第27話小太りの男
敵兵は数を減らし、前に進むこともなく、砦周辺で守りを固めていた。
味方のいない今、フロレンツが気を使う必要はない。
次々に火魔法を敵兵へと放っていく。
その右腕から黒い炎が絶える事はなかった。
『フロレンツー!』
空からブレスでルルが攻撃している。皆攻撃対象をルルに変え、石の礫や矢が飛んでいく。
フロレンツはルルを呼ぶと、ルルは着陸する。
土埃で周囲の視界が悪くなる中、フロレンツはルルの背に乗り飛び立つ。
「全く、ルルちゃん危ないでしょ。ほらこうすれば怖くない!」
眼前にいる何百という兵を見下ろし、幻覚魔法を繰り出す。
フロレンツ達が、地面に着地すれば、敵兵はその姿を見た驚く。
そこには紅い竜の赤黒い竜の2匹が睨みを利かせていたのだ。
紅い竜からは紅い炎が、もう片方の赤黒い竜からは黒い炎が放たれる。
「あの男はどこへ行った?」
「竜が二体だと?」
「我々に勝ち目はない……」
フロレンツは自らの身が竜に見えるように、広範囲に空から幻覚魔法を放ったのだ。
戦意を失った兵達が大半の中、切り掛かってくる敵兵に炎の魔法を浴びせていく。
すぐ様消し炭となった仲間を見れば、恐怖に慄いていた。
だんだんとフロレンツ達に対抗する兵はいなくなり、皆剣を捨て地べたに腰を落として、フロレンツたち見上げてくる。
砦の入り口までの道が自然と開き、ルルと二人悠然と正面から砦の中へと侵入する。
そこで目の前に見えたのは兵士を連れ、逃げ出そうとしている小太りの男だった。
身なりからしてかなり身分の高い者のようだ。
進行方向を黒い炎で塞ぐとその男に問う。
「お前がさっきの惨殺劇をした者か?」
「ひっひい! 私じゃない!」
『フロレンツ。この人達から竜の匂いはしないよ』
「そうか」
小太りの男は兵士の影に隠れ、震えている。
フロレンツが兵士に向けて火魔法を発動すれば、残るモノは鎧のみだった。
その光景を見た男は、地べたを這いつくばるように懇願してくる。
「頼む。命だけは……私はエグナーベル国王の甥だ。捕虜として扱ってくれても構わない。降伏するよう叔父を説得する……だから殺さないでくれ……」
「となると、この戦場の責任者か……」
小太りの男が頷けば、フロレンツは微笑む。
「命まではいただきませんよ。あなたは十分に使えるようだ。ただ、代償が必要です。」
男の顔はみるみるうちに青ざめ始め、その場に崩れた。
フロレンツは男の身包みを剥がすと、下着一枚の姿にさせ、砦の上から白旗を振らせた。
男のプライドを傷つけても、目の前に広がる悲惨な光景に、フロレンツの怒りが止まる事はない。
砦の内部を捜索したが、魔法兵の姿は一人もなかった。すでに逃走してしまったのであろうか。
フロレンツは少しふらつきながら、拘束した小太りの男をルルの背に乗せ、自分もその後ろに乗る。
『フロレンツそれ乗せるの? 汚くない?』
「大丈夫だよ。僕なんかより綺麗好きなはずさ。戦地にいても無精髭なんて生えていないしね……それに大将がこんな姿でいたら、敵兵に敗北が分かりやすく伝わるだろう」
ルルは嫌々男を背に乗せ、飛び立つ。
「怖いー! やめろ! 下ろせー!」
「ダメだよ。慣れればなんとかなるから」
小太りの男があまりにも騒ぐため、フロレンツは手刀を食らわし、エルヴィンの元へと向かった。
「全く、いくじがない。と言っても僕には竜の姿は見えないから、なんとも言えない感情なんだけど……」
フロレンツは遠くを見るのであった。
*
「エルヴィン大佐……」
フロレンツが戻れば、意識を失ったままのエルヴィン大佐がルイーゼに抱きしめられていた。
他の隊員もエルヴィン大佐の近くで、心配そうに見つめているが、恐らく竜がいるため近づけないのであろう。
「ルイーゼ。大佐は?」
『精気を分け与えたわ……。そのうち目覚めるはずよ。全く魔法の使いすぎなのよ……』
「そうか……。ルイーゼ、大佐を後方の天幕まで運んで休ませてやろう」
フロレンツがエルヴィンの体に触れると、ルイーゼも頷いた。
だが、視線はルルの背中で意識を失っている男を睨みつけている。
『竜の匂いは感じないけれど……それは?』
「自らエグナーツ国王の甥という身分を明かしていたから、間違いなく指示を出す側の人間だとは思うけど、さっきの魔法と関係しているかは問いたださないと分からない」
『そう。それなら私がその男から情報を引き出しましょう』
フロレンツたちが首を傾げると、ルイーゼはエルヴィンを地面に寝せて、男の前へと歩いてきた。
男の頬にビンタをすれば、男の顔に赤い跡が残る。
周囲の騎士たちは目を丸くした後、恐怖に身を寄せ合っている。
竜のビンタだ。女がビンタをしているわけではないのだ。当然の反応だろう。
『目を覚ましなさい』
ルイーゼがもう一発ビンタを加えようとしたところに、霧が現れ、姿を見せるモノがいた。
『全くルイーゼはその寝そべってる男の事となると、頭に血が上るんだから……』
霧が型取れば、現れたのはカサンドラだった。
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