第21話フロレンツを労う会

「レオニー。ルルちゃんは体は赤いんだよね?」


「はい、紅いです」


 やっと竜の精気が消化され、レオニーとまともに話ができるようになった。

 レオニーに現在次回のキエザルーロ城塞を攻め入る時の戦略を練っている。

 会議ではエルヴィン大佐が中央を、そして、フロレンツの隊は左翼から攻め入ることが決まっている。


 エルヴィン大佐は滅多なことがない限り、攻撃には転じないため、防戦一方になる事は目に見えている。

 敵魔法兵を撹乱し、攻め入るためにも何かしら小技が使えないか検討している。


 フロレンツは地面に絵を描き始める。

 ルイーゼを見た時のイメージに羽根を生やす。


「レオニー、ルルちゃんってこんな感じなのかな?」


 レオニーは小首を傾げながら、その絵を見つめるが、何点か補足を入れてくれる。


「ルルちゃんはもっと後脚がしっかりしていて、前脚はこうです。爪はがっしりしていて、基本羽根を二本足で立っていますよ!」


 レオニーの絵を見て、フロレンツは感謝の言葉を伝えたが、それを見ていた部下の一人、まだ年若いケヴィンが反応する。


「レオニー副隊長って絵が下手なんですね……。これじゃあ子供の絵じゃないですか……」


「そんな事を言うなら、ケヴィンがルルちゃんの絵を描いてみなさいよ! 結構難しいんだからね!」


 ケヴィンは「余計な事を言うな」と、他の騎士たちから頭を小突かれると、渋々地面に木の枝を使って絵を描き始めた。


「記憶に残っている姿はこれですね……。後今はこんな感じ……」


 ケヴィンの絵は中々に繊細で上手い。小さい竜の姿は中々に愛着の湧く姿である事が分かった。

 その絵を見ながら、フロレンツは自分では見ることのないルルの本来の姿をイメージしていく。


「ふん。私は絵は苦手ですが、剣の腕ならあります」


「ケヴィンは剣の腕はからっきりだが、絵だけは上手いからな……」


 他の騎士たちからの言葉に、思わずフロレンツ隊は笑いに包まれた。

 今日はフロレンツを祝う会として、皆が酒を集めて宴会騒ぎだ。

 明日の明朝から移動が始まるのを理解しているのか分からないほど、酒を飲んでいる者が多い。


 初めレオニーを引き連れて飲み会に参加した時は驚かれたが、作っていた団幕にはすぐに修正が入り、フロレンツ隊長を労う会から祝う会に訂正されていた。

 フロレンツとレオニーは意味が分からないのか首を傾げ、設けられた席へと座っていた。



 酒が勧めば、男の集まりのためか、レオニーに絡む連中が出てきた。


「それで、隊長とはどこまでいったんだよ?」


「どこまでって何を言ってるんですか?」


「昨日森に消えてだろう? その時に何かあったんじゃないのか?」


 ニタニタと下衆な笑いを浮かべるのはセザール中尉である。

 事あるごとにレオニーを構っている。

 その話が聞こえたのか、ルルがレオニーとの間に入り、セザールを睨みつける。


『レオニーよりルルが先にしたんだから!』


「ルルちゃん?」


 突然レオニーの膝の上に乗ってきたルルを、レオニーが小首を傾げながら、頭を撫でて宥める。

 ルルは嫉妬の炎に燃えているが、レオニーには竜が少し唸っているようにしか聞こえず、ルルの気持ちは伝わっていないようだ。


「はいはい。ルルちゃん大人しくしましょうね。眠いのかな?」


 ガヤガヤとした宴会の席ではルルの声も聞き取りにくく、フロレンツにも伝わっていなかったようである。


「隊長、私森に行ったところまでは記憶にあるんですが、その後何かあったんでしょうか?」


「セザール中尉……また何を吹き込んだの?」


「いえ、私は何も……」


 セザール中尉がバツが悪そうに、レオニーから離れると、フロレンツはレオニーを心配する。


「大丈夫だった? セザール中尉は本当に君を構うのだから……それで何を言われたんだい?」


 フロレンツが肩に手を添えれば、レオニーは顔を赤くする。


「そのあの、森に消えた後どこまで進んだかと……ですが、私あの時はフロレンツ様の匂いに当てられて、意識が朦朧としていたのです。なので、何も覚えていないので、答える事が出来ず……」


 フロレンツはレオニーの頭を撫でてやると、耳元で囁く。


「例え、何かあったとしても、覚えていないんだから正直に答えればいいんだよ」


 優しく囁かれた声にはどこか悲しみが感じられた。


「フロレンツ隊長?」


 レオニーはフロレンツの事を見る。


「ぐるるる〜」


 すると、ルルのお腹が鳴った。フロレンツはルルを見てニコリと笑う。


「ルルちゃん遠慮しないで食べていいのにって、お酒の席だからあんまり食事がないか。よし、じゃあ何か作ってあげよう」


 フロレンツは立ち上がり、食材のあるテントへと向かう。

 後ろからヒョコヒョコとルルが付いていき、フロレンツの肩に乗った。


『レオニー何て言ってたの?』


「ルルこそレオニーの膝に乗って何をおしゃべりしてたんだい?」


 フロレンツは手頃な肉の塊を見繕いながら、ルルに尋ねる。


『女同士の会話は教えない!』


「あらまあ、ルルちゃんもお姉ちゃんになってきて……そっか教えてくれないのか。なんだか胸がズキっと痛む」


『痛いの?』


 ルルが心配して顔を覗き込んでくるが、フロレンツは首を横に振った。


「大丈夫だよ。例えだから!」


 フロレンツは肉の塊を担ぐと、調理台へと移動するのであった。



「さあ、いっぱいお食べ!」


「やったー! 隊長の手料理だー!」


 フロレンツが鍋ごと料理を持ってくれば、若手の騎士達も喜びの声を上げる。


「バカ、これはルル様のお食事だ。手を出すな!」


 フロレンツはその言葉に微笑むと、後ろにある調理台を顎で指す。


「大丈夫。そう言うと思っていっぱい作ったから、みんなもお食べ」


 フロレンツ自ら給仕をして、ルルはレオニーに面倒をみてもらっている。

 その姿を微笑ましく見つめながら、若手の騎士達の器に山盛りに料理を盛るのであった。


 楽しかった宴会が終わり、明朝、野営地を畳み、キエザルーロへと向かった。

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