第32話黄金の竜
フロレンツ達が城に戻れば、城の護衛に残っていた騎士団たちから熱烈的な歓迎を受け、熱い抱擁をしあう騎士達の姿が見受けられる。
厩舎に馬を休ませ、馬を労うかのように撫でると、騎士団が集まる城の中庭へと向かった。
精悍なる面々が並ぶ中、今回の戦の立役者の一人であるエルヴィンともう一人の20代前半の軍人には思えないほど華奢な男が前に立つ。
「諸君、此度の戦ご苦労であった。手傷は深かったが、見事に我が軍の勝利であった。エルヴィン其方の功績も聞いておる」
「勿体無いお言葉です。オディロイ様こそ、キエザルーロ陥落の知らせを受けて、エグナーベルの王都を包囲し、降伏させたとか……その手腕恐れ多い」
オディロイはニコリと爽やかな笑顔を向けると、風に髪が揺れてその髪をかきあげる仕草が、様になっている。
「お前たちが次々に要塞を潰していってくれたおかげだ。皆礼を言う」
オディロイが胸に手を置き、頭を下げた。
その光景に騎士達からざわめきが生まれる。
「オディロイ殿下……。王族がそう易々と頭を下げてはなりませぬ」
「殿下はやめてくれと言っているだろう? エルヴィン」
「はっ」
「まあいい。私は感謝の気持ちを示しただけだ。今晩は宴だ。まだまだ気は抜けないところではあるが、たまの息抜きもいいだろう?用意させよう」
「「おおー!!」」
騎士達の声は野太く響き渡る。
城の窓からは驚きの表情でこちらを見る姿が見える。
「此度の戦大儀であった」
そう言い残すと、オディロイは皆の前からいなくなった。
*
フロレンツ達は庭から騎士の宿舎まで歩いていた。今は休息が欲しい。
「久々のベットですよー!」
「我々は隊長のように宿屋なんて使ってませんから……」
「隊長はいつも宿屋使える時はそっちに行きますからね」
ジロリと睨まれたが、れっきとした任務の一環だ。敵国の内情の調査や、城砦の麓にある都市で反乱が起こる兆候がないか潜入している部分もある。
それに、人を殺した後というのは人肌恋しくなるものだ。
ルルと出会ってからはそれもなくなったが……。
「まあ、いいじゃない。戦争でお客さんも少ないだろうし、町の復興への貢献だよ」
「ずるいっす。俺らは野営地の天幕で寝てるって言うのにー!」
ガヤガヤと騎士達が廊下を歩いていると、ふとフロレンツは呟く。
「大儀ねえ」
『フロレンツ。タイギって何?』
肩に乗っているルルにはフロレンツの声が届いたようで、首を傾げている。
「んー。難しい質問だね。ルルちゃん。お国のために頑張りましたってお話かな」
「その通りだ。国のために命をかけて、この地を守ってくれた。その感謝の意を示す言葉だ」
振り向けば、オディロイが顔の整った騎士達を連なって、ついてきていたようだ。
フロレンツ達は急いで片膝をつく。
「フロレンツ大尉。某の活躍は耳にしている。その肩に乗っているのが、テイムしたという炎竜か?」
「はっ! 左様でございます」
オディロイは検分するかのように鋭い視線をぶつける。
『何? ルルに一目惚れ?』
「ルルちゃん?」
『蛇女が言ってたの。男がじっと見つめてくる時は、一目惚れした時だって』
「偏った知識はカサンドラか…….」
フロレンツが頭を抱え、ため息をつく。いつの間にそんな会話がなされたのかはわからないが、ルルの最近の大人ぶった口調はカサンドラが原因らしい。
ルルがオディロイの視線から逃れ、フロレンツの影に隠れながら、顔を少し覗かせると、オディロイではない視線に気づく。
『オディロイが貴女に一目惚れするわけがないでしょう?』
金色に輝く鱗をつけた小竜が、オディロイの肩から顔を見せた。
黄金の竜は稀に気に入った王族に仕える竜である。
その力は天候を操り、厚い雲を空に纏わせ、雷を地に落とすとされる。
当代の王の元へは現れなかったが、第二王子となるオディロイの元へと現れたのだ。
これによってオディロイは時期王と目されている。
『全く、今回の戦で力を見せた竜というから、期待していたのに、まだまだ子供じゃない』
「エーリカ、そう気を荒立てるな」
『ふん。竜としてのクラスが上位になったとは言え、まだまだよ』
「ルルは上位になっているのですか?」
フロレンツが驚きのあまり顔を上げ、オディロイの肩にいるエーリカを見上げた。
すぐに不敬に当たると思い、視線を床へと落とす。
『テイムしたてとは言え、貴方はこれを連れて戦場に出たのでしょう? どれだけの人を殺してきたの? 竜には生命を殺生したり、摂取したりすることでクラスを上げていくわ。もちろんテイムした主人が生命を奪った時もね』
「そうだったのですか」
『何も知らないのね……』
「フロレンツ大尉は此度の作戦中に竜を得たと報告で上がっている。日が浅いのだ。仕方がない」
『それなら仕方ないわね。今回の戦もその右腕に頼ったのでしょう? 前に見た時よりも侵食が広まってるわ……だから、ウーヴェは嫌なのよ』
初代ゲゼルマイアー国王が生きていた時代、少なくとも500年以上の間この世を見てきた黄金の竜に、全て見透かされている気がした。
『ウーヴェは、嫉妬の竜。荒れ狂う感情を吸い取り、尚且つその感情に反応してどんどん契約者の体を喰らいつくしていくわ。いつ壊されてもおかしくない』
「私も今回の戦いで初めて知りましたよ。今までにこんな事はなかった」
フロレンツは苦い顔で自分の右肩を掴む。その指には力が入っているようで、服に指が食い込んでいる。
『気をつける事よ。それか、テイムした竜を得たなら、ウーヴェとの契約を解除すればいいわ』
「契約の解除?」
『ウーヴェを殺せばいいわ』
エーリカがオディロイの肩からフロレンツの顔の前へと、飛んでくる。
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