第36話嫁
酒を一気に飲み干し始めた若い騎士たちは、酔ってきたのか、だんだんとフロレンツに絡み始める。
「だいたい、フロレンツ大尉こそ、そろそろ身を固めたらいいんじゃないですか? どうなんですかレオニー少尉は歳の頃合いもそろそろですよね。23歳になるんですよね」
「10歳以上下の子に手を出せと?」
「ヘラちゃんだってまだ21歳ですよ。会いたい会いたいって言ってましたよ。どんな手練れ何ですか大尉は」
「エンゾ! お前は……」
「俺はずっと禁欲生活だったので!」
陽気に鼻まで赤くしているエンゾの口が止まることはないようだ。フロレンツは頭を抱え、女性陣から冷たい視線を浴びる。いや、熱い視線を本当は浴びている。
「フロレンツ大尉っていいよね。私もあんな隊長だったらな」
「悪かったね。私のような老いぼれの隊で……」
酒瓶を持って現れたのはゲルルフだった。肩は包帯で巻かれ、まだまだ傷跡は癒えないようだったが、今日は飲んでいるようだった。フロレンツの隣に座ると酒瓶をどんと置く。
「いえ、そんな事は……」
「分かっているさ。どうせ男の匂いがで始めた頃の油の乗った手練れのほうがいいんじゃ……」
「ゲルルフ中佐?」
「分かるか! 最近では髪も薄くなってきて、ほとんど白髪! 男の魅力なんて皆無だ! それにお前は力もある。剣技、妖精の加護付き、髪まで色を変えおって、個性が益々引き出ておる」
飲み過ぎではないだろうか。フロレンツはゲルルフの怪我をしていない右肩を軽くさすり、水を勧めるも、自分で酒を注いで飲み始めた。
酒の匂いが一気に増す。
「だがな、我は救われた! お主が退避させてくれたおかげでな」
頭を机にくっつけるように深々と下げて、礼を言われる。
「お主のおかげで、生まれたばかりの初孫の顔を見れた。ありがとう」
「いえ、私はあなたの部下たちの熱意もあって強行できたのですよ。出なければ、あなたは私の事を一生恨んでいたでしょう?」
「そんな事はないとは言えんな。私が去ってから、魔法が降ってきたと聞いた。死傷者も出た」
顔を赤らめた状態で酩酊しているようだが、目はフロレンツを逃がさない。
「部下たちの懇願がなければ、お主を恨んでいたかもしれぬ。ワシの死に場所を奪ってとな……」
酒を再び注ぎ、フロレンツに渡すとそれを飲めと言わんばかりに顎でさす。
フロレンツが一口口をつければ、もっとと目で促してくる。
フロレンツは苦笑してグラスに注がれた酒を飲み干す。
「だがな、お前は早期に我々の隊を立て直させてくれたとも聞く。そして、敵を追い込み白旗を振らせた。第二波の魔法も防いだ。感謝しているぞ。被害が最小限となった」
今度はフロレンツを見て深々と頭を下げた。フロレンツの手を握りしめ、その手に頭をつけた。
フロレンツは首を横に振る。
「私一人の力ではないのですよ。確かに魔法を使える事は他の者より戦力はあるでしょう。しかし、私が前線に出るまで持ち堪え、尚且つ共闘してくれた。私はあの惨状でも、背中を任せられると思ったから、前へ突き進めたのですよ。ここにいる者も散って行った者も優秀な者達ばかりです」
「そうか」
ゲルルフは目に涙を溜めて、酒を煽った。
フロレンツは再びゲルルフの肩をさすり、水を渡した。
ゲルルフもおそらく、それが水である事は気付いていただろうが、それを飲み干した。
「フロレンツお主、私の娘の連れ合いにならぬか? まだ末の娘は嫁に行っておらん」
「は、はい?」
「お前が息子になったら、どれほど嬉しい事かと思ってな」
そこに割って飛んでくる影があった。勢いよくフロレンツの胸に飛び込むと、顔を擦り付けてくる。
「ルルちゃん」
『フロレンツは私の物なの。他の人が隣にいるのはイヤ!』
「はいはい。分かっているよ。ゲルルフ中佐。残念ですが、私には可愛い嫉妬娘がいますので、連れ合いは遠慮させていただきます」
ゲルルフは娘?と目を丸くするが、それがルルの事だと分かったようで、微笑みルルの頭を撫でた。
「お前が前に言っていたのはこの子の事だったのか。残念だが、仕方がないな……いや、竜が認めればいいのか?」
ゲルルフは諦めきれないようで、顎に手を置き、眉根を寄せている。
『ルルは認めないから!』
「ゲルルフ中佐、ルルが火を出す前に思案するのはおやめ下さい。私は誰とも連れ合う気がないのは確かです」
「テアの事か……」
「まあ、どう取られてもいいですよ」
フロレンツは笑顔を向けると、ゲルルフは黙りルルの頭を撫でながら、酒をちびちびと飲み始めた。
*
「それで、レオニー。どこまで進んだのよ?」
「へ? え?」
レオニーの周りにはいつの間にかに女性騎士が集まり、酒を飲みながら、レオニーのグラスを代わる代わる酒で並々にしていく。
「しらばっくれないの。フロレンツ大尉の事が好きだって騎士団のみんなが知ってるわよ」
お酒の進んだ女性達は女性達で盛り上がりを見せている。
主に顔に出やすいレオニーをいじり倒している。
「そんな事ないです。何も進展なんて」
「けど、最近フロレンツ大尉女遊び辞めたって」
「それはルルちゃんのおかげです」
女性騎士たちは一旦動きをとめ、固まる。
「あの小竜の事かい?」
「はい、フロレンツ隊長には幼女に見えているそうですよ。だから、女性遊びはしていないんだと思います」
再び、女性騎士たちは動きを止め、腕を組み思考が追いつくと、苦笑いを浮かべる。
「あの浮名を残したフロレンツ大尉がね」
「父親代わりだと言っていました。きちんとルルちゃんを育て上げると」
「はあ、嫁を通り越して娘か。しかも竜の」
「レオニー飲もうか」
「はい」
「よくペットを買うと満たされて、連れ合いなんて入らなくなるっていうよね」
女性陣は遠い目をして、その後も酒を啜り続け、騎士のイメージ通りの騎士よ現れろ!と嘆いていた。
フロレンツはそんな会話が繰り広げられている事は知らなかった。
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