第3話少女の場所と食料調達

 村に着けば、村の長とみられる老人とそれを支える年配の男性が深々と頭を下げて地面にひれ伏していた。後方では家へと逃げ惑う人々で溢れている


「我々はゲゼルマイアーに旗を巻きます。ですのでどうかお命だけは……」


「反抗する意思がないのであれば、我々は何もしませんよ——すみません。我らも戦地に赴く途中の故に旗を掲げて……。皆さんの日常を脅かすつもりはなかったのですが」


 青ざめた顔を上げ、老人はフロレンツが肩車している幼女を見た。

 そして、幼女と目が合うと直ぐ様、地面にひれ伏す。


「すみません。そして折り入って話があるのですが、この子を預かってもらえませんか? 要塞の地下で監禁されていた孤児のようなのですが……」


 老人は顔を上げずに平伏した地面にさらに額を押し付けるように懇願してくる。


「滅相もございません。幼体とはいえ我々がそれを御する事はできません。どうか、どうかこの村にそれを預ける事はお考え直し下さい」


 地面に額をめり込ませるほど懇願されれば、フロレンツも引き下がるしかない。戦地に幼女を連れ歩くのはどうかと思うが、日程に遅れが出れば国の威信に関わってくる。


 フロレンツはそうですかとため息をつくと、村から食料を仕入れて次の戦場となる砦へと向かったのである。



「それにしてもよく食べるね。食料が尽きちゃうしちょっと魔物でも狩ってくるか——皆の者はここで休憩していてくれ。私は魔物を狩ってくる。ケヴィンこの子の面倒をみてくれるか?」


 部下の中でも若いケヴィンに声を掛ければ、ケヴィンは声が裏返るほど怯えた声を出す。


「じ、自分がですか? その……隊長には懐いているようですが、自分にそれの世話は……」


「何も取って食われるというわけでもないだろう? こんな小さな女の子に……。じゃあ行ってくるよ」


 フロレンツが部下の悲痛な声も無視して歩き出せば、幼女はフロレンツの服の裾を掴み、見上げてくる。


「どうしたの? 心細いのかい?」


 幼女はコクリと頷き、フロレンツの服の袖を離さない。

 フロレンツはしょうがないなと言いながら、幼女を抱き上げると、部下たちに告げる。


「この子も連れて行く事にしたよ。お前たちは待っていなさい。この森にはそんなに強い魔物は出ないだろう」


「いや、あなたの肩に一番強い魔物が乗ってますよ……」


 部下たちの呟きはフロレンツの耳に入らなかった。



「んー。ラビタントとかなら食べれるかな? 後は意外とフログルも珍味で美味しいんだよー!」


 ウサギとカエルを思い浮かべながら幼女を肩に森を散策して行く。


「お、ラビタントのお出ましか!」


 見るに10羽ほどのウサギの群れがこちら目掛けて攻撃してくる。何か怯えたようにこちらに向かってきている気がするが、フロレンツは深くは考えず、剣を薙ぐ。


「ヒーフーミーヨー。よし9匹か。上々」


 フロレンツはさっと収納袋に血抜きした魔獣を詰めると、次のターゲットを探しに行く。

 何故か少し歩けば魔物たちがこちらに攻め入ってくる。


「ここの森魔物増えたのかなー」


 フロレンツは剣を振るいながらそんな事を考えていると、横槍が入った。

 蜂の魔獣たちの群れだ。毒針をこちら目掛けて飛ばしてくる。

 フロレンツは一歩下がると狸の群れを薙ぎ払い、蜂たちに相対する。


「ビーンズか……面倒だな。1匹、1匹相手はしてやれないな……」


 そういうと、毒針を払いつつ剣に魔法のイメージをした。


焼却インシネレーター


 剣先から炎が飛び出すと数百いたであろう蜂たちが一気に燃え上がって炭となってしまった。


「毒は解毒薬にも応用の効く素材なんだけど、数が多すぎたからね……。まあ今回はこれでしょうがない」


 フロレンツは狸をしまい、また歩き始めた。

 ざっと鹿など大型の魔物も含め50匹くらいを狩ると元の陣営へと戻る。


「これから美味しいご飯だ。いっぱい食べるんだよ!」



 フロレンツが腕をふるい、部下たちの分まで今晩の夕食を作った。中でも腕によりをかけて作った熊肉のシチューを幼女に食べさせてあげる。


「ほらデスベアのお肉で出汁をとったスープだよ。カウスキムの乳も混ぜてあるから食べやすいよ」


 フロレンツは熊肉を幼女に食べさせると、幼女の口にお気に召したようで、パクパクと食べ始めた。

 フロレンツは微笑み、満足した。


 次の日の朝起きれば幼女は少しガリガリだった体が、年相応の肉付きになっていた。


「いっぱい食べてたからね。良かった。まだ昨日のお肉余ってるからいっぱい作るね!」


 喜んだフロレンツがホイホイと朝食を作っていれば、騎士達がコソコソと話し始める。


「あれ絶対レベル上がってますよね……」


「ああ、幼体から亜生体まで確実にな……」


「あの竜を置いてかれるのもまずいですが、隊長が連れて歩くのもまずいですね……テイムしているという事は経験値も入るでしょうし、魔物の肉をあれだけ食えば力も吸収しますよね」


「はあー。隊長の幻覚はいつまで続くんだ……」


「だいたい自分では肩車してるって言ってますが、竜が隊長肩の上に顔を置いてバッサバッサと飛んでるだけじゃないですか」


 そんな騎士達の声が聞こえたのか子供の竜は形態を変えて、肩に乗れるほどの竜になった。


「やばいっす。俺たちの会話聞かれてましたね…そしてレベルが上がって変化覚えてますよ」


「ああ、だが、あちらの方が我々も隊長に近づきやすくていい」


 幼女がニヤケながら騎士達を見ているのが目に入り、フロレンツは勘違いをする。


「あれ、君は彼らの事に興味があるのかい?じゃあ後で出発の準備が整う間遊んでもらうといいよ。僕も忙しくなるからね」


「た、隊長?」


「ま、まさか……」


「え、まさかって出発の準備が終わるまで遊んでくれればいいよ。命令がきけないのかな?」


「ひいーこんな時に命令ですか? 御意にー」


 元気に騎士たちの元へと走り出した幼女を見て、フロレンツは満足げに微笑み。


 出発の準備をした。今日の夜、砦に奇襲をかけるのだ。

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