第24話竜の加護
「隊長! ご無事だったんですね」
騎士達に声をかけられ、フロレンツの心は少し落ち着いた。
まとわりついてくる負の感情を心の奥底へとしまう。
剣に宿していた魔法も解除した。
「隊長お怪我は?」
すっと歩み寄り、フロレンツの体を覗き込むのはレオニーだ。
その心配そうな顔に笑顔を向ければ、レオニーは顔を赤くして、俯く。
「大丈夫だよ。それより君の方は大丈夫かい?」
そっとレオニーの頬に触れれば、若い騎士に野次をくらう。
「隊長たちここ戦場ですよ! 敵のおかげの氷魔法のおかげであたりから敵兵が消えていますけど、戦いの真っ最中ですよ!」
「そうだー! イチャつくならここじゃなく、もはや俺たちのいないところでやってくれー!」
レオニーは顔を手で覆い、フロレンツは肩を竦めた。
「イチャつくっていうのはもっとこういう事をいうんだよ」
フロレンツはレオニーの腰に手を回し、抱き寄せた。
レオニーは目を丸くすると、必死にフロレンツの腕から逃れようとする。
「隊長ふざけないでください!」
レオニーの本気で怒っている姿を見て、フロレンツは舌を出すと、パッと手を離した。
「隊長は緩急ありすぎです。私たちから離れた時に、寂しげな表情をしていたから追ってきて見れば!」
「心配してくれたんだね。ありがとう」
フロレンツは左手をレオニーへと伸ばし腰を抱くと、右手は敵兵の方に向けて炎を放つ。
「
フロレンツの右手側から降ってくる氷の礫を相殺し、魔法は消えた。
「そうそうゆっくりもしていられないか」
フロレンツの呟きに、騎士達は声を荒げる。
「そんな呑気な事言ってないで、行きますよ!」
「イチャつくなー!」
フロレンツは騎士達が騒ぐ姿に微笑みながら、寄ってきた敵兵に対峙するのであった。
*
「もう少しで先行していた部隊と合流だ。気を抜くな!」
「誰も我らは気を抜いていません! 隊長と副隊長だけです!」
後方から騎士達の声が聞こえるが、フロレンツは視界に入ってきた光景に唖然とする。
エルヴィン大佐の隊が壊滅状態だったのだ。
先頭に立つエルヴィンも体から血を流し、剣を振るっていた。
「エルヴィン大佐!」
エルヴィンまではまだ距離がある。味方と敵兵が混在する中、下手に魔法は使えない。
焦る思いを押し込め、フロレンツはただ剣を振るい、敵兵を次から次へと薙いでいく。
「なんだ……鉄壁の騎士とかいうけど、ただのじじいじゃねえか。行くぞお前ら!」
敵魔法兵から怒号が飛ぶ。体格の良い20代後半と思われるスキンヘッドの男が水魔法を放ち、その魔法に合わせて、他の魔法兵が氷魔法を放つ事で魔法が強化されているようだ。
エルヴィンも変幻自在な動きをする魔法に、手を焼いているように見える。
「あの水魔法。隊長とは相性が悪そうですね……」
レオニーと背中合わせになり、話をする。
「ああ、僕の魔法を見れば、水魔法単体で攻めてくるだろうね……。レオニーそれ良いかも!」
フロレンツは剣に炎を纏うと一気に、戦場をかけて行く。
「隊長またですか……」
レオニーの声も届かず、1人また1人と敵をなぎ倒して行く。
「じゃあ、派手に見せますか……」
フロレンツは右手にイメージを固め、辺りに炎を放つ。
「
敵に当てるというよりかは、地面から上空に向けて火を放った。
敵兵たちは驚き、尻を地面につけながら、這うようにしてその場から退散する。
フロレンツの周囲にだけ敵兵がいなくなる状態へとなった。
「派手にやってるじゃないか」
気がつけばフロレンツの右横には、先程の体格のいい魔法兵が馬に乗り迫って来ていた。その後ろからは若い魔法兵達が走ってついてきている。
フロレンツは敵兵が自分に注意を取られるように、わざと派手な魔法を打ち上げたのだ。
「魔法兵は半分くらいこっちに来ちゃったかな?」
フロレンツの陽動に前線にいた魔法兵の半分の20名ほどはこちらに来たようである。
「本当に量産型の魔法兵って反則だよな……」
魔法兵が来たことで、周囲の兵の数は減って来ている。
「ほら、お前ら行くぞ——水球ウォーターボール!」
男は空に向けて水の塊を無数に出すと、そこに魔法兵達が氷魔法を合わせる。
「
直径5センチほどの大きさの氷の粒が、勢いよく空から降って来る。
フロレンツは空を見上げて火魔法で相殺しようとするが、フロレンツの周りに土の壁が出来上がり、1人の女がその中には立っていた。
土の壁で光が遮られ、女の顔までは見えない。
*
『あなた何を考えているの? この作戦はエルヴィンが敵兵を引き付けておく手筈だったでしょ?』
「あなたは?」
その言葉に女はため息を吐くと、男にすり寄る。
『仮契約よ。エルヴィンを助けたいという気持ち本物のようだからね……』
「まさか……ルイーゼなのか? 地龍の」
『代償は髪100本でどう? この戦の間は守ってあげる』
「待て髪は……」
『エルヴィンが気付く前にさっさと終わらせるわ……』
すると、軽くルイーゼの唇がフロレンツの頬に触れた。
『いいこれは気休め。自分の防御くらいしか出来ないわ。もしもの時は使いなさい』
土の壁が壊れ始め、ルイーゼの顔が見えた。
そこにいたのは長い緑の髪の妖艶な体の持ち主の女性だった。
ルイーゼは目を丸くしているフロレンツの唇に触れる。
『いい、この事は絶対エルヴィンに言わないで……秘密にしておきなさい。あなたに死なれては、エルヴィンが一人でこの戦場を背負うことになるから力を貸すだけよ』
ルイーゼはさっさとフロレンツに背を向けると、人の間を縫ってエルヴィンの元へと戻って行った。
『まさか、今になって波長が合うとはね……。エルヴィンに対する想いの強さは譲れないけれどもね。……ありがとうフロレンツ。エルヴィンもあなたが引き付けてくれたおかげで、少しは楽になれるわ』
ルイーゼは微笑みながらトカゲの体で兵士たちの間を進むのであった。
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