第14話竜の戯れとレオニーとの戯れ

 フロレンツの眠る横には、2匹の竜がいた。

 お互い牙を向け、いがみ合っている。


『精気を奪っておいて、気安く触れないで! 私が精気をあげるの!』


『あなた、馬鹿なの? 自分の精気を分け与える竜なんて……。普通は取るだけ搾り取って、自分の美を追求するのよ』


 カサンドラは自分の鱗の透明感ある白さを、自慢したいようだ。

 体をくねらせ、赤い小さな竜に見せつけている。


『そんなモノのために、フロレンツの精気を奪ってたの? 蛇の分際で!』


『蛇じゃないわよ。この手見えないの? あんたみたいなゴツい腕じゃなくて、この可愛らしい手が!』


 2匹の竜の形態は大きく異なり、赤い竜はしっかりとした手足だが、白い竜は胴が長く、手足がちょこんと生えているのだ。


「二人とも喧嘩はよくないよ。そして、ルルちゃん、精気はいらないから大丈夫……」


 二人の喧嘩で目が覚めたフロレンツは、体を少し持ち上げ、汗をかいた体の臭いを嗅ぐ。


「はあ、二人とも可愛いし、綺麗だし、女性の美しさはそれぞれあるんだから、喧嘩しないの!」


『ふふ、少し加減してあげたから、割と早く起きたわね。』


『それでも半日は寝込んだ!』


 二人の喧嘩がまた始まる中、天幕の外から声がかかる。



「隊長? 起きましたか?」


「……ああ」


「入りますね」


 天幕の中へレオニーが入ってくる。手には簡単な食事が用意されていた。


「食べれそうですか? あっさりとした物をお持ちしたんですけど……」


「大丈夫だよ。レオニー。ありがとう。」


 フロレンツはレオニーから食事をもらうと、少しずつ食べ始めた。

 精気を奪われたせいか、腹が減るのだ。


「レオニー。俺は半日眠っていたのか? 戦況は?」


「ええ。今はちょうど、夕刻ですから半日はお休みになっておられました。戦況としましては、エルヴィン大佐が率いて、ディーメル都市内へと攻め入っているところです」


 恐らく、ディーメルの都市内部では、あの氷竜によって、魔法兵が増産されている。

 エルヴィン大佐の鉄壁の防御も、いつまで持つかわからない。


「魔法兵が多くて、てこずってたりするのかな?」


「何故それを……」


「エルヴィン大佐から聞いてないのか……」


 フロレンツは食料をかきこみ、立ち上がる。それに二人もついていく。


「レオニー。君は何故ここにいるんだい?」


「それは……。エルヴィン大佐に言われて……。我々の隊は、ラルフ少尉が率いています」


「そっか」


『本当は、フロレンツが倒れて、気が動転して使い物にならないからって、私たちと一緒に後方の部隊まで下がってきたのよ』


 カサンドラがねっとりとフロレンツの肩に触れて、教えてくれる。

 それに対抗するように、ルルはフロレンツの腕を取り、二人の火花が散る。


「頼むから、二人は喧嘩をしないでくれ。これから戦地に再び戻るぞ。気を引き締めてね」


『頑張る!』


『私は必要になったら呼んでね! 声が聞こえたら駆けつけるわ』


 カサンドラの姿が霧となり消えて、フロレンツは安堵した。


「隊長、その竜が1匹いなくなったようですけれども……」


「そうみたいだね」


 フロレンツは肩に乗るルルの頭を撫でる。レオニーはため息を吐くと呟いた。


——私も撫でられたい——


 レオニーの言葉は聞こえなかったが、フロレンツはレオニーの顎に手を置き、顎を少し持ち上げた。


「ねえ。レオニー?」


「はい、なんでしょうか?」


 レオニーが驚いた表情をすると、フロレンツは顎に置いていた手で、レオニーの髪の毛を耳にかけてやり、耳打ちする。


「そんなに僕のことが心配かい?」


 フロレンツがにこりと笑うと、レオニーは顔を赤らめてモジモジとし始める。


「でも、次からはそんな事で、動揺しないように。

 戦場ではたくさんの人が死ぬだろう?

 人一人死ぬのに悲しんでたんじゃ、やっていけないぞ!」


 フロレンツの言葉にレオニーは違和感を感じる。フロレンツは自分の隊の隊員が死ぬたびに、墓を立ててやりそこで一杯酒を飲むのだ。

 しかしレオニーを激励しているのだとも思えるが、首を傾げたまま呟く。


「隊長、最近なんだか変です」


「え、やっぱり臭う? シャワー浴びる暇ないなー」


 フロレンツはそう言うと、サッとレオニーから手を離した。


「ルルちゃん、超特急でお願い!」


『任せてー!』


「ルルちゃん、本当はおっきいんだよね? レオニーも乗せれる?」


『余裕だよ!』


 ルルは体を大きくして、フロレンツを背に乗せる。

 フロレンツは振り返ると、レオニーに手を伸ばす。


「お嬢さん。空の旅はいかがですか?」


「隊長、ふざけないで下さい!」


「ふざけていないさ。さあ、行くよ」


 フロレンツはレオニーの手を引っ張り、抱き上げた。


「きゃっ。」


「ふふ。さあ、戦地へ行こう!」


『血生臭い。ディーメルへ!』


「いや、ルルちゃんそこはもうちょっと可愛らしい表現にしようよ……」


『臭いものは臭いの!』


「それって僕の臭いも……」


 フロレンツが何かに葛藤している間にも、どんどんと都市ディーメルに近づいていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る