第5話少女との食事と女の部下と嫉妬

 ブラントの町に入りエグナーベルの旗を下させ、敵兵が潜伏していないか騎士達に調べさせる。


「皆いい? 強奪、強姦したらただじゃ済まないからね……。僕もルルちゃんも怒っちゃうよ! 女性を誘うならスマートに行かなきゃね」


 ルルも肩の上から威嚇すると、騎士たちは竦みあがり首を皆縦に振った。

 夜中から始まった戦いの後、騎士たちが町中調べ終える頃には、朝日が登り町民が生活を始める頃になっていた。


「ルルちゃんお腹減ったでしょ? たまには美味しいごはんを食べに行こうか。と、その前に……」


 フロレンツは街の広間にある台の前で、敵将であったものの黒焦げになった兜をかざす。


「この街はゲゼルマイアーの手に落ちた。降伏せよ。なお、我々は騎士道に乗っとり紳士的にあなた達に接するつもりだ。なるべく、今までの生活に変わりがないようにしたい。もし我が軍が強奪、強姦をしていると聞けば知らせてほしい」


 フロレンツの言葉に集められた街の民達が頭を下げた。涙を流しているものが多数いるが戦乱の世である今、仕方がない。

 フロレンツは心を痛めつつ、台から降りて飲食店を探し始めた。



「ルルちゃんに何食べさせてあげようかなー」


「隊長、まだ完全には探索は終わっていません。気を抜くのは早いかと思われます。だいたい敵の首、いえ兜を掲げたのは貴方なのですよ……。いつ何時襲われるか分かりません」


 フロレンツの後についてきたのは若く最も優秀な部下である女騎士のレオニーだ。

 いつも戦場とは違い、どこか抜けた雰囲気のフロレンツについてきてはお説教をする。


「はいはい、気をつけますよ。よし肉食べよー! レオニーも来るかい?」


「貴方は毒が盛られようと気付かないでしょうから、ついていきます」


 二人は服を着替えると洋食店へと入っていった。



「ルルちゃんはお子様ライスにしようか、後は単品で鉄板肉ひとつでいいかなー。育ち盛りだからね!」


「隊——」


 フロレンツはレオニーの唇に指を当てる。


「外では名前で呼んでね? それこそ身分を明かすようなものでしょう?」


「すみません。気をつけます」


 レオニーは顔を赤らめるとモジモジと俯いてしまう。

 その様子を見てフロレンツは微笑む。


「さて、レオニー何が聞きたいのかな?」


「あの気になっていたのですが、その肩にあるものをフロレンツ様は人間の女の子に見えているんですよね?」


「何言ってるんだい? どこからどう見ても人間でしょ?」


 レオニーは言いづらそうに真実を告げる。


「実はおそらく隊長以外には小竜に見えていたのです。隊長と戦っていた時には体調より少し大きな竜が炎のブレスを吐いたり、兵士たちを足の爪で薙ぎ払っているように見えました」


 フロレンツは深くうなずくと、背もたれにもたれかかりルルの頭を撫でた。


「なんとなくは分かっていたよ。最初に足に枷をつけられ大きな檻に入れられていた事、それを見た部下達の怯えた姿……。そして、皆幼体とか心ない言葉を言うし、今回の砦を攻めた時に、敵が小竜にって言ったんだ……そして、無詠唱の魔法」


「我々人間は妖精の力を借りなければ、魔法を使う事はできない。そのため言霊がなければ発動できない」


「そういう事。妖精と契約できる人間は稀でよく分かってない人が多いけど、頭に重い浮かべたビジョンと言葉が発せられなければ、魔法は発動しない」


 フロレンツはそう言うと優しい笑みで綺麗なウェイトレスに声をかけ、注文をした。

 レオニーは顎に手を当て考える。


「魔物か妖精しか魔法を無詠唱で発動させる事はできないですもんね……」


「そう。だから何故僕がこの子が人間に見えてしまうか考えてたんだけど……」


「分かったんですか?」


 フロレンツは天を仰ぎフーとため息をつくと、レオニーの耳に囁く。


「戦いによる欲求不満で、幻覚見えちゃってるのかも……」


 フロレンツはパッと何食わぬ顔で離れると、レオニーは顔を真っ赤にさせる。


「セ、セクハラですよ! み、耳元で何を話すかと思えば!」


「だって大々的な言えるような事じゃないじゃないの……僕は幼女趣味はないんだがね。レオニーいい加減男の中にいるんだから男になれなさい。誰かいい人はいないのかい? 仲立ちしてあげようか?」


「そういうのがセクハラって言うんです!」


 レオニーはプンと怒るとそっぽを向いて料理が来るのを待っていた。

 ルルはヒョイっとレオニーの肩に乗ると顔を見つめて頬をすり寄せた。


「ふえっ!」


「ほらほら、大きな声を出さない。ルルがびっくりするだろう?優しく頭を撫でてあげて、背中とかより頭を撫でてあげると落ち着くみたいだよ」


 レオニーが恐る恐る頭を撫でれば、小竜の姿をしたルルは目を細めて喜んでいる。


「かわいいかも……」


「ふふ。ルルは可愛いに決まってるでしょ。僕の娘なんだから……」


「フロレンツ様は本当に育てるつもりなんですね……」


「当たり前でしょ、ここまできて放置できないよ。もしさ、君の目の前の子が幼く人を見て怯える小さな幼女だとしよう。放っておけるかい?」


「できません」


「そういう事、少なくとも僕の目には一人の女の子が君の肩に抱きついているようにしか見えない」


「はあ……」


 レオニーはルルの頭を撫で続け、その表情の変化を見て楽しんでいると、料理が運ばれてくる。

 ルルはお子様席に着くと、ガツガツ食べ始めようとするが、フロレンツに止められ、待ったをかけられた。


「ルル。ごはんを食べる前にはお祈りだよ。今日もこうして無事美味しいご飯が食べれますって!」


 ルルは手を胸に当て真似をしてから手を使わずに食べ始めるとフロレンツに怒られる。


「ちゃんとスプーンを使って! ね?」


 ルルはしょぼんとすると一生懸命にスプーンを使って料理をすくい始めた。

 人間に見えているフロレンツには自然な光景なのだろうが、竜がスプーンを使って食べている姿は奇妙な光景だ。

 この洋食店に来ている時点で皆の注目の的ではある。


 そんな中その可愛らしい姿に虜となったレオニーは自分の肉を一口大に切り分けて、ルルにあげる。

 パクッと口を開けてモゴモゴする姿は可愛らしい。


「あー、かわいい。なんだか人馴れしている竜ってこんなにも可愛いんですね!」


 フロレンツが切り分けた肉をレオニーの前に出して、あーんと口を開くよう要求する。


「ほら、ルルが食べた分」


 レオニーが恥ずかしそうに口を開ければ、横からルルが机の上に座って食べてしまう。


「ルルちゃんお行儀が悪いよ。椅子に座って……レオニー悪いね。そんなにルルがお腹が空いてるなんて……」


「いえ、いいんです。ルルちゃん口を開けてもっと食べる?」


 ルルの胸の内を知らずに愛らしい子竜にどんどんと魔獣の肉を食べさせる二人であった。


「ルルちゃんお腹がいっぱいで寝ちゃいましたね」


「そうだな、拠点に戻ったらベットで寝かせてやろう」


 次の日フロレンツは信じられないものを見ることになるとは……。



 ベッドがせまい。そして全身が暖かい。

 フロレンツは早朝に目が覚めた。隣を見れば、幼かったルルはどこにもいない。

 目の前にいるのは長い紅い髪の女性だった。


「俺、確かルルちゃんと寝てたんだよな……。いつ女ひっかけて来たんだ……。昨日は酒も飲んでないぞ……」


 フロレンツは首を捻り昨日の自分の行いを振り返る。レオニーと別れてルルをベットに寝かしつけて、各部隊の情勢を聞いて、その後に床についたはずである。


「それともなんだ。また幻覚か?」


 フロレンツは恐る恐る女性の頬に触れる。少し熱っぽい気はするが頬の柔らかさなどを感じれば、幻覚でないことが分かる。


「となると、寝ぼけた状態で宿の女ひっかけたのか…年か、ボケか……」


 自分の欲の強さにあながえなかったのかとため息を吐くと、一人床に布を敷き眠り直した。


「フロレンツ大きいほうが好みじゃないの? レオニーみたいな……」


 そう、フロレンツが再び寝入ってから一人眠い目を擦り、女性は少女の姿へと変わると、いつものルルの姿だ。


「一緒に寝れないのはイヤ」


 そう言うとルルはベットから降りて床に眠るフロレンツの腕に潜り込んだのだ。

 フロレンツは何も知らない。日々食べさせている魔獣の肉や一緒に人を殺した事で竜のレベルが上がっている事を……。


「ん。あれルルちゃん?」


 目覚めれば、いつも通りの朝だ。今朝方のは夢かと思いきや床に布を敷いて寝ている。そして、いつものルルの姿が腕の中にある。

 ベッドの上を覗き込めば女の姿はない。

 フロレンツは頭を掻くと、深く考え込むのをやめた。

 紅い髪をしたルルの頭を撫でてやり、ベッドの上に寝かせてやると、着替えて朝の鍛錬へと向かう。







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