第35話宴会

 

 夜になれば、宴会が開かれ、上等な酒が並び、皆、戦の後の興奮が治らないまま酒を楽しんだ。

 その中でも話題に上がるのは、エルヴィンやフロレンツの話題だ。

 今まで、隠れるようにエルヴィンの服の胸元にいたルイーゼが、堂々と地龍の姿でエルヴィンの後ろに陣取っている。

 益々エルヴィンの箔がついている。


 ルルはというと、フロレンツの膝の上に座り、スプーンを使ってポトフのようなスープをモグモグと食べている。数少ない女騎士達が小竜の姿をしているらしいルルの前に、群がっている。


「フロレンツ大尉! この竜愛らしいです。」


「上手にスプーン使ってるのね」


「ああ、スプーンやフォークの使い方を教えたからね」


 フロレンツが、ルルの頭を撫でれば、嬉しそうに目を細め、フロレンツを見上げてくる。


『ルル上手?』


「うん。ルルは上手に使えているよ。美味しいかい?」


『うん! お肉も食べたい』


「分かったよ。今切り分けてあげるからね」


 フロレンツが、目の前に置かれた肉を食べやすい大きさに整えてあげると、今度はフォークを持って食べ始めた。


「まあ、可愛い。言葉は分からないけど、おいしそうに食べてるのが分かるわ」


「フロレンツ大尉、少しだけ撫でさせてもらってもいい?」


「ルルいいかい?」


『お肉食べてるの邪魔しないならいいよ』


 フロレンツが女性達に頷けば、代わる代わる頭を撫でていく。


「「可愛い!!」」


 ルルは目の前のお肉がなくなると辺りをキョロキョロとし始め、フロレンツに肉の催促をする。

 フロレンツが困ったように頭を掻く。


「ルルちゃんごめんね……あんまりいっぱいは食べれないかな。みんなの分もあるし」


「じゃあ、私の所においで、私の食事を分けてあげるわ」


 一人の女性騎士が、ルルにてを伸ばせば、ルルは喜んでその女性の元へと抱きつく。


「あ、ずるい」


「私のもあげるから後からおいでね」


 ルルの取り合いが起き始めたところで、フロレンツはルルを女性達に預け、他の棋士たちの所へと向かう。

 ちなみに女性陣は快諾して、ルルにお肉を食べさせて喜んでいる。

 何故か給仕をしている使用人の女性もこそこそと集まり始めている。


「ありがとうね」


 フロレンツが優しく微笑めば、女性のほとんどが頬を染めた。その光景を見ていた他の男性騎士たちは恨み言を言い始める。


「今回はオディロイ様の隊は不参加だっていうから、少しは期待してたのに」


「フロレンツ隊長は全部いいとこ持ってきますよ。竜まで使ってー!」


「城の女皆選び放題だし、花街の女も手籠にして……」


「そうなのか?」


「よく、フロレンツ大尉の話になるんだよ」


 そこでフロレンツが後ろから通りかかり、エンゾの首を羽交い締めにする。


「エンゾ。昔の話はいいから……。いいかい、君たち遊べるのは若いうちだけだ。だけど、遊びをやめないと僕みたいに一生独り身だよ。戦争が終わったんだ。一人の人を見つけなさい」


 若い騎士たちは深く頷き、顔を見合わせて目を輝かせる。


「「フロレンツ大尉。女の喜ばせ方を教えて下さい!」」


 子犬のような瞳ですがるように見つめられる。


「いい。まずは盛るのはやめなさい。女性もいる場でそういう話をしない。君たち減点だよ」


 騎士たちは周りを見渡し、引いている女性陣を見て顔を青ざめさせる。

 そして、懇願した中にいたケヴィンの頬に触れるとフロレンツは耳打ちする。


「女は耳元で囁かれるのに弱い。行けると思ったら、耳元で、名を呼んでやればいい。ね、ケヴィン?」


 低く甘い声で手本を示されたケヴィンは、ザワザワと走る感覚に目がとろけている。


「あら、やりすぎた?」


「隊長、何すんですか? 俺に変な境地を見せないで下さい」


 ケヴィンは自分の頬を叩くと、正気に戻る。そして、身をぶるっとさせて、あたりの女性を見始めた。


「ケヴィン。そういうあからさまな態度がダメなの」


「そんなこと言われたって……」


 すると、フロレンツは後ろを通る給仕の女性の手を取ると、耳元で囁く。


 女性は頬を真っ赤に染めて、はい。ただいま。と小走りになって奥へと向かった。

 その女性に笑顔で手を振れば、振り返った女性に手を振る。


 女性は目を丸くしてから一礼して奥の酒や料理が用意されている部屋へと入っていった。


「なんすか。今のは!」


 詰め寄ってくる若い騎士たちにフロレンツは正直に答える。


「ただ、酒の追加を頼んだだけだよ。ほら、ここら辺の酒瓶ほとんど空じゃない」


 フロレンツに言われてみれば、周囲は空になった酒瓶が転がっている。


「だって、ここで大声上げるより、耳元で言ってあげたほうが、聞こえるでしょう?」


 フロレンツが空の酒瓶を集め始め、戻ってきた女性に新しい酒瓶と交換するように空の酒瓶を渡した。


「ごめんね。これ下げてもらえるかな」


「は、はい。」


 ありがとうと言って空の酒瓶を待つ女性の手を握る。


「忙しいのにごめんね。呼び止めて」


「い、いえ」


 女性は頬を染めながら、その後もフロレンツをチラチラと見るようになった。


「これ、参考になるんすか?」


「俺たちにはできそうもない」


「天然タラシには敵わないな」

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