第14話竜の戯れとレオニーとの戯れ
フロレンツの眠る横には、2匹の竜がいた。
お互い牙を向け、いがみ合っている。
『精気を奪っておいて、気安く触れないで! 私が精気をあげるの!』
『あなた、馬鹿なの? 自分の精気を分け与える竜なんて……。普通は取るだけ搾り取って、自分の美を追求するのよ』
カサンドラは自分の鱗の透明感ある白さを、自慢したいようだ。
体をくねらせ、赤い小さな竜に見せつけている。
『そんなモノのために、フロレンツの精気を奪ってたの? 蛇の分際で!』
『蛇じゃないわよ。この手見えないの? あんたみたいなゴツい腕じゃなくて、この可愛らしい手が!』
2匹の竜の形態は大きく異なり、赤い竜はしっかりとした手足だが、白い竜は胴が長く、手足がちょこんと生えているのだ。
「二人とも喧嘩はよくないよ。そして、ルルちゃん、精気はいらないから大丈夫……」
二人の喧嘩で目が覚めたフロレンツは、体を少し持ち上げ、汗をかいた体の臭いを嗅ぐ。
「はあ、二人とも可愛いし、綺麗だし、女性の美しさはそれぞれあるんだから、喧嘩しないの!」
『ふふ、少し加減してあげたから、割と早く起きたわね。』
『それでも半日は寝込んだ!』
二人の喧嘩がまた始まる中、天幕の外から声がかかる。
*
「隊長? 起きましたか?」
「……ああ」
「入りますね」
天幕の中へレオニーが入ってくる。手には簡単な食事が用意されていた。
「食べれそうですか? あっさりとした物をお持ちしたんですけど……」
「大丈夫だよ。レオニー。ありがとう。」
フロレンツはレオニーから食事をもらうと、少しずつ食べ始めた。
精気を奪われたせいか、腹が減るのだ。
「レオニー。俺は半日眠っていたのか? 戦況は?」
「ええ。今はちょうど、夕刻ですから半日はお休みになっておられました。戦況としましては、エルヴィン大佐が率いて、ディーメル都市内へと攻め入っているところです」
恐らく、ディーメルの都市内部では、あの氷竜によって、魔法兵が増産されている。
エルヴィン大佐の鉄壁の防御も、いつまで持つかわからない。
「魔法兵が多くて、てこずってたりするのかな?」
「何故それを……」
「エルヴィン大佐から聞いてないのか……」
フロレンツは食料をかきこみ、立ち上がる。それに二人もついていく。
「レオニー。君は何故ここにいるんだい?」
「それは……。エルヴィン大佐に言われて……。我々の隊は、ラルフ少尉が率いています」
「そっか」
『本当は、フロレンツが倒れて、気が動転して使い物にならないからって、私たちと一緒に後方の部隊まで下がってきたのよ』
カサンドラがねっとりとフロレンツの肩に触れて、教えてくれる。
それに対抗するように、ルルはフロレンツの腕を取り、二人の火花が散る。
「頼むから、二人は喧嘩をしないでくれ。これから戦地に再び戻るぞ。気を引き締めてね」
『頑張る!』
『私は必要になったら呼んでね! 声が聞こえたら駆けつけるわ』
カサンドラの姿が霧となり消えて、フロレンツは安堵した。
「隊長、その竜が1匹いなくなったようですけれども……」
「そうみたいだね」
フロレンツは肩に乗るルルの頭を撫でる。レオニーはため息を吐くと呟いた。
——私も撫でられたい——
レオニーの言葉は聞こえなかったが、フロレンツはレオニーの顎に手を置き、顎を少し持ち上げた。
「ねえ。レオニー?」
「はい、なんでしょうか?」
レオニーが驚いた表情をすると、フロレンツは顎に置いていた手で、レオニーの髪の毛を耳にかけてやり、耳打ちする。
「そんなに僕のことが心配かい?」
フロレンツがにこりと笑うと、レオニーは顔を赤らめてモジモジとし始める。
「でも、次からはそんな事で、動揺しないように。
戦場ではたくさんの人が死ぬだろう?
人一人死ぬのに悲しんでたんじゃ、やっていけないぞ!」
フロレンツの言葉にレオニーは違和感を感じる。フロレンツは自分の隊の隊員が死ぬたびに、墓を立ててやりそこで一杯酒を飲むのだ。
しかしレオニーを激励しているのだとも思えるが、首を傾げたまま呟く。
「隊長、最近なんだか変です」
「え、やっぱり臭う? シャワー浴びる暇ないなー」
フロレンツはそう言うと、サッとレオニーから手を離した。
「ルルちゃん、超特急でお願い!」
『任せてー!』
「ルルちゃん、本当はおっきいんだよね? レオニーも乗せれる?」
『余裕だよ!』
ルルは体を大きくして、フロレンツを背に乗せる。
フロレンツは振り返ると、レオニーに手を伸ばす。
「お嬢さん。空の旅はいかがですか?」
「隊長、ふざけないで下さい!」
「ふざけていないさ。さあ、行くよ」
フロレンツはレオニーの手を引っ張り、抱き上げた。
「きゃっ。」
「ふふ。さあ、戦地へ行こう!」
『血生臭い。ディーメルへ!』
「いや、ルルちゃんそこはもうちょっと可愛らしい表現にしようよ……」
『臭いものは臭いの!』
「それって僕の臭いも……」
フロレンツが何かに葛藤している間にも、どんどんと都市ディーメルに近づいていく。
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