第22話ルルの乙女心と女心ゼロの男

「ひえー、これマジっすか?」


 軽口を叩くケヴィンにレオニーが頭を小突いている。

 奇襲部隊として待機しているフロレンツ隊は、後方部隊と一緒に、戦地の後方から開戦を目前に、敵味方の兵が睨み合っている様子を見守っていた。

 その中で、フロレンツ隊の中心にいたのはルルだ。



「亜正体から正体になってますねー! ずっと小さい竜の姿だったから、分かりませんでしたよ。また立派な脚で!」


 ケヴィンがルルの足をじっと見つめている姿が、フロレンツの親心を刺激する。

 フロレンツにしては珍しく、ケヴィンの頭をコツンと拳を振り下ろした。


「女性の足をまじまじと見てはいけないよ。ケヴィン、女性の足は流れるように視界に入れなくては!」


「隊長! 純粋なケヴィンに余計な事教えないでください!」


 レオニーに叱られて、フロレンツは舌を出す。


「副隊長は軍服ですから、見ようがないですけどね……ちなみにルル様って隊長から見るとどんな子なんですか?」


 また、レオニーに頭を小突かれているケヴィンを見て笑いながら、フロレンツは少し首を傾げて、ルルを観察した後、木の棒で地面に絵を描き始める。

 地面にはワンピースを着た7、8歳の長髪のリボンをつけた女の子の絵が描かれた。


「こうして言われると、出会った頃から少しずつ成長しているのかもしれないね。出会った頃はこんな感じに見えたから……」


 フロレンツはそういうと、4、5歳の痩せ細ったボロボロの服を着た女の子の姿を描く。


「へえー、あの砦にいた頃はこんな姿だったんですね。我々から見ても、幼体で弱った竜でしたもんね。隊長がテイムしてからは、どんどんと大きさも成長して、色艶も良くなってきました」


「そうなんだ。僕には竜の姿は見せてくれないからな……君たちの目からも元気になってくれているならいいんだ」


「グルルルル〜」


 ルルは恥ずかしそうに、自分のお腹を手で抑えて、顔を赤面する。

 ルルを中心に話をしていたため、皆の注目を集めていた。

 フロレンツはその様子を見て微笑むと、後方部隊の調理場を借りて、道中狩っていた魔物を捌いていく。


「戦に行く前の腹ごしらえだ。我々の出番はまだまだこれから! みんな食べなさい!」


「おー!」


『うん!』


 竜を囲んで皆食事についた。



「俺腹パンパンです」


「お前は買いすぎなんだよ。戦いの前にそんなにたらふく普通食うか?」


「だって隊長のご飯は一流なんですもん」


 笑顔で話してくれるケヴィンの頭をガシガシとフロレンツは頭を撫でる。


「そう言ってくれると、作りがいがあるね。ルルちゃんもお腹いっぱいになったかな?」


 ルルは満足げにフロレンツの肩に乗り、ニコニコとしながら首を縦に振った。


『フロレンツのご飯美味しい! フロレンツだーいすき!』


 ルルはフロレンツの頬にキスをして、自分の感情を表現すれば、フロレンツは肩に乗るルルを抱きしめ、頭を撫で頬擦りをした。


「僕もルルちゃんの事大好きだからね!」


『フロレンツの髭ジョリジョリー! 痛い』


「髭剃ってなかったからねー。ごめんごめん」


 フロレンツが気にして自分の顎を撫でれば、騎士達は皆首を傾げている。


 ——竜の硬い表皮で髭の感触があるのか?——


 騎士達が心の中でそう疑問に思っていれば、ケヴィンが余計な一言を言う。


「ルル様ってこんな堅そうな皮膚なのに、髭の痛みが分かるなんて案外デリケートな皮膚なんですね!」


 ケヴィンは騎士たちによって取り押さえられ、口を閉じさせられるもすでに遅く。

 ルルの視線は、ケヴィンを睨みつけている。

 騎士達はその場から一歩一歩後ろへと離れ、逃げようとするが、ルルとの追いかけっこが始まる。


「全く、ケヴィンは本当に女心を理解していないんだから……」


「それはある意味フロレンツ隊長にも言えてると思いますが」


 レオニーにフロレンツは睨まれ、フロレンツは視線を外す。


「おかしいな。ケヴィンよりは分かっているつもりだがな」


「分かりすぎているから、辛いんです……」


 レオニーは呟くように言うと、敬礼してその場を後にした。


「それはレオニーにも言える事だよ」


 クスリとフロレンツは笑うと、ルルに呼びかけて騎士達の食後の軽い運動程度になるように伝えたつもりだったが、ルルが張り切って動き始めたように見えた。

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