事を思うのなら自分で跳ね除けなさい」


 フロレンツはトボトボと竜の元に行き、頭を下げる。


「頼む。見逃してくれ。身重な妻がいるんだ。だから」


『関係ない』


 竜はフロレンツが頭を下げたまま耳打ちをすると、耳に唇を落としていく。


「痛っ」


『くっくっく』


 そう言うと、笑顔で川の中へと去っていった。

 ルルはフロレンツの背後に周り、フロレンツの抑える手を除ける。


 すると、フロレンツの後ろの毛が青に染まっていた。


「あーまたっすね」


『羨ましいっす』


 男二人は女二人に睨まれ、身を竦めて小さくする。


「おじい………。竜に愛される者の代償ってなんだよ」


 いつの間にかフロレンツの目からは涙が出ていた。

 その事にレオニーが気づき、頬に伝う涙を拭う。


「大丈夫ですか? フロレンツ?」


「ああ、毛根が痛くて……」


『バーカ』


「ロジェー。義父さんを労って!」


 青い体をしたロジェに抱きつく。ロジェはポンポンと背を優しく撫でてくれる。


 3年たった今でも、フロレンツは相変わらず竜に狙われる日々が続いているのであった。

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紳士が今日も少女【竜】を愛でる @kou2015

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